第11話 グッドバイ・ハロー・そりゃないよ!

 

 それから俺達は駐在所まで行って、警察を呼んだりと大変だった。

 店の中は荒らされていて、食料品が盗まれていたのだ。

 ただ盗まれていたというよりは、食い散らかされた……というべきか。


 お婆さんは足と腰辺りに、刃物で切られたような切り傷と打撲。

 

 お婆さんの話では……就寝していたが、水を飲もうと起きたら暗闇のなかカサカサと音がして何かに襲われたという。

 朝方にやっと隣の町から救急車が来て、お婆さんが担架に乗せられた時だ。

 

「あっあああ、あんたが来たからだよっ!」


「えっ……?」


 俺を見て、そう叫んだ……叫ばれた。

 瞳は怒りに満ちている。


「や、疫病神がぁ!」

 

 応援の警察もやってきた時だったので、内心慌ててしまう。


「いや、俺は夕方にも買い物来て、話したじゃないですか。お婆さん」


「不幸を呼び寄せたんだよっ! 塩撒いとくれ! この! このぉ!!」

 

 駐在さんと一緒にいた時は、落ち着かせるために俺が傍にいて、背中をさすったりしていたのに……。

 救急車の音や、大勢の人で興奮したのかな?

 更に俺を犯人呼ばわりするような事も叫びながら、お婆さんは救急車に乗せられて行ってしまった。

 一緒に見送っていた警察官二人も、ため息をついている。

 

「いや~まぁ……ここいらの人って、ああだからさ。余所者には厳しいんだよね。……でも君は何しにこんなとこ来たの? 夜中に歩き回って……何をしていた?」


 一瞬慰めてくれるかと思ったのに、少し鋭い目を向けられる。


「あ、あの~。さ、酒とタバコを買いに来たんですよね! ねっ?」


 閉店時間なんか知ってるけど、とぼけて隣の男に笑いかけようとしたら、誰もいなかった……。


「あ、あれ……!?」

 

 あの男の姿は辺りを見回しても何処にもいない。

 そういえば、いつからか見ていない……!?

 どこ行ったんだ!?

 

「この辺の店なんか五時には閉まるもんだよ? まぁ都会の若い子はわからんか。ちょっと名前や住所だけ聞いておくよ?」


 結局、俺は研究で教授と来る予定だった大学生で~という事を話した。


「なぁんだ。ちゃんとした大学生だったわけね~へぇ~研究でえらいねー……毒キノコのねぇ」


 教授からは、聞かれた場合はそう話すように言われている。

 まぁ魔術に毒キノコや毒草は不可欠だから、あながち間違ってもいない。


「てっきり、廃墟巡りしてるかと思ってさ」


「廃墟……?」


「あぁ。廃校になった学校校舎があるんだけど、最近イタズラがあってね」


 空で、キィキィ何か鳴いてる。

 コウモリか……。


「学校ですかぁ……動画を誰かあげて話題になったとか?」


「いや、そんな大層なもんじゃない。スプレーで落書きしてあって村長が怒っちゃってね。騒ぐほどのものでもないんだけどさ~建物自体はもう古すぎていつ倒壊するかわからないからね。絶対に近寄らないで」


「はぁ……」


「じゃあ、婆さんの話は気にしないで。この店の荒らされ方を見ると、野犬か……猪か……猿なんて可能性が高そうだ。金に手は付けられていなかったしね」


 警察官の言うことも、もっともだった。

 店の食品は荒らされていたが、レジのお金も金庫も無事だったのだ。

 純粋に食べ物を狙った犯行に思える。


「じゃあ、もう帰っていいよ。まだこの村にいるのかい?」


「はい、あと二日程」


「そうか……でも色々言われるかもしれないから、早く出た方がいいかもうよ」


「はい……」


 なんだか疲れ果てて、俺は民宿太陽に帰った。

 朝陽が出そうになってきた、薄暗い灰色の空気。

 また煙草の匂いがして俺が見上げると二階の窓から、あの男が煙草を吸っていた。

 ちらっと下を見たけど、男は何も言わない。

 外から声をかけるわけにも行かないし、ノックするのも気まずいしそのまま自分の部屋に戻った。


「あ~……うげ」

 

 食べ残した唐揚げには、蟻がたかっていた。

 ため息をついてゴミ袋にまとめる。


「廃校舎か……」

 

 近付くな、と言われたけど気になる場所だ。

 俺はノートパソコンに今までの事をまとめて、ギリギリの電波で廃校舎の場所を調べた。

 奈津美からメールは来ていなかった。

 そしてすっかり明るくなった朝の七時。


 さて寝ようかな……と思ったら、


「悪いけど、商店の婆さんとこでなんか揉め事やらかしたんだろ? もう泊められないよ。今すぐ出てってくれ」


「え……えぁ?」


 宿の店主から理不尽にそう告げられたのだった。

 

 

 

 

 

 

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