射よ、弓道人

高山長治

序章


「パーン!」と中る音が響き渡る。瞬時に矢は弓を離れ、的を貫いていた。

 一瞬の出来事である。

 それは、動の中に静を保ち。静の中に動が躍動するのだ。何とも言えない感動が、胸を覆い尽くす。一秒の長さ、一秒の瞬間が目まぐるしく展開する。この変化がたまらない。

 その道を、人は弓道という。

道場内の静寂を破り、一直線に飛んで行く一瞬の出来事である。まるで時間が止まったようであり、その弦音と的に当たる聖音が、両腕と脊柱による縦横十文字から発した雄叫びのようだった。

その放った弓道人は余韻の残る残身から、ゆっくりと両腕を腰に戻した。そして、鋭い視線の顔が的から離れ、正面に返って行く。長い時間が過ぎたように、その顔にある視線が、元の穏やかな輝きをたたえる眼差しになる。と同時に、その響きがたおやかに両腕から脊髄を通して脳内へと伝播していた。

その速さはとてつもなく短く、そしてとてつもなく長い。一瞬なのかもしれない。俺にはその長短を測ることが、いや、見定めることが非常に難しく感じることすらあるし、逆にいとも簡単に肌で受け止めることも出来る。

一射ごとに受ける感覚は微妙に異なる。ある時はその一射に全霊をかけ、魂をより一層注入して射ても、まったく異なった結果をもたらすこともあるのだ。そんな一射に、一喜一憂の心をときめかす。今も、放つ弓道人の手元を離れた矢が、甲高い音を発して的に的中していた。

何本目か定かではないが、その弦音は胸の奥へと染み込み、幾重にもなった余韻の輪が交差し合い、そして静かに残影を残し消えて行った。ふたたび弓の弦に矢を番え、ゆっくりと打起し、胸を開く目一杯の引き分けを行なう。頂点で妻手の捉えていた矢が弦から離れ、的に向かって飛び出して行く。と同時に、弓手の弓がくるりと弓返りしていた。

弓道人たちにとって、弓道場は新鮮な場所であり、弓道の神様が司る聖域となす。そこに集う我らの一射入魂こそ、最も大切にしなければならない。そんな思いを胸に刻んで日々稽古に励む。それが真理であり道理である。

平常心で臨むこと。それは容易いようで難しい。弓道と言う技に果敢に挑戦する姿こそ美しいものだと思う。  

まあ、そんなお堅い話は終いにして、そろそろ本題に入ると致しましょうか。




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