〇第三十一話 呪術師は真相を知る
刹那、楽しそうな笑い声が響いた。
「雛子ちゃん、この
さらに俯いたクロの様子と京極薫を見て、雛子は瞬時に察した。
「あなた、クロを裏切るように仕向けたのね?!」
「やだなあ、人聞きの悪いこと言わないでよ。僕は何もしてないよ。こいつから話を持ち掛けてきたんだからさ」
《やめてくれ》
クロが呟く。京極薫は大げさに顔をしかめた。
「なんだよ、今さらカッコつけたいの? こうなったからにはどうせバレるんだからいいじゃん。静だって、たぶんとっくに気付いてたんじゃないかなあ」
何を言っているのと思いつつ、雛子は何も言えない。クロはなぜ俯いているのか。なぜ京極薫と知り合いなのか。
「こいつはね、最初っから、雛子ちゃんが登場する前から、静を裏切ろうとしていたんだよ」
「そんな……」
「こいつは、もうずいぶん昔から、静のことを憎んでいるからね」
「そ……そんなのデタラメよ! だってクロは妖火を守ろうとしていたし、さっきだって静とあたしを助けに来てくれて」
「まあ嘘だと思うなら、後でゆっくり猫鬼に聞いてみなよ――僕のオフィスでね!」
京極薫が、何かを空中に向かって投げた。
部屋の薄闇に舞う、白い短冊。
奇妙な文字と印が見えた瞬間、それが空中で青く燃えた――刹那。
「あっ!!」
地面が揺れて回り、またあの感覚に襲われる。
風景が反転した。
あの地下牢から出てきたときのような、目の回る感覚。立っていられずに雛子は地面に倒れ込む。地の底へ引きずり込まれるような感覚が襲った。
必死に顔を上げて抗おうとしたそのとき、割れた窓ガラスの外から怯えて、しかし心配そうに見ている小さな二つの妖の影を、確かに雛子は見た。
(一つ目小僧と座敷童……よかった、無事だったのね)
あの二匹はここに引き込まれませんように――そう祈りながら、雛子の意識は現実から遠のいていった。
◇
京極薫と雛子が消えた後、クロは身じろぎもせず、その場に
どれくらい経ったか、静寂の中に突然、炎の
静の後頭部で、何かが燃えて、宙を舞っている。
それは、何か文字と印の書かれた白い短冊だ。
京極薫が貼ったその
「やはり、おまえだったか」
底冷えのする声に、クロは顔を
《呪力を封じられているのに、自力で
「おかしいと思っていた。あの時――最初に、社の結界に裂け目が入ったときから」
クロは静を見上げた。
「俺の施した結界に裂け目を入れることができる術師など、
静は、クロをじっと見た。
あの日から長い間、共にいた
「なぜだ。なぜ裏切った、猫鬼。なぜ、五術師教の式神使いを手引きした? なぜ《最後の妖火》を薫に渡そうとした!」
地の底から響く怒声に、クロは身を縮めて呟いた。
《おぬしにはわからぬ……半分ヒトであるおぬしには……!》
「……!」
半分ヒト、と言われ、静は凍り付く。
ハチミツ色の目が、じっと静を見上げた。
《おぬしには、わからぬのだ……我ら妖の苦しみが。あの時もそうだった。なあ、静よ、
クロは念を押すように問う。静は思わず目を逸らした。
「……そうだ」
《ならばあの時、なぜ主様を救わなかった? なぜ紅蓮の炎の中に置き去りにしたのだ!》
静は仮面の表情を保ちつつ、声が震えないようにクロに問うた。
「猫鬼。おまえはずっと……そんなふうに思ってきたのか」
《主様がおまえに最後の妖火を託したことは知っている。でも、でも……あの時なぜ、主様が
クロの悲愴な叫びに、静は身動きできないまま、天井を仰ぐ。
あの時とは――大正二年、十二月の夜。
その記憶が、静の中にまざまざと
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