ポルシュとエイブラムス


 ここで時間はしばし巻き戻る。

 ポルシュとロイは技術担当としてV中BAR事業に参加していたが、彼らは自分たちの夢を忘れていたわけでは無かった。


 そう、ドワーフ戦車「エイブラムス」の建造の事だ。


 目本の技術で作られた「キングチハ」は確かに協力だ。

 しかし弱点があることも明らかだった。


 ポルシュは美術さんとして裏方仕事をしながらも、そのことが片時も頭から離れることは無かった。



 ふう、ひとまず看板はこんなもんでいいかな。

 作業がひと息をつくと、すぐにあのことが思い浮かんでしまう。

 そう、「キングチハ」の未解決問題についてだ。


 ファーザーの工場で機人そっくりの連中と戦った時、キングチハの車内で大きな問題になったのは、索敵と標的捕捉だった。


 まず戦車というものは、その全体を装甲で覆われている。

 それゆえに外を見る覗き窓は、最小限の大きさのものしかない。


 当然だ。外を見るための窓には装甲を設けられない。

 窓を大きくすれば、視界は良くなるが、その分弱点が大きくなることを意味する。

 そのためキングチハの視界は、ごく限られたものとなっていた


 想像してみてほしい。

 君が真っ暗なダンボールの箱に入って、持ち手になるほんのちいさな切り抜きの部分だけで外を見ている時を。あの状態で生死をかけた戦争をするのだ。


 無数の銃弾が装甲を叩き、いつ致命的な弾丸が飛んでくるかわからない。

 戦車の車内にいるときのストレスは相当なものだ。


 だが迂闊に外を覗くわけにもいかないのだ。窓は狙撃の標的になる。


 現にファーザーの手下たちとの戦闘でも、車長の座るキューポラ周辺には相当数の弾丸が叩き込まれた。防弾ガラスは戦闘に突入してからすぐさま致命的な損傷を受け、監視もそこそこに車内に引っ込まざるを得なかった。


 索敵を効率的にすれば、より戦車としての性能向上が見込める。

 しかしそれには視界の確保が必要となる。


 つまり防御力の低下を引き起こす、そうなればもちろん全体の性能も下がる。


 イラつくぜ……。

 視界を良くしなきゃいけねぇってのはよくわかる。


 戦車ってのは、前と後ろすらまともに見えねぇからよぉ~~~?


 だけどそのために、装甲弱体化しなきゃいけないって、ダメだろ!

 どぉ~~いうことだッ?!

 クソッ!クソッ!


 どうしようもねぇ事を前にすると、超ムカツクぜッ!


<ガン!バンガン!ガン!バン!>


 技術的問題にぶち当たったポルシュは、常人の3000倍のストレスを受けてしまい、たまらず作業が終わったばかりの看板をボコボコにする。


「しまった、またやってしまった……」


「もぉー、しょうがないッスね!ポルシュさんは手伝ってるんだか、破壊工作してるんだかわかんないッスよ!!」


「ご、ごめんなさい」


「ンッンー!トラブルですかな!!」


 ポルシュとロイの作業場に現れたのは、シュークリームの箱を持ったチャールスだ。イギニスの事を思い起こせば、厚顔無恥にもほどがあるが、彼は平然とかつての敵と親しげに付き合っている。


 だがこれがイギニス人というものなのだ。

 ビジネスの為であれば、かつての敵とも手を結ぶ。


「問題ないッス!ポルシュさんのいつもの『アレ』ッスから!」


「ン!そうでしたか。いやはや、あれが実に具合よく動いていたので、感謝の言葉と差し入れを届けに参った次第ですぞ!」


「あれって?」


「ッス!遠隔操作カメラの事っすね?」


「ンン!!左様です!!V中BARスタジオは狭いので、カメラマンを入れるわけにはいかないのですぞ!それに視聴者はシスターミリアの他にスタッフがいるのを嫌がりますからな!」


「なるほど、それで遠隔操作を……方法は?」


「ゲームのコントローラーがあるじゃないッスか、あれを流用して作ったッス!」


 ん……なるほど、カメラの方向とコマンド入力ができるからそれは正しいな。


 方向を変えるには十字キーで指定してやればいいし、ボタンがあれば、ズームにしたり、モードを切り替えたりできるな。


「ロイさん!!もっと詳しく聞かせてもらって良いですか?!!!」


「いまはドッキリ用にライトとかギミックと組み合わせられないか考え中ッスね!!ほら、電気系統を接続してトリガーに」


 そう、トリガーだ!!

 カメラを武装とリンクさせて、偵察と攻撃を兼ねた……!!


「ロイさん!!やはり貴方は天才だ!!こうしてはいられない!!そのカメラ、貰っていて良いですね?!OK以外の返事は聞きません!!ガレージに行くので後はよろしく!!!!」


 ポルシュはドタドタドタと音をさせて、スタジオの予備基材をさらっていくと、「キングチハ」が駐車されているガレージへと走り去ってしまった。


「ンン!まるで台風のような方ですな!!」


「……ッスね!!なんか面白くなりそうなんで、後はよろしくっす!!」


 ロイはチャールスからシュークリームの箱を奪うと、工具箱を持って、ポルシュの後に続いてガレージに向かってしまった。


 ひとりスタジオに残されたチャールスはダージリン!と奇妙な哀愁のこもった叫びをあげ、一人山積みにされている編集作業に取り掛かるのであった。


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