正義の戦い

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 シスターミリアのPVは、まずV中BARを中心として放映された。


 そしてラメリカの人々は、まずそのクオリティに驚かされる。


 たった10分の映像。その中の1分のシスターミリアに人々は釘付けになり。ある物は恋をし、あるものは励まされ、またあるものは崇拝に近い感情を得た。


 無論、ラメリカの人々はテレビに慣れ親しんでいる。


 昼休憩にはヌードルを啜りながらニュースを見るし、仕事が終わって家に帰れば、夕飯を取りながらTVショーを見て、今日あったことを面白おかしく知る。


 人が画面の向こうで動いているのは日々、ドラマやニュースでみることがあるし、ダンスをする映像だって見ることができる。


 なぜアニメイションがここまで驚きと感情を持って迎えられたのか?

 それはアニメイションと実写の根本的な違いにある。


 アニメイションと実写の違いは何か?


 それは見ることが難しいものや、存在しないものを描き出せるという事だ。


 例えば、体内や脳内で起こっている事を、実写で表現することはできない。

 まさか解剖してうごめいている内臓を人々に見せるわけにもいかない。


 つぎに現実には存在しない抽象的なものを描き出すのもアニメイションは得意とする。数字やシステム、そして……感情。


 そう、手に取って見せることができないものを見せられるのが、アニメイションの最大の強みなのだ。


 言い換えれば、アニメイションは精神世界の表現と摸倣が可能なのだ。


 そう、パヤオの作ったアニメイションは、シスターミリアと世界の美しさといったとても抽象的なものを人々が見れる形にしたのだ。


 人に魂の形があるなら、それを切り取ってアニメイションにして見せる。

 パヤオはたぐいまれな才能を持ち、それを為し得た。



 ――しかしこれを快く思わない者たちがいた。

 そう、非営利団体だ!!


「てめぇら……!!!『俺らの言う悪』から目を逸らすのは『悪』にきまってんだろ!!!」

「お前らはぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」


「お前らクズが人間になりたいならぁぁぁぁぁぁぁ!!!シスターミリアのビデオや絵、その全てをこの炎の中に投げ込め!!!」


 街角で大声をあげて訴えるのは、ピースワンの「ワラ人形のルビー」だ!


 正常会最強の論客たち、ピースワンは人々に「正しい」行いを教えようと必死だった。昨今、非営利団体を離れる者が後を絶たないのだ。


 こういう時にすべきことは何か?祭りだ。

 炎をあげて祭りを行い、団結を意識させるのだ。


 中世の魔女狩りのように薪をつみあげた彼らは、はじらうミリアの絵がプリントされた抱き枕を十字架にはりつけにし、その根元に「蹴るぞ!ミリアちゃん」の新装版やビデオテープを積み上げさせた。


 このグッズ類は、もちろん買ったものでは無く、商店を襲撃して奪ったものだ。


 不道徳な品に金を払うなど、非営利団体はそんな理不尽なことには従わない!

 これは「窃盗」ではなく、「危険物の確保」でしかないのだ!!


 なのでここに一切の不法は無い。無論、彼ら的にだが。

 

「おらぁぁぁぁぁぁぁ!!!燃やせぇぇぇぇぇぇぇ!!!」


「コノ物ハ悪魔的ダ!悪魔ニ支配サレテイルゥゥゥ!!」


 そこに、ずだ袋を被り、血まみれに見える革エプロンを身に着け、チェンソーを携えた者が現れた、どうみても猟奇殺人者にしか見えないが、違うのだ!!

 彼は正常会の主席エクソシスト「チェンソーマン」だ!!!!


 彼は聖なるチェンソーのスターターを回すと、正義の刃が高速回転を始めた!


 その刃の一つ一つが正義の言葉で祝福された聖なるチェンソーは、この主席エクソシストのみが振るう事を許される、最強の聖なる武器なのだ!


<ヴィィィィィィィィン!!!!!><バリバリバリ!!!!>


 正常会の主席エクソシスト「チェンソーマン」が、回転する刃を振り回し、ミリアとデドリーがハグしている看板を斜めに切り裂く。


 彼の熟練の技とでもいうべき、見事なチェンソーさばきが光った。


 薄い合板にしか過ぎない看板は、聖なるチェンソ―の刃の前には相手にならない。

 まるでバターのように切り裂かれた!


 正常会の主席エクソシストはこうやって異端のグッズをチェンソーやくぎ打ち機、コンクリートミキサーなどの工具で破壊することを任務としている。


 正常会の武をつかさどる部分であり、エクソシストは非営利団体のなかでも、最も恐れられる武装エリート集団なのだ!!!


<ブォン!バババババババ!!!!>


「ヌォォォォ!!!!セイギ……シッコウゥゥゥ!!!!!」


「やっぱ『チェンソーマン』の悪魔祓いは最高だな……!!!」

「正義の戦いって感じがするぜ!!!」


 「言葉狩り」のロロの喜びの声にルビーは喜色を持って同意した。


「ああ……!!! やっぱり仲間ってのは最高だよな!!!」

「俺は仲間に助けてもらわねェと、生きていく自信がねェ!!!」


「「ククク……!!!」」


「「こうでなくっちゃなぁ……祭りはよぉ……!!!」」


「「もう止めろぉ!!!」」


 その時だった。彼らに向かって、一人の少年が叫んだ。

 彼はその手に、ミリアを象ったかわいらしいヌイグルミを持っていた。


「そんなことしちゃ、駄目だよ!!」

「なんでみんなが好きなものに、そんなひどいことができるんだよ!!」


「お前さんは……まだ子供だから『正しい』ことが解らんのだな」


ヨンジはドスの利いた声と肉食獣のような鋭い目で少年を睨みつける。


「ヨンジの言うとおりだ。俺たちの『正しい』知識と『ふさわしい』考えを身に付けないとな……そうだ、キミにこれをあげよう」


 ルビーは懐から手垢にまみれた『黒旗』を少年に差し出した。


「これは俺が、『弁論王』を目指すきっかけになった『正しい本』なんだ……ッ」


 しかしその『黒旗』は少年の手によってパンっと弾かれ、地面に落ちた。


「そんなのいらないよ!!」

「正しい正しいって!!そればっかり言って!!何もきいちゃいないじゃないか!」


「本当は中身なんかなくて、暴れたいだけじゃないか!」


「人の好意を踏みにじるっていうのかよ……!!!それでも……てめえは人間かあああああああああああああああ!!!」


 ルビーは激高して叫んだ。

 しかし少年は怯まなかった!


「駄目なものは、駄目なんだ!!」


「ウウウウウウウウ!ソノ魂!悪魔ニ支配サレテ、イルゥゥゥ!!!!!」


<ヴィヴィヴィーン!ヴォヴォンヴォーン!>


 主席エクソシストが手に持った聖なるチェンソー、そのエンジン音の唸りの長短でモールス信号を発した。すると周囲のものたちが、少年を取り囲むようにして次第にその包囲の輪を狭めていく。


 彼らは言葉を狩り、本を焼き、次にもっとより直接的な者を燃やしたがっていた。


 ――そう彼らに反対するヒトそのものだ。


「焼け!焼け!焼け!焼け!」


「焼けええええええええええ!!!!」


――――――――――――――

ラストが近いからって好き放題してます

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