弁論王との戦い
キャンプファイアーの間近で<バン!!>と弾けたスタングレネードは、レッツパーリィしていた武装パリピ共を、ことごとく昏倒させる。
「ウワァァァァァ!目が!!目がぁぁぁ!」
「耳がぁぁぁぁ!!!」
「……驚いたな、お前らに目や耳が付いてるとは思わなかった」
俺は少年を拾いあげると、彼を母親らしき女性が手を招いていた建物に避難させた後、正常会の連中へと向き直った。
その間にスタングレネードの効果から回復した連中は、テクテクとキャンプファイアーのところに戻ってきた俺を、輪の形で取り囲む。
あ、なんか懐かしいなこの感覚。
「これは暴行、言論弾圧だ!!間違いなく死刑だな!!」
「ヒャッハァー!正しく死ねぇ!機人ー!!!」
俺を取り巻いた暴徒は自称「正しい武器」である木の棒で殴りかかって来るが、そんなものは当然、金属の体の俺には通じず、ぽっきりと折れる。
(しょうがない。非常に
(Cis. 普通にやっちゃっても大丈夫だと思いますけどね?)
「……おや、正しい武器が折れたな?つまりこれは私の方が正しいという証拠だ」
「な、なんだと?!」
「……正しい武器が私に破壊されたという事は、その武器は正しくなかったという事だ。つまり私が正しい」
これはナビさんから学んだ詭弁のひとつだ。
「人には水だけあればよい。何故なら生物に水は不可欠だからだ」という前提が誤っている時に成り立つ種類の詭弁だ。
これは連中が「正しい武器」と言うインチキを振り回してるからこうなる。
完全な自業自得で起きる論理破綻だ。
「正しい武器が通じない機人は正しい……?!そんな、ウワァァァァァァー!!」
正常会の連中は、まるで人格崩壊を起こしたように叫び出した。
……えぇ……なんでぇ?
「ウゥゥゥ!!!正シサ……正シサガホシィィ!!!!」
「モット……正常ニナリタァイ!!!!」
連中はもがき苦し始めた。なんかやばい薬とかやってない?
大丈夫?
(機人様、恐らくこれは『正義中毒』です)
(なにそれ?バカ?)
(いえ大真面目です。とある国家に、ある目的を達成するために改造された人類が存在しました。確証は無かったのですが、この症状は間違いないでしょう)
(知りたくない気持ちが9割9分だけど、ナビさん、もっと詳しく教えて?)
(Cis. あれは「正義
(遺伝子に刻まれた『社会正義』に適合した行動をとると、脳内に別名、愛情ホルモンとも呼ばれるオキシトシンを強化した強力な麻薬が分泌されます)
(メチャクチャやべー生き物じゃねーか!!!!何でそんなもん作った?!)
(とあるカルト団体に乗っ取られた国家が、その団体がのたまう世界平和と平等国家を夢想して作り出したらしいですよ)
(クッソ面倒なもん残しやがって!完全にモンスターじゃねえか!!)
ナビさんの爆弾発言に突っ込みが追い付かなかった。
ここ最近、完全に油断して忘れていた。
俺はそもそもこの世界が、完全にお狂い遊ばせている事を忘れていたのだ。
「うるせぇ!!!お前がそんなこと決めんな!!!」
<ドォォン!!!!>
周囲を一喝して動きを止めさせたのは、このパーリィを主導していたっぽい、奇妙な恰好をした三人組だ。
三人組……あっ、バーガー屋のおっちゃんが言ってた、やべー奴らか?
「俺は知ってんだぞ……お前が弁論王になりたいのを!!!」
「弁論王になるのは俺だ!!!」
ほう、「弁論王」という単語は聞いた覚えがある。
どうやらそうっぽいな。
さて、手ごわい相手らしいが……どう来る?
「……」
「……」
「……」
「……」
(いや、来ないんかい!!何か喋れよ!!!!!!!)
(Cis. 機人様、お気づきになられませんか?)
(ん?何が?)
(彼らの使う詭弁は、言葉狩りや揚げ足取り。つまり相手が先に口や手を出さないと何もできないのです。彼らはどうあがいても先手を取れないのですよ)
(あっなるほど)
(しかしそろそろしびれを切らしそうですね?)
「おまえが弁論王になりたくないって言うのなら、俺がなる!!!」
「俺は弁論王だから、絶対に正しい!!!なりたくないお前は『悪』だ!!!」
(はい、あとは好きに料理すればいいかと)
(オッサンキュー、だな)
「……ほう、その弁論王とやらは何なのだ?」
「……弁論王は、絶対にどんな議論にも勝つ、最強の正義の人だ!!!」
<ドォォン!!!>
「……議論に勝つのが最強の正義の人で弁論王。で、お前は今、弁論王なのか?」
「そうだ!!!」
(最強の正義の人=弁論王、ふむ……崩しどころがあり過ぎて逆に困るな。何もかもが雑過ぎる。前提はそのまま利用して……こうしてみよう)
「……では弁論王は悪だな。最強の正義の人は絶対に議論に勝つ。弁論王はいかなる議論にも勝利しなければならない!」
「――そう、弁論王は『弁論王は悪だ』と言う議論にも必ず勝利して、
「……弁論王が悪ならば、弁論王のお前は悪だ」
「俺が、悪、アク、アクゥゥゥゥゥ???!!!!!」
三人のピースワンは頭を掻きむしり、身もだえして苦しみ始めた。
なぜか知らんが効いているぞ!!!!
一方、正常会の一般会員は、じっとキャンプファイアーを見つめていた。
あ、なんかやばそう。
「悪を焼く浄化の炎は……」
「「「常ニ正シィ!!飛ビ込メ!!!!」」」
あっと声を発する暇もなかった。
悪書を焼いていた「聖なるキャンプファイアー」に、正常会の連中は頭から突っ込んでいった。燃え上がり、たまらず悲鳴を上げて出てくる者もいたが、周りのものが棒で叩いて無理やりに押し込んでいく。
……何この地獄絵図。
「私ハ……タダシイィ!!!」
ずだ袋を被っていたチェンソー野郎は、なんかしらんが自分の首にチェンソー押し当ててダイナミック斬首を始めてるし……もうやだこの世界。
結局一発も撃たずに正常会の連中は自滅してしまった。
いやほら、確かにあるよ?
なんかコンピューターのボスが、主人公に矛盾を指摘されて自爆するSFとか。
生身でそれをやられるとは思わなかった。
どうしよう、これ……。
―――――――――――――
そろそろ夜逃げの準備をするべきか?
もう手遅れか?
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