機人、裁判所に行く
ふう、オッサンとしてはさっさと用事を済ませて、ラメリカとは可及的速やかにお付き合いをやめて、知らんぷりするのが正しい気もするが……。
エンペラーバーガーを頬ばるミリアとデドリーのにこやかな様子を見ると、そんな気も無くなってしまう。
こんな笑顔をつくれるバーガーが「悪」というのはどうも俺の直感に反する。
といっても、それだけで連中に鉛玉を食らわすだけの価値があるかというかどうかは正直なところ微妙だな。奇妙な提灯を上げて喜んでいるだけなら、放っておいてもいい気が……?
道の先に何か人だかりができている。
いやだなぁ。関わり合いになりたくないが、裁判所はこの先なんだよなぁ。
「機人様、なにか騒いでいるようですよ」ミリアが気づいてしまった。
くっ、いつものミリアならキキキ!ヒトカスが~とかいってスルーするのに、いまの彼女は真人間だ。無視するという選択肢はなさそうな瞳をこちらに向けている。
クッ!どうしてこんなことに!白マグロめ!死してなお俺を苦しめるのか!
「……何が起きているのか、確かめるとしよう」
「はい!」「ミリアちゃんもおせっかいねぇ」
俺は人だかりをかき分けて、そこで何が起きているのかを見た。
しかし、そこにあった光景は、俺の理解を超えていた。
「人間になぁれ!」「人間になぁれ!」「人間になぁれ!」
地面に倒れた一人の中年の男を、長い棒をもった5人の年老いた男女が叩き伏せている。棒で殴られ、血を流してぐったりしている男を助ける様子は、取り囲んでいる者たちには見られない。
えぇ……ナニコレ……何?
警察は何してんの?
「……これは一体何が起きてるんだ?何故だれも止めない?」
俺が誰に言うともなく言うと、周りの者が俺の言葉に続いた。
「シッ、静かに。あんたもあいつらにぶたれるぞ」
「あの棒を持っているやつらは
正常会?ああ、バーガーショップのおじさんがいっていた、あれか?
どう見ても暴力老人の半グレの集団にしか見えんぞ?
「トムのやつは非営利団体の支配に反対するパンフレットを預かっていただけなのに……」
「でもあいつら、どうやってトムが預かっている事を知ったんだ?」
「きっとレジスタンスの中に密告した奴がいるんだ」
「まさか?」「いやそんな」「うそだろ?」
ざわ・・・ざわ・・・
「ふん、これが連中の目的さ、暴行の恐怖は俺たちを酸のように
いや、格好よくいってねぇで助けろや!死んじまうぞ!
前へ出ようとした俺を周りの者が止めようとする
「やめとけって、面倒になるぞ」
「……彼を助けなければ、次はお前たちが殴られる番になると思わないのか?」
「それは……」
「……動きたくなければそれでも良い、しかし彼はどう思うかな?」
はっとした様子の人々。
まだ良心は死んでいないようだが、棒の前に立つ勇気はないと言った所か。
「……もうよい、我が行く」
俺は棒で叩かれている人のところまでズンズンとすすんでいく。
すると叩いていた連中はギョッとした様子で俺を見上げた。
機械の体と俺とでは、上背が全然違うからな。
首が痛くなりそうな感じで見上げている。
しかしどうしたもんだろな?
ここでいきなりミニガンでレッツパーリィはちょっとな。
(口から出まかせで何とかなればいいのだが)
(それでなんとかならなかったから暴行しているのでは?)
(それもそうか)
「……そこをどけ」
「あぁん?!ワシらはこいつを真人間にしとるんじゃ!」
「そうよそうよ!アタシたちはこの悪人を人間にしてるんだから!」
うーん頭が痛くなってくる
「……そうか、じゃあ彼を連れて行ってもいいわけだな?」
「何よ!横暴よ!あんた何様よ!」
「機人様です!」というミリアの声を聞いた連中はさっと青ざめる。
え?ラメリカで俺ってどういう扱いなの?
「きききき機人?!あの目本の戦車一個師団をフンッってするだけで壊滅させたという、あの機人?!」
「あのムンゴルの10万の軍勢を滅ぼしたという?!行く先々の国を滅ぼして回っているという、あの機人か?!」
「まて皆!!機人は悪人はころさないというぞ、つまり我々は殺されない!」
「そうか!ならばぶっ殺しちまおう!!奴は我々に手を出せない!」
……いや、どうしてそうなる?
その我こそは正義の自信は一体どこから来るんだ?
「ほう、ではお前たちが『悪』ではない証拠を見せてもらおう」
棒をトムという男性に振り回していた連中は、俺になにかのカードを見せる。
ん?マイ・ジャスティスカード?なんだこれは
「我々の正義を証明する正義のカードだ!このカードがあれば免罪符として機能して、全ての殺人、強盗、放火、器物破損は正義執行の手段となるのだ!!」
「……はぁ?」
「そうだ!我々は国家が対処できない悪に対処する非営利団体、正常会だ!」
「政治家や企業の操り人形の国家は信用できない!」
「「そうだ!!!」」
「だから我々は国家を超越した組織として人々を総括するために行動する!」
「うむ!我々が国の代わりをするのだ!国は信用できないからな!」
「そうだ!正義のために!!正義の機人ともあろうものが、正しい行いをしている我々を傷つけるはずがない!」
なんか頭が痛くなってきたぞ?国が信用できないから、国の代わりをする?
国家の中に国家つくってんじゃねえかそれ。
国家否定してミニ国家作ってるよこの人たち。
「では、その正しさを一体誰が保証しているのだ?」
「国だ!正確にはカイデン世界大統領だ」
「ほう、国家は信用できないと先ほど言っていたな。それなのにお前たちは、国が保証する正しさを信用するのか?」
「そ、それは……!」
「ま、まて!機人……様!こ、こいつは我々非営利団体を批判したパンフレットを、家に大量に備蓄していた。つまり悪だ!」
「……さっきの質問に答えていないぞ?それは別の問題だろう」
「だから、正義カードもある!これは正義を証明している!なぜわからないのだ!」
「……だからそれの保証はどこにあると言っているのだ」
どこからともなくファンファンとサイレンが聞こえてくる。
ようやく警察のおでましか。
「「どけどけ!暴行の罪で逮捕する!!」」
「よかった、こいつらを――」
ガチャリ、と手錠が俺の
……うん?
まあ、腕じゃぜんぜん手錠の直径が足らないからね。うん、しかたないね?
指に手錠をかけるのも仕方ない、うん。
普通に指を下に向けると落ちると思うけど。
「機人だな!おまえはラメリカ合衆国に手配されている!!いますぐ裁判所に出頭して正当な裁きを受けろ!!!」
えぇ……えぇぇ……?
「機人様!」
「……まあ、手間が省けてよかったと思うことにしよう」
本来は車で護送されるはずだが、乗用車に俺の体が乗るはずはないので、普通に歩いて裁判所に向かう。
思ったより最悪の状況かもしれん。
いやまだだ、まだマルチミサイルやミニガンをぶっ放す状況ではない、とおもう。
正直異常な事態が続きすぎて、ぶっ放すタイミングを逃しただけだが。
まあ落ち着こう。まだ慌てる時間じゃない。
ラメリカバーガー屋のオッサンのようにマトモな奴がいるのは解っている。
もし裁判官がそうでなければ?
そうなったら最悪の場合だな。その時は……ぶっ放すか。
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