形而上バーガー
「まずうちのおススメは、この『
「名前だけだとよくわかりませんよー!」
俺はミリアの言葉に続いておじさんに聞く。「……そうだな、現物を見せるかもっと詳しく説明してくれないか?」
おじさんはカウンターに、何ものっていない空の皿を置いた。
「これが『形而上バーガー』だ、召し上がれ」
「……ん?」
「おっと失礼、こいつはつまり、『食事』という感覚を超越した、食という経験の外にある味覚を味わってもらうバーガーだ」
「つまり何も無いんじゃ?」
「そう、なので次にこちらを用意する。これは『ふつうのバーガー』だ。このバーガーと『形而上バーガー』が対比されることによって、味が完成する」
「つまり、有と無を比較することによって、無世界的主観から真の姿を見出す。これが『形而上バーガー』だ。あ、普通のバーガーは食って良いぞ。オマケだから。」
……つまり、普通のバーガーを出すために、あれこれと理屈をこねて、空っぽの皿をお出ししてるだけじゃねーか?!
「「まわりくどすぎる!!!?」」
「今ラメリカで普通の料理を出そうと思ったら、こうでもしないと出せないのさ」
「……苦労してるんだなぁ」
「わぁ、普通のバーガーおいしいですね!肉汁がすごいですっ!」
「ラメリカに来てうちのバーガーを食わないなんて、ラメリカに来た意味がないってもんだ」
おじさんは誇らしげに腕を組む。あ、ラーメン屋とかでよく見るポーズだ。
飲食店のおじさんってなんでみんなこういうポーズとるんだろうな。
まあそれはそうとして、ラメリカがどうなってるのかは大体解ってきた。一般の人たちも、屁理屈には屁理屈で返して抵抗し、しぶとく生き抜いているんだな。
「……ラメリカの人たちは、おじさんみたいに、屁理屈に対しては屁理屈でもって、レジスタンス活動を行っているのか?」
「ああ、そうでもしないとこのラメリカではやっていけねえぜ」
「なんだか……普通にしてたらいいのに。やるだけ損じゃないですか」
「だが、そうもいかねえんだ。いまラメリカじゃあ政府から認証を受けた非営利団体の『正常会』っていう連中が暴れている」
「……非営利団体?なんだそれは」
「まあ、ようするに俺たちに『正しい生き方』というやつを、無償で有難くもご教授してくださる団体だ」
「はぁ、なんか『無償で』っていう所がかえってうさん臭いですね」
「ですわね?これまでの話を聞いていると、とても文字通りには受け取れませんわ」
「ああ、連中は海賊だ。襲うのは船ではなく、人々が使う言葉だけどな」
(言葉狩りをしてるってことか?なんか前世でもあったなそんなの)
(しゃべった言葉の一部を切り取られ、歪曲されて人格否定される事は、政治家にはよくある事ですが……一般人にしてどうするんでしょう?)
「一番危険なのは
なんだその、なんだ?ネットの海を大航海してそうな連中。
「特にワラ人形のルビーは、『弁論王』なんて言われている。相手がする話を伸ばしまくって論破する、ゴムゴム論法の使い手だ。目を付けられないように気を付けな」
「……なるほどな。外でする他愛ない世間話にも、これから気を付けるとしよう」
(これは面倒くさそうだな。関わり合いにならないに限る)
(しかし、機人様がそういったあとに、関わり合いにならなかったこと、これまでありましたっけ?)
(そういわれるとなぁ……)
(ですがご心配なく、機人様にはナビがいます)
(そう言えばそうだった。そこらへんのちょっと他より頭のいいくらいの人間じゃ、ナビさんに口ケンカで勝てるやつは存在しないな)
(Cis. まあ少し言い方が引っかかりますが、賞賛と定義します)
「……あっそうだ。では店主、この形而上バーガーと、オススメを包んでくれないか?弁当として持って行きたいんだ」
「おっ、そいつぁなによりだ。ポトポトから来た機人様、応援してるぜ」
俺はバーガーが詰まったランチボックスをもらった。
どうやら一緒におじさんの好意が詰まっているようで、頼んでいないサイドメニューまで入っている。うーんこの体になっているのが残念だ。
俺にはもう食事とか関係ない体になってるからななぁ。
うまそうなものを見ても、目で味わう以外に方法がない。じゅるるる。
「おじさん、ありがとうです!」
「またきますわね」
「ポトポトの皆さんも、気をつけてな」
「……そうだ、私たちは裁判所に向かうところだったのだが、警察に道を聞くのは大丈夫か?先ほどの話を聞く限り、かなり不安なのだが」
「ああ、たしかに機人さんの言う通り、警察も今や非営利団体のいいなりだ。だれだって命は惜しいからな。そうだ、使い古しで悪いが、地図を持って行きなよ」
「……たすかる。店主も気をつけてな」
「へへっこれでも屁理屈には自身があるんだ。カカァと毎日練習しているもんでね」
「……それは確かにいい訓練になるな。……ではな。」
俺たちはバーガーショップ、「エンペラーバーガー」を出て、地図を頼りに裁判所
へ向かうことにした。なにも面倒がないと良いのだが。そう祈りにも似た感情を胸に抱いて、ラメリカの街並みを歩き始めた。
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