楽園工場へようこそ
ファーザーは無数のミサイルがその体に突き刺さり、ハリネズミのような姿になって、完全に沈黙した。
針、いや、ミサイルの正体は「AGM-988シュリケン」だ。
俺がこの世界で活動し始めたさいにつくった、三種類のトンデモミサイル。
そのうちのひとつで、オーマのお立ち台で演説していたえらそうなオッサンにぶっ放して、物言わぬミンチにしたやつだ。
シュリケン君は装甲化された機械の体であってもあっさりと貫通する。
この移動エネルギーと質量での単純な攻撃は、生半可な防御では防げない。
たとえビームローターで切り裂いても、その質量が消え去るわけでは無いからな。
いやはや、機械であってもこんな死に方はしたくないわ。
やらかした俺が言うのも大概だが。
屋上からみると、それをなしたステップイーグル君の姿が確認できる。
いやー、いい仕事してくれた。
『Cis. やっぱり忘れていたんですね?』
「……俺にも、忘れることくらい、ある!!!!」
『偉ぶる事ではありません、さて、どうしましょうかコレ?』
ちらとファーザーだったものを見る。奴が潜り込んだ機体の、ヴァルチャーから回収できるものはしたいけど、見事にぐっちゃぐちゃだな。
使えるもん、まだあるかなー?
『機人様、うかつに近寄らないように、まだファーザーの自我が揮発していない可能性があります』
「……うわっばっちぃ」
『私が良いたいのはその廃棄物に関してではありません、「工場」に関してです』
「……ああ、たしかにこのまま捨て置けはしないか」
『ええ、このまま放っておいても、目本に悪影響を及ぼします。そこで提案なのですが……』
――ナビさんが俺に語った事。
未来技術の用語がバンバン飛び出してきて、難解極まっていたが、疑問点を注意深く聞き返して、わかったことを要約すると、こんな感じだ。
ええつまり、工場の機能や設備を素材に使って、工場と同じような機能を持った、ドローン的なものをワンサカつくって、それをポトポトやオーマに提供し、一気に産業を発展させるということです。
ナビさんが提案して、やりたいことはそんな感じだ。
正直そこまでやっていいモノなのか?俺にはちょっとわからない。
そんなものをいきなり世界にぶち込んでどうなるのか……?
やばくね?
だってそれ、ミニオッサンの量産ってことじゃん。
「……それは、俺のような機人を大量生産して、友好国にばらまくという事か?」
『お察しが良くて助かります。ええ、
「……やっていいものかどうか、わからないな。ひとまずはポトポトでその者たちがどれくらいの潜在能力を持っているか図ろう。場合によっては外に出さないぞ」
『ええ、それでよろしいかと。どのみち工場をこのままにはしておけませんから』
俺たちはエレベーターを使って工場の地上階へと戻った。
ナビさんによると、このビルの殆どはなにかの倉庫らしい。
生産物をひたすらにため込んで送るための配送倉庫がほとんどで、機能部分は地上に集中しているらしい。
……いや、それ大丈夫か?
キングチハが暴れまくってえらいことになってたりしねえか?
「……案の定か」
地上階は戦場のようになっていた。
ザコ機人とガ〇キャノン、あとはお代わりでやってきたのか?脚部がキャタピラーになって、両手がガトリング銃のガ〇タンクみたいな機人までコゲて転がっている。
まあ派手にやらかしたものだ。
さすがにキングチハも無事では済まなかったようだ。キャタピラは外れ、砲は竹の様に真っ二つに割れて、破裂している。
なんで妖怪たちがこれで無事なのか不思議だったが、リューが加勢してくれたのか。人間形態でも異常な力を持っているのか、足の痕や拳の痕が残った残骸がある。
そういやあいつが地上最強生物なの忘れてたわ。コワッ!!
「ススス!チハタン量産の暁には、世界だって征服して見せるっス!!!!」
「ロイさん、まだ機人さんから頂いた借り物のパーツで動いているだけなんですから、これからですよ。あのマグネタイトをどうやって作るか……クソックソッ!」
チハタンの残骸で腰を手について笑っているロイと、レンチでキングチハの残骸に八つ当たりをしているポルシュを見る限り、無事なようだな。
いやはや、大変なことになったもんだ。
「……そういえば、ミリアはどうした?」
「機人様、ミリアちゃんはセカヘイの幹部たちを逮捕していますわ。彼らは叩けばいくらでもホコリがでますでしょうから」
「……ホコリを落としきるまで、彼らの尻が持てばいいがな」
『機人様、それより工場の件について皆様にご説明を』
「……あぁ、そうだったな、ファーザーの操っていたこの工場、ここの機能を移転する。正確には、この私の妖精がやってくれるんだが」
「ようはこの工場で使っていた道具を持たせた、小さな妖精を作って、ポトポトへと持って帰る」
「なるほど、妖精さんはシモベ妖精、ノームさんをつくるってことッスね!」
「へぇ、そんなことができるんですね!」
『作業するので、機人様の体に還りますね。この体では操作に耐えられませんので』
……ん?なんか不穏な言葉を聞いた気がする。
(Cis. ただいま戻りました、では始めるとしましょう。)
(ナビさん、今スッゲェ不穏なことアビャビャビャビャ!!!!!!)
工場の管理情報が俺の中を行ったり来たりしている。
なにこれヤバイ。
何十本の自転車のチェーンが体の中をギュルルルルル!って回転してる感じだわ。
(ほんの少しなのでガマンしてください、男の子でしょう)
(この体で性別関係ねーし!あとそれ性差別だからな!男だからってひどい目に遭って良いっていわれはねえんだよ!!!!オッビョーーー!!!!!)
(Cis. 完了しました。デザインに関しては私の趣味で行いました)
(ナビさんの趣味ィ?どんだけ邪悪な見た目なんだビャビャビャ!!!)
しばらくして、それは工場の底からやってきた。
ピンとたった三角の耳に、明るい赤茶色をしていて、まるくて、ちいさくて、かわいいやつらは開口一番、このような言葉を語った。
「「地上に楽園を、『楽園工場』へようこそ!!」」
そこはかとない胡散臭さ、ヤバそうな雰囲気を感じるのは俺だけだろうか?
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