祝!第100話 失敗は成功の母

――砂浜に上がる黒煙。

何故かよみがえった究極の駄作兵器によって、イギニスの大艦隊は甚大な被害を受けていた。えぇ……なにこれ?


 見た感じ100個はありそうだったけど、あれだけ作って一度も実験しなかったの???アホなの?!あと火薬量がおかしすぎるだろ!!!!


 自由だああああああああーーーー!!!!と言わんばかりに砂浜を縦横無尽に走り回ったパンジャンたちは勝手気ままに連鎖爆発してすべてを灰にした。


 なんか将軍っぽいのが、彼を追いかけるパンジャンから逃げていたが、横に避けるという発想が無かったらしく、そのままぺしッと轢かれて爆散していた。


 これに付き合わされたイギニス兵が可哀想すぎる。


  美しかった砂浜は爆発で掘り起こされ、クレーターだらけになってるし、火災で真っ黒こげになった船が、砂浜にずらりと並んでいる。


 それだけではなく、吹き飛んできた船のガラクタが至る所にあって、とても危なっかしいことになっている。向こう何十年かは、この砂浜、裸足で走れないぞ。


 立つ鳥あとを汚しまくりである。何ちゅうことをしてくれるんじゃ。


 世紀末世界みたいな光景になった砂浜に立ちながら、黒煙を前にどうしたもんかなと思い悩むのであった。


 ――あっ!こんなことしてる場合じゃない!けが人の手当て!!


 んもー!!!!


★★★


 イギニス王宮の地下深くにある秘密の部屋。


「ほッー報告――ッ!」


「ンッンー!インダに向かわせた艦隊、大勝利の報告が入った用ですなンン!!」


「イギニス連合王国の無敵艦隊、か……か……ッ!」


「ンッン!かっかっか!完全勝利!!!なんと素晴らしい響きか!」


「かッ――完全に消滅しました!残存艦ゼロ!総員が戦死しました!!」


 ブブブブリティッシュ!!!!という意味不明な悲鳴でチャールスは卒倒する。


 ブクブクとカニのように泡を吹いて、何かそういうオモチャのように、直立したポーズのまま、ビクンビクンと打ち上がった魚のように痙攣けいれんを続ける。


 しかし、奥に居た存在は、イギニスの無敵艦隊が消滅したという報を受けてなお、怒るどころか、喜びに満ちた声をチャールスに投げかけるのであった。


「ハハハ!失敗するなら派手な方が良いさ!大いに目立つ失敗は、成功と変わらないんだ。ビジネスも戦争も、本質的にはそう変わらない」


「よく言うじゃないか。失敗は成功の母と――」


「――これはこれで使いようがあるのさ。チャールス君、君の持つニューペーパー『ザン』を使って、イギニスの敗北を派手に宣伝したまえ。」


「ンッンー!それは一体どういう事ですかな?!敗北を宣伝するとは……?」


 ショックから立ち直ったチャールスは、若草色の機人に問いかける。すると彼は、我が意と得たとばかりにまくしたてた。


「ふふ、まだわからないかな?イギニスの軍が大変な被害を受け、無敵艦隊が消滅したということは、イギニスが大変な危険に晒されているという事だ」


「危険というのは、もっとも人目を惹く。そして物事を見る目を曇らせる。」


「この敗北を大いに宣伝することで、イギニス市民へ、ポトポトに対する戦意をかき立てるんだ。そうそう、ポトポトはイギニスに工場を持って居るらしいね?これは経済的侵略ではないかな?」


 そう、ポトポトの機人が作った「ポトポト新聞」によって、イギニスの市民はもうすでに古代竜の侵略は終わったと思っている。


 しかしそれは違うのだ、そういうことを宣伝しろと、この若草色の機人は言っているのだ。


 その見出しはショッキングな方が良い。


 イギニスの市民が敬愛し、誇りに思っている無敵艦隊が消滅というのは、もっとも強力な見出しになりうる。そして次にこう誘導するのだ。


 「彼らがいなくなったら、誰が君の家族や財産を守ることができるのか?」と。


 そして、戦争の主役は職業軍人から、一般の市民にまで広がる。


 高い金を払って兵隊を集めなくても、徴兵事務所を立てれば、そこに人が殺到するだろう。


 これが若草色の機人の述べた、敗北は大きい方が良い、という言葉の意味なのだ。


「ンッンー!つまり、ニセの平和を謳った、インダとポトポトによるだまし討ち!」


「ヒレツ極まる計略で、純情無垢なイギニス人の殺害に至った!!」


「そう、いくら平和を愛するイギニスといっても、ここまでの無法を見過ごせるものではない。平和を破ったのがどちらか?そんなことは関係ない。」


「そう、事態がここに至っては、イギニスの市民である君たちも、もはや無関係ではない。君たち市民が、イギニス連合王国に何ができるかだろう……?」


「ンッンー!!なるほど、見えてまいりましたぞ!!さすがはニシノ様!!」


「ただちにザン編集部に向かい、宣伝戦にとりかかりますンン!!」


「うん、頼んだよ。」


 部屋を出ていくチャールスを見送り、ニシノと呼ばれた若草色の機人は、自身の体を確かめる。


 キシキシと軋む関節。ちらつく視界。


 彼らの技術発展を待っていたら、とても間に合いそうにないな。


 僕にはもうあまり時間が無さそうだ。ああ、ポトポトの機人、僕は君が欲しい。


 正確には、君を動かしているバッテリーと、その体が――

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