史上最大の作戦

 ここはイギニス王宮の地下深くにある秘密の部屋。


 チャールスは、とある存在の前で、今回行う作戦を説明していた。


「ははは、新しいのを理解できない人って、まず自分が恥をかくのが怖くて否定するんですよ。秘密兵器、いいじゃないですか。そういうの好きですよ」


「ンン!恐悦至極!この作戦のために、1億ポンダの予算を投下いたしました!」


「なぜこんなことを?と言い出すものが多かったので、いろいろと説得に手間取りましたが、何とか今回の実行までこぎつけた次第です」


「うん、夢を捨てた彼らにとっては、夢を追い続けるチャールス君、君の事が目障りで仕方がないんだよ」


 チャールズが声をかける先に居た存在。若草のような緑色に塗られた、金属の体をした存在がそこには居た。


 ――そう、機人だ。しかし、ポトポトを率いる彼とは、少し趣が違った。


 全体的に丸いフォルムをした身体。その各所に修繕の痕がある。


 しかし、その修繕は、明らかに技術レベルの違うパーツでツギハギにされていて、これはとても修理と言えるものではない。読者である君たちには、そのように見えることだろう。


「まず先方の1000人が橋頭保を確保、次にポトポトの機人をさそい、艦隊を上陸させ、100を超える秘密兵器、G・パンジャンドラムで仕留めます!」


「うん、意味わかんないって最高だよね。だからこの作戦は成功すると思うよ」


「あり難き幸せ。そしてこの史上最大の作戦を――」


「ンッンー!『オーバーロード作戦』と名付けますン!」


 ★★★


 俺は手を出すべきか悩み、事の成り行きを見ていた。

 吶喊とっかんしていったカンジー率いる象人の突撃部隊は、100人に満たない。


 相手は1000人の海賊。しかし、陣形もクソもない、正直烏合の衆だ。それに対して、100に満たない象人が突撃し、銃撃を加えている。


 <ダーン!><PAMPAM!><ウワー!!!>


 たちまち浜辺は、行き交う銃声と、金属のぶつかる音、雄たけびと苦痛のうめきという、戦場、いや地上の地獄とも言うべき、喧噪けんそうに包まれた。


「インダの為に!!チェストーイ!」


 カンジーはその手刀でもって、海賊の紛争をしたイギニス兵を切り裂いていく。


 あれ???新式銃はどこいった??? 


 とにかく、白い砂浜には、イギニス製のはらわたがまき散らされ、たちまちにいくつもの赤い斑の花が咲いた。


 イギニス兵にとって不幸であったのは、上陸したばかりで、大砲の荷揚げが済んでいなかったことにあった。大砲が既に荷揚げされていたのであれば、その大砲から打ち出される散弾で、たちまちに象人たちは追い払われていただろう。


 しかし、先に上陸したイギニス兵は、単発のフリントガンと、サーベルくらいしか装備を持って居なかった。パンパン銃の射撃で前衛を崩されると、混乱から立ち直る前に、象人の突入を許し、たちまちに白兵戦となったのだ。


 人と象人がぶつかり合えば、そこにひろがるのは、一方的な戦いである。

 象人にとっては、まずこの白兵戦に持ち込むまでが難しいのだ。


 しかし、パンパン銃で、射撃戦に打ち勝つことで、これを実現した。


 戦術も何もない、愚鈍な突撃ではあるが、往々にして戦場とは、戦場を殺意で塗り固めた方が勝者になる事も少なくないのだ。


 服ごと引きちぎられてイギニス兵だったものが、砂浜に散らかされていく。


 砂浜に生えるようにして置かれた、叫ぶ顔、泣く顔、あとよくわからん変顔のイギニス兵の生首を見て俺は思った。リアルに漫☆〇太郎のマンガじゃん。


 こんな光景を、実際に見ることになるとは。戦場はやっぱり地獄だねー。


 傷つき倒れている象人もいるし、後でエリクサーを撒くか。


 しかし、異国で中身をまき散らされているイギニス兵を見ると、ちょっと哀れにすら思うな。たいした給料もらってないだろうに。


 ドン!ドン!ドン!ドン!


 そのとき、大海原から砲撃の音が聞こえた。

 クソ、しまった!!戦いに集中して、全く海の方を見ていなかった!


 視線の先、海原には10隻以上の蒸気船が見える。

 なんてこった!イギニスの大艦隊が来てやがる!!!!


 着弾するどんぐりのような形をした鉄弾が砂浜を掘り返し、跳ね返った弾が、たまたま前に居た不幸なイギニス兵を真っ二つにする。


 ひっでぇ!敵味方関係なしかよ!いや、連中は表向きは海賊だからか。ひょっとして中身は囚人部隊とかそんなのなのか?


 治安部隊の出動からの占領というシナリオなんだろうか。ううむ、質が悪い。


 ここまでくると話が代わる。さすがにこれはもう戦争だ。俺も介入するぞ。

 とはいえ、レールガンみたいな、MAP兵器は持ってきてない。……やれるか?


 相手することになる沖合のフネを再度見る。あれは……俺たちがイギニスに来るまでに使った蒸気船に間違いないようだな。


 フネの甲板には、前に向けられる2門の大砲が据え付けられていて、それで砂浜に弾を打ち込んできている。大正時代レベルの砲とは言え、俺でもまともに食らうとヤバそうだな。


 しかし、少しフネのディティールが違う。前の方が、仏壇のように、観音開きで開くようになっているのだ。さながら、上陸用舟艇のようだ。


 そこから何か吐き出そうっていうんだな?


 俺は回避運動を取りながら、フネにオートキャノンを打ち込む。が、効果がない。相手をしているのはフネだ。37㎜砲弾が相手をするには、フネというのは、余りにもデカすぎるのだ。


 クソ!なら、マルチミサイルでどうだ?


 俺は肩から3発のミサイルを一隻に向かって撃ちだす。白い煙を引いたミサイルは、蒸気船の艦橋に当たって吹き飛ばす。しかし、戦闘能力を完全に失わせるには至らない。


 ダメか!火力が足らなすぎる!


(技術レベルの差があると言っても、ここまで大軍だとつらいものがありますね)


 無人機のステップイーグル君がいてくれたら、なんてことないんだけどなー。

 準備不足だったのが痛いわ。


 視界の奥では古代竜のリューが艦隊へ攻撃を仕掛けようとしたが、濃密な対空弾幕のせいで、火球で一隻を焼くにとどまった。


 この数が相手では、リューでも大分やりずらそうだな。


(いったん退くべきだな。)


「撤退だ!このままだと全員やられるぞ!」

「無念にごわっど!森まで退くでごわっど!!!」


 そのとき、古代竜のリューが俺の背後からやってきた。


「これを何とかする方法が無いことも無いが……ここでは近すぎる」


「ああ、あれに水爆を使ったら、インダも吹っ飛ぶぞ」


 俺たちは森まで退き、連中の出方を見ることにした。


★★★


 わしはムンゴメリ、栄えあるイギニスの元帥である!

 さすがは世界に誇る我らがイギニス無敵艦隊よ。古代竜はおろか、あのポトポトの悪魔すら、手も足も出せなかったか。ヌハハハ!


「閣下、連中は森まで撤退したようです!!」


「ふむ、兵士を突入させても良いが、すでに1000人の囚人兵を失った事であるし……いくら兵士が安いとは言っても、戦死補償金は安くない。アレをだせ!」


「「ハハッ!!」」


偉大なる・パンジャンドラムよ!呪われし旧世界を焼き払った、お前のその力、今一度我らの前で示すがいい!!!」


「全ての秘密兵器を始動させよ!!」


「アイアイ・サー!!!」


★★★


 俺の目の前で、砂浜に並べられていったある「兵器」


 二つの車輪の軸を1メートルくらいの長さのぶっとい棒でつなげ、車輪の部分にはなにやら筒状のモノがつけられている。全体の高さは3メートルはあるだろうか?裁縫なんかで使う、ホビンのお化けという感じだ。


 あれは……見たことがあるぞ!かつて起きた2度目の世界大戦で、無人兵器として開発され、実験の際に大惨事を起こして計画ごと「破棄」された秘密兵器……!


 あれは車輪に付けられたロケットの噴射で前進する仕組みなのだが、構造に無理があるため、真っ直ぐ以外のあらゆる方向に転がっていって、最終的に見物人に突っ込んでいったのだ。


 そう「歴史的大失敗兵器」のパンジャンドラム!!!!


 パンジャンじゃねーか!!!!!


あああああ!!!火つけようとしてる!やめろやめろそれ!絶対失敗するから!あああああああああああ!!!!



――その日その時刻、イギニス連合王国の無敵艦隊は、忽然こつぜんと歴史から姿を消した。

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