機人、起業する。
「……うむ、この紙のロールをあるだけくれ」
「ええ、ここにあるモノが、ウチの全てです」
「……かまわん。全部もらおう」
俺はイギニスの製紙加工業者に問い合わせて、とある「紙」を買い付けている。
この買い付けにつかったポンダは、オーマの教会にあった金銀細工や、冒険者を食って得られた金、銀、銅を精錬した、インゴットを売って得たものだ。
このポンダの買い付けにも、イギニス人との口八丁バトルがあった。イギニス人は金が絡むと、マジで知能指数が倍くらいに跳ね上がるから困る。
「ええと確かポトポトの……」
「機人でいい。他にはおらんからな」
「ええ、あとは紙を裁断するための機械ですが、そちらはおまけでご用意しました。今日はもう店じまいですな。」
「助かる。」
俺がこの製紙加工業者にオーダーした「紙」。
何の変哲が無いように見えるが、これは銀行や会社が発行する債券に使う紙だ。
「債券」。耳慣れない言葉だが、ようはレシートだ。
さて、俺たちは店で買い物をすると、レシートをもらえるな?
リンゴを買えば、レシートをもらえる。
で、大抵はレシートは捨てられる。リンゴが欲しいわけだからな。
だが「目に見えないモノ」や、「これから手に入るモノ」を売る場合は?
例えば、「ポトポトがムンゴルに勝利する」これに値段を付ける場合は?
その場合、金で行き来するのはレシート、つまり「債券」しかない。
さて、この意味が解るだろうか?
つまり、「手元に商品が無いにもかかわらず、商売ができる」ということだ。
笑いが止まらないね。
「……紙を買い込み過ぎたかな?まあいいや、帰るとするか。」
さて、俺は大量の紙を曳いて、あばら家に戻ってきた。
先日は会議場にしていたが、他に手ごろな物件もないし、安いという事で、ここを作業場に改装することにしたのだ。
いまここでは、印刷用の輪転機がぐるぐると回っている。
吐き出されているのは、100万ポトポト債だ。
100万の文字の左右に、機人の絵。その下には通し番号、そして何年何月何日に300万ポンダと交換できますという文字が書かれている。
ポンヂ銀行は2倍だが、俺たちは3倍で借金を返す。
そう、これは貧しいポトポトが唯一売れる商品、「借金」だ。
借金を売るというのは、全く意味が解らないだろう。
しかし、イギニス人の富豪は、こぞってこれを買い求める。
ポンヂ銀行の騒動を見ても解る通り、イギニスの金持ちは、金を増やすことに興味はあるが、そこで何が起きているかについては、とくに気にしない。
俺は刷り上がって、裁断された「ポトポト債」を見る。
うん、大分いい出来だ。何より高級感がある。
この「ポトポト債」にはすごいパワーがあるのだ。
ポトポトとイギニスの力関係をひっくり返すほどのパワー。
イギニスの金持ちが、このポトポト債を買い求めると何が起きるか?
まず、大量のポンダが俺たちに転がり込む。
するとどうだろう、金持ちの中に、ポトポトが消えて無くなると、困ってしまう人たちが生まれる。そりゃそうだ、払ったポンダが帰って来なくなる。
多ければ派閥になって、政治家や、女王に意見する者すら、出てくるだろう。
ポトポトが他国に攻められた時、ポトポトを守れと言いだすかもしれない。
これがイギニスからポトポトを守るための、第一のギミックだ。
そして第二のギミックが、この買い付けた大量の紙のロールだ。
この紙は、とある条件を満たしている、これを探し出すのには時間がかかった。
こいつには、恐らく俺にしかわからない秘密がある
さて、クラフトメニューを使う事で、俺は世界の解像度を上げることができる。
つまり、木を見れば木材として表示される。
紙を見れば、その材料の配分まで、表示してくれる。
そう、俺のクラフトメニューに分析できないものは無い。
たとえ、イギニスの技術のすべてが盛り込まれた、「ポンダ」であってもだ!
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