で、どうすんの?

(えーっと……ナビさんや、本当に国交は結んじゃっていいの?)


(ええ、ボコボコにするには、その方が都合がいいですよ)


(コワッ!!)


「……では、チャールスに渡した条文の通り、友好条約に合意と――」


「お待ちください機人様。」


すっと出した左手で、俺を制止するデドリー。


はい?デドリーさん?


あまねく者に勝利とは、実に心地良い響きですが……」


「言い換えれば勝者無き世界。全ての者が負けているのと同じこと。」


「――それを為すのがイギニスというのなら。彼の国のみが、唯一の勝者でしょう」


 しっかりと足取りで女王に――いや、女王の前にある、古代竜の腕へと近づいていくデドリー。


 そこで俺は、ようやく気が付いた。


「……デドリー、その右腕はどうした?」


 すっぱりと先の無い右腕、いやその前に発言が違和感バリバリだったが。

 やはりこいつは!


 デドリーは竜の姿になり、台座に置いてあった、切り取られた腕をつなげた。

 繋ぎ終わった時には、いつのまにやら、部屋を埋め尽くすほどに巨大化していた。


「ンッンー!!玉座に侵入を許すとは!近衛兵!近衛兵は!!」


(あっ、やばくね?このまま女王を潰されると、ポトポトが古代竜を手引きした形になるのでは?)


(ええ。当然そうなりますね。)


 ここでいきなり戦争は不味い。特にミリアさんたちを守るのがきつい。


 俺一人なら、たぶんやれると思うが、そこまで人の心を捨てたつもりはない。


 しゃーねえ、一応女王は守っとくか。


「……古代竜の言う事も一理あるだろう。しかし、今は女王を殺されては困る」


ガッシャガッシャと近寄って、古代竜の顔を見上げる。クソ怖ェな。


「我を殺すか、まだ決めかねている。そう言っていたな?」


 ナイフみたいな爪で顎を描きながら、古代竜は俺に問いかける。

 そういや、こいつ性別どっちなんだろうな?まあいいや。


「……うむ。イギニスと我らが手を結ぶのは、ポトポトの安全が目的だな」

「そちらはどういう条件を、こちらに提示してくれるのだ?」


「取引できる材料は、今のところ思いあたるものは無いな。」


 ないのかよ。

 まあ、その日暮らしの象人を相手にしてたら、そらなんもないよな。


「だが、今ここで女王を潰さなければ、お前とより深い話し合いが出来そうだな」


 そうだね、えーっとえーっと、話のネタが思いつかねえ!

 オッサンは年だからこう、アドリブに弱いんじゃ!


「……私もそう思う。実は、我らに共通点は多いものと感じている」


「左様。天のことわり乱れた時、定命の象人とエルフを率いる、不滅の者。」


 あ、なんかスイッチ入った。


 わかったぞ!!こいつはただの古代竜じゃねえ!!

 中二病まっしぐらなダークでシャドウなドラゴンだ!!

 そして俺が一番苦手なス〇エニ系の台詞使いだ!!!


 ミリアさんじゃなくてデドリーに成り代わったのも、そこはかとない闇属性を感じたからだな?!そういうタイプだなこいつ!???


 まて、ここは考えろ、ラノベ、ゲーム、アニメなんでもいい。

 ここは恥を捨てて、とりあえずそれっぽくカッコいい単語を並べるんだ!!!


「……久遠くおんの時を経ても、時代は未だ闇の中……世界は望んでいるのだ。いずれ来たりて闇を照らす、新しき時代の種を……」


 クソ!政治の話とは別ベクトルで疲れるぞこれ!!!!


「然り。日輪、まかれども、必ずや暁迎えん。この出会いに感謝を……!」


 クソッ!クソッ!なんか急にキラキラした目すんじゃねえ!この、クソトカゲ!!

 同じアニメの話が出来る友達が見つかった男子中学生みたいな顔しやがって!


 うおおおおお!!唸れ俺の脳細胞!!カッコいい単語をひりだせええええ!!


「……なんじ、彼方の海、異郷より参らん。昔日せきじつより来る者。明日をひらく者なり」


 きゅっと背伸びをするように姿勢を正した古代竜。明らかにテンションが変わっている。うん、おかしい。


「雄々!ふるいましめから己を解き放つ時が来たのだ。供に立つが我らの宿命が故に」


「……然り!!!」


 ガリっと自分の指に噛みついて、血を滴らせる古代竜。


 あ!この中2ドラゴン!!こいつ、勢いでやってやがるな?!


 なんかこんなに痛いとは思わなかった。みたいな顔してやがる!

 濡れた犬みたいな顔して!やったのはアンタでしょう!!


「……ではこの血判をもって、我らのよすがとしよう」


 えーっと、古代竜の血を拭って、顔に塗ってVのマークを描く。

 自分でやっててまったく意味は解らんが。大事なのはフィーリングだ。


「稀人との出会いに感謝を。過去より来りて、明日を開く者、汝の光で、かの地を照らし給え」


 いうだけ言って、天井をブチ割って、古代竜はバッサバッサと飛び立って行った。


 うぉぉおお!!クッソ疲れた!もう二度とあの古代竜とはお話ししない!

 古代竜なんて知らない!ぷんぷん!


(機人様、本当に勢いで、全てやってしまいましたね?)


(まあ、戦いにはならなかったからいいだろ?それにだ。)


(外交文書に書いてあるのは、古代竜の脅威をイギニスから取り除く、だろ? 別に世界中の古代竜をぶちのめせとは、どこにも書いちゃいない。)


(Cis. まあ、それがわかっていれば別にいいです。後は――)


「……この状況を、どうするか、だな?」


 俺に向けられているのは、無数の銃口。騒ぎを聞きつけた、近衛兵たちか。


 口先三寸でもなんでもして、このオモチャの兵隊達を、なんとかしないとな。


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