カリスト教徒って、意外といい奴じゃん
子供を肩に乗せ、クラフトで出したパン食べさせて、ペルリンを歩き回る俺。子供を家まで送り、なにか食料をおいて行こう。
あっ子供が泥棒をしたとか思われると、ちょっと困るな。
はてどうしよう、と思っていると、じっと俺を見る者が居た。
服からすると、カリスト教の聖職者か。少し細身の、どこかの小学校の教頭先生といった顔つきの壮年の男。意外にも、敵意ムンムン、という感じではないな。
「……カリスト教の聖職者か……なにか用かな?」
「いえ、私たちが間違っていた、それを機人様に伝えたかったのです」
男はうやうやしく礼をする。持ち上げられた顔は非常に柔和なものだった。
「機人様もお忙しいでしょう。その子は私が親の元へと送りましょう」
「……そうか……であるなら、これを」
俺はクラフトメニューから出したパンを、子供に渡す。
「……親に、このパンは盗んだものではない。そう伝えてはくれぬか?」
「ええ、それはもちろん。」
「……頼む。名はなんという?」
「ピネディクトと申します。かつては枢機卿でしたが、今は一市民にすぎません」
「……そうか。モノ思うところはあるだろうが、住民はまだ、諸君らを慕っている。かれらの精神面での支えになってほしい。」
「はい。」
うーん、意外と聖職者連中も順応しているのか?
なんだ、カリスト教徒って、意外といい奴じゃん。
肩に乗せていた男の子と別れ、俺は少し離れた所にある、練兵場へとむかった。
ここは、火縄銃を装備した、新式軍隊を育成しているところだ。
「「構え~筒ッ!」」
「うー↑てー↓」
パパパパンという連続する発砲音のあと、入れ代わり立ち代わりで陣形を組み替える。火縄銃の扱いにも、オーマの兵は慣れてきているな。
元からクオリティのおかしい連中だ。
この様子で火縄銃を扱っているなら、放っておいてもいいな。
ムンゴルは元いたところに帰っていったし、当座の問題は無い。
いや、あるな。規模感としては、小さな問題だが。
ダンジョンに潜る冒険者が使うには、火縄銃は不便だという事だ。
火の扱いが必要で、すぐに撃てるようなシロモノではないし、最新兵器だから軍に優先的に納入されていて、使おうと思っても手に入らない。
そして、火縄銃に押されて、生産が縮小化した連弩。
これがプレミア化してしまった。
冒険者的にはちょっと死活問題だろうな。
火打ち式のピストルとか、作る必要があるかもしれない。
ふむぅと考えている俺。しかしその思考は突然中断された。
練兵場に血相を変えて入ってきたオーマ兵。彼は息を切らせながら俺に報告する。
「た、大変です!機人様!大変なことがっ!」
「……何だ。まずは申してみよ」
「カリスト教の聖職者が、人質を取って、機人学校の屋根に……!」
――まさかッ……!
「機人様!どこへっ?!」
「……現場に向かうッ!」
俺は走り出してかつてカリスト教の教会であった、機人学校に向かった。
その屋根に居た者……あのとき道で別れた男の子と、ピネディクトという男だ!
「ぷじゃけるなぁぁぁぁぁぁ!!!!」
あの柔和な顔はどこへやら。奴は狂気で目が血走っている。
「何十年、何十年カリスト教に私が仕えたと思っている!」
「それをこんな、こんなッパンごときでぇぇぇぇぇ???!」
俺が子供に与えたパン、それを捨てて、ぐしゃりと踏みつぶして踏みにじる。
男の背後にはオーマ兵がいるが、男は完全に正気を失っていて、何をするかわからない。そのため、手が出せない様子だ。
「もう止めぬか!カリスト教の教えに従っていたから負けたと、何故わからぬ!」
――意外だな。男の説得に当たっているのは、デイツ王だ。
「人が人を食い合うような暗黒の時代があった。その時ならば、カリスト教という、盲人の教えに手を引かれる方がかえって良かっただろう」
「しかし、機人という光を得た今、そのうえで目を閉じたまま進むのは――」
「――それは阿呆のすることだ!!!」
「うっせーうっせばーか!ばーか!うっせーんだよぉ!!!!」
「ごちゃごちゃと理屈こねやがってよぉ!」
「テメーはまだ、いい思いできてっから、えらそーにしてるだけだろ!」
なんだありゃ?まるで子供じゃないか。
長い間我慢して、それでご褒美をもらえそうなとき、それを取り上げられたから、怒り狂ってるだけじゃないか。
ダメだアレは、もう完全にキている。
「あーもう滅茶苦茶だよ!!!」
「機人、この子供は機人のせいで死ぬ!お前たちがカリスト教を裏切ったせいで!」
「この子供は死ぬんだ!!」
あっやっべ!!
聖職者の服に身を包んだだけの狂人。
そいつが子供を放り投げた瞬間、俺の体は勝手に動いた。
UIが自動的に何かを判断したのか、新しい機能がアンロックされた。
――俺、飛べたんだ。
背面と足の裏から、ノズルが出て、体の浮き上がる感覚。
うっわなにコレきっもちわる!!!!!
空を駆ける俺は、地面に男の子が落ちる前に、なんとかそれを受け取った。
目を丸くするピネディクトは、一瞬目を丸くして、その後何か呪いの言葉を吐いていたようだが、駆け寄ってきた兵に取り押さえられた。
地面に降りた俺と子供を迎えた親と野次馬たち、そしてデイツ王。
その顔からはもう、俺に対する疑念や疑い、そういったものは感じなかった。
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