第二章 ムンゴル帝国編

もっとやべー奴らが来てる

 偵察機を駆って神聖オーマ帝国の首都方向を目指す俺。

 しかし、眼下に映る光景の雰囲気が、なんか違う。


 目にする村がことごとく焼かれて黒コゲとなっていて、人っ子一人いない。

 んんん?3軍目が動いたのか?と思ったが、ここはポトポトへの進軍ルートから微妙に外れている。


 というか、こちら側の方が火が消えて、首都側の方がまだ燃えている。


 つまり、こっちからオーマ側へ向かって、燃やされているということだ。

 

 俺は嫌な予感がして、無人機のエンジン出力を上げ、まだ焼けて黒煙を上げている村を追う。ステップイーグル君頑張って!


 首都にまで到達した俺は、「マジかよ」と、言葉を失った。


 数日前までは麦畑だった場所は、黒土があらわとなり、馬の蹄のようにU字型に土が盛られている。そしてその中に収められている、黒く長い筒。


 ――あれ、完全に大砲じゃねえか?!


 そういえば、歩兵が使う鉄砲より、大砲の方が先にできたんだっけか?

 デカい方が作るのは楽か。そこは準拠するんだな……。


 大砲を構えている軍隊の様子は、神聖オーマ帝国のものと全く様子が違う。


 なんというか、全体的に貧乏くさい。

 兵が身に着けているのは、革か布製の服と帽子といった具合だ。

 鎖鎧を着ているものや、バケツ頭のヘルメットをかぶった者はいない。

 

 一部の指揮官っぽい連中だけ、黒い板を連ねたコートみたいな鎧を着ている。

 なんかびみょーにお侍さんっぽい感じはあるが、見た目的にちょっとショボイ。


 だがこいつらの装備、特に兵のモノは見覚えがある。

 ポトポトを最初に攻めた連中、そいつらが先に渡河させた異民族の傭兵だ。


 牛の角を旗印にしているようだな。どういう国か、後でケムラーに聞いてみるか。


 こいつらはきっと、軍事行動を起こすタイミングを、前から見計らっていたのだろうな。

 俺と神聖オーマ帝国の戦いに、イェーィ!と横やりを入れに来たにしては、あまりにも手際が良すぎる。


 神聖オーマ帝国と謎の軍、にらみ合いの状態だが、先に動いたのは神聖オーマだ。しかしその動きは俺が予想ししたものと、大分異なっていた。


★★★


 我こそはムンゴル帝国皇帝、チンガス・ハンである。

 東方の100以上の諸部族を統率した、王の中の王と自負しておる。


 神聖オーマ帝国は肥沃な平地を持ち、馬と羊を放つのに最適の場所だ。

 帝国の膨張に伴い、部族が家族を養うには、より多くの土地が必要だ。

 この地を得るのは、天が我に与えた使命ともいえる。


 むう、城門が開いたな。降伏の軍使か、あるいは決死の斬り込み隊か?

 どれ、見てみるとしよう。


 さて、チンガスが見る先には、1000人ほどの修道士たちが居た。

 そのどれもが、小さな刃物すら帯びておらず、青い鉢巻をして、その手に小さな冊子を持つばかりであった。


 彼らは声楽隊のようであった。その声は美しく、聞き入るに値するものであった。

 そして、その光景を見て、チンガスはこう思った。


 歌声で同情をひこうとでもいう気か?下らぬな。

 とはいえ坊主を殺めるというのも、余りにも非道を為すと、正道が揺らぐ。

 さて、どうしたものか?


 だが、次の瞬間、チンガスの残り少ない人間性は完全にその姿を隠した。


「「〇〇〇ー〇のチン〇気持ちよすぎだろ!!!」」

「「気持ちよすぎだ~ろ~!」」

「「チン〇気持ちよすぎだろ!」」


♥ チ♥ 〇 ♥ 〇 ♥

 ♥〇♥ ン ♥ 〇 ♥

  ♥ 〇 ♥〇♥ ポ ♥


 体が勝手に動いた。チンガスの指図の元、騎馬が放たれ、恍惚とした顔で歌っていた修道士達は馬たちの蹄に踏みしだかれ、その命を散らした。


「くっだらねえ!なんだよこれ!バカバカしい!」


 つい青年の時の様な喋り方になってしまった。いかんいかん。

 取り乱した我を諫めるものが現れた。オーマの国境で捕虜とした、猫人の文官だ。


「閣下、あれはあまりにもむごうございます」


「しかしな、ネコマよ、余は彼らに対する、慈悲の思いが湧かなかった」


「それならばもはや何も言いますまい。攻撃の沙汰を?」


「うむ。」


★★★


 眼下で行われた一連の虐殺を、俺はずっと眺めていた。

 何を歌っていたかはわからんが、この連中、オーマより危険な連中だな。

 人の心が無いレベルが、オーマより一段上だ。


 ボンボンボンと大砲が撃たれ、肉眼でも見えるレベルの遅さで弾が飛んでいく。

 大砲の弾丸は俺が想像するような鉄の弾ではなく、棒状の矢みたいなものに、燃え上がる筒がつけられた、放火用のものだ。


 なるほど、木造建築が圧倒的多数の時代なら、鉄の弾を飛ばすより、はるかに合理的な選択だ。そこに人の心はないが。


 城壁に当たった大火矢は破裂して辺りに炎をまき散らす。

 不幸にも壁の上で炸裂したものは、城壁の上の10数人の兵士を爆発と炎で巻き込んで、守備兵をパニックにおとしいれる。


 武器の威力としてはそこまでたいしたことはないが、虐殺と言い、この炎といい、恐怖を武器としてうまく活用している。


 不味いな。このままだと、神聖オーマ帝国が消える。

 オーマが消えるのは別に良い。

 しかし、俺の求めている電子基盤と、その情報が共に消えてなくなるのは不味い。

 ……ここは、機人の参戦と行こう。

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