あ、ここキャンプ禁止です
赤に白の×字が染め抜かれた旗がはためく野営地を俺たちは見下ろしている。
俺の目には暗視装置が組み込まれていて、切り替えもできる。しかしいちいち人数を1,2、3と数えてはいられない。テントの中にいる者もいるし、動き回っているから2重3重に数えることになってしまう。
なので、俺は火の焚かれている、かまどの数を数えることにした。
大体かまど一つの鍋に8人前後が群がっている。という事は、かまどの数を8倍すれば大体の人数に目星が付くということだ。
昔の分厚いコンビニで売っていた、中国の歴史の漫画本の受け売りだが、なかなかどうして役に立つじゃないか。たしかに人間、必ず飯を食うからな。
かまどの数から見当がつく上陸軍の数は、うーん大体5000人前後か、一回戦目よりは少ない。おそらく海軍に人手を割いているので上陸軍の数が減っているのだろう。これなら勝てるな。
幸いにも、ポトポト側の警戒には、人数を多く割いているようだが、川の方の警戒はそれほどでもない。まあ味方が来る方だからね。攻撃方向はこっちからでいいな。
しかしそこら辺の木を切ったり火を焚いたりして、環境破壊しまくってんな。
まったく、ゴミはそこら辺に捨ててるし、ルールもへったくれも無い連中ですわ。
エルフ達には、夜中に現れるブギーマンとして、悪い子たちにお仕置きしてもらおう。
人の土地で勝手にキャンプなんぞ始めよってからに!
家賃の徴収じゃああ!!ただし支払いは、お前らの命だがなぁー!!
さっそく俺はミリアに、エルフの隠密部隊全体の行動開始を指示する。
シルエットをぼやかす、ボロきれを使った夜間迷彩に身を包んだエルフ達が配置につく。背中に背負っているのは火炎放射器だ。
火炎放射器の弱点は、その射程の短さだ。通常、野戦で使用するには、接近する難しさがある。
そして派手過ぎて、使えば一発で位置がばれるのですぐさま反撃が来る。
火炎放射器というものが役に立つのは、それこそ、限られた攻撃方向しか持たない窓の少ない建物、コンクリート製の陣地、そういったものを攻撃する時くらいなのだ。
FPSゲーで使ったことがあるからわかる。やられた方は記憶に残るが、やった方はそれ以上に失敗している。それが火炎放射器というものだ。
だが夜襲では、その接近する難しさというのを解決してくれる。暗闇に紛れて近寄って、一気に火をつけてもらう。
特に火炎放射器は口火をきると夜間では目立つので、時間をあわせ、一気に仕掛けてもらうのが重要となる。3……2……1……いまだ!
「……攻撃を開始せよ!」
エルフ達の持った火炎放射器から、細い紐のようになった炎が投げかけられる。その炎の紐は地面やテントにぶつかると、ぶわっと広がって、瞬く間に連中のなごやかなキャンプ場を世紀末のパーティ会場に変える。チケットはお前らの命、ドリンクは火の付いたガソリンだがな。
ここまでくるともう消毒とか言うレベルではないな。おおひどいひどい。
「ド、ドラゴンだー!ドラゴンがでたぞー!」
キャンプ場から上がった悲鳴がさらに混乱を助長して、体に火がついて燃え上がった連中が、逃れようと歩き回ることで、そこいらじゅうに火をつけて回っていく。
いち早くキャンプ場から逃げ出した連中は、可能な限りエルフのスナイパーに始末してもらう。暗視装置は数が限られているので十分ではないが、それでも森に逃げようとした結構な数が撃たれているのが、暗視装置を起動して緑色になった俺の視界に映る。
「ドラゴンがいるなんて聞いてないぞ!ウワァー!!」
うーむ、さっきからちょっと気になる単語が聞こえるな。連中、火炎放射器の炎をドラゴン、と言っている。
まさかこのナーロッパ世界、遺伝子操作で作られたドラゴンとかいるんだろうか?それについては、ちょっと気になるな。
いや、エルフがいるならドラゴンだっているか、なんたってファンタジー世界なんだから。そんな無茶苦茶な論拠で勝手に納得しつつ、俺は燃え上がるキャンプ場を眺めていた。
戦いは一方的に終わっているな。テントが炎上しているので、そこに備蓄された装備を取り出すこともできず、どいつも着の身着のままで逃げ出している。
生き延びたとしても、装備が無ければ、あのゴブリンたちと素手で戦うことになる。まあ良くて野垂れ死に、悪けりゃ襲われてモツ抜きと言った所か。
ふむ、多少賢い奴なら、海軍との合流を試みるはずだ。
残存部隊を集結させて、撤退なりの判断を下す。となれば、散らばった海軍も集結するかもしれない。陸付け、集合、なるほど、仕上げはそちらで行うとしようか。
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