国一番の勇者

「勇者」それはこの国、神聖オーマ帝国において大きな意味を持つ称号だ。


 勇者とはこの国に住む人間の中でも、最も多く「蛮族」を倒し、わが国の領土を広げることに貢献した冒険者に与えられる称号だ。


 つまり国家公認の「殺戮者」だ。人格や身分、そういった戦いに役に立たないことには拘らない、ただ一つの評価基準で選ばれた存在だ。


 勇者は幾多の蛮族の英雄を狩り、その耳で作った首飾りを下げている。

 乗る馬にはいくつもの魔物の首をぶら下げている。

 キメラ、ワイバーン、ドラゴンまでもがぶら下がったことがある。


 そんな彼の行動を咎めるものなどこの国にいようものか。


 彼の醜聞を揉み消すのは、宰相である私の仕事でもあるのでよく知っている。

 貴族の娘やどこぞの姫を手籠めにしたのはかわいい方だ、最中に絞めるのが趣味らしい。


 彼の行く先、突発的な「流行病」で死ぬ者のなんとおおいことか。

 せめて蛮族の怪物と刺し違えでもしてくれたらいいものを。


 ビアード団長の弔い合戦という事で、一応形式的にセレモニーを開いて送り出すことにはなったが、なんとも気が重い。


 そういえば、彼を呼んで説明した時、何か奇妙なことを喋っていたな。


「ガハハ!俺様に任せて置け!そいつはサイクロプスでもタイタンでもねえな!機人だ機人!」


 機人、というのは人間族だけに伝わる存在らしい。

 なんでも蛮族が神として荒野から召喚し、そのたびに人族に大きな被害を出す存在なのだという。


 以前の出現は100年以上も前とのことだ。

 なるほど、それでは私が知らなかったのも無理はない。

 そうおもって歴史書をしらべなおしてみたのだ。

 するとどうだ?猫人の歴史書から100年前の部分だけごっそりと消えていた。


 勇者の口が軽いから知れたもの、隠そうとしている形跡が見て取れる。

 何かきな臭い香りがするな……。


 布で飾られた台の上で勇者が何か演説しているが、あいつ死んでくれねえかなー。

 また道中でいろいろ事件起こして仕事増えるの目に見えてんだよなー。


 はあ、と思って私は空を見上げる。あー、あんな風に空に浮かぶ雲になりてえわー。

 あんな風にとんでる鳥さんみたいになりたいなー。


 ん?あの鳥ずいぶん翼が平たいな。それに羽ばたいてないが。

 何か落としたな、光ってる?


 その瞬間のことはよく覚えている。筒に十字の黒い刃を生やしたようなもの。

 それが真っ直ぐ勇者のいるお立ち台に突っ込んでいって、あの英雄をもう二度と人々を煩わすことのない肉塊に変えたのだ。


 この瞬間を我々は知っている。

 人間族の使う騎馬を始めて見たドワーフ達がなすすべなく破れた時、

 人間族の使う連弩を始めて見たエルフ達が成すすべなく破れた時、

 人間族の使う城壁を始めて見たオーク達がなすすべなく敗れた時、


 ついにこの国が狩られる側になったのだ。そう直感し、恐怖した。

 

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