18.驚きの女官発言と皇貴妃初対面
「この小屋も含め、この離宮は
いつものように朝稽古を終え、寝床に選んだ小屋の付近を散策していた私。
「出てきなさいよー!」と朝から元気に叫ぶ声を聞き、興味本位で近づけば、昨日の
朝の挨拶もなく、
そんな破落戸が突然に摩訶不思議な事を口にするのですから、思わず問い返すのも致し方ないかと。
「はあ、だからそうだって言いましたよね。これだから田舎者は嫌なんですよ」
昨日に引き続き、とっても失礼。けれど破落戸です。不慣れな敬語を使うだけ、向上心はあると考えて差し上げるべきでしょう。
「土地は王家の所有ですけど、それ以外の物は
けれど最後にびっくり発言が飛び出しました。私も含めて、と聞こえましたよ? 私の耳、悪くなったのかしら?
しかし今確認すべきは別の事。私は実利を重んじます。
「なるほど。つまり例えばここに記念樹等を植え、その後実ができれば私の物。食すなり、他の者に分け与えるなり、売るなりしても、それによって得た満腹感、人脈、幾ばくかの
「はぁ!? それは……知りませんけど!? ご自分で好きになさればいいじゃないですか!?」
まあ、その程度の事も答えられないなんて。本当に女官なのでしょうか? はっ、まさか自称女官なのでは?
「そう。ならばそれを一筆書いて、この後宮の責任者に印を頂いてちょうだい?」
「ちょっと、どうして私がしなきゃいけないのよ! 私はアンタみたいな下級貴族の小間使いじゃないわ!」
「どうしてです? このような建物を法の定めた貴妃に与え、貴女のような破落戸を寄越すのに、それは認知できぬと?」
少しだけ目に魔力を乗せてしっかりと見つめてやれば……。
「ひっ……し、知らないわ! 自分で聞きな……」
「その必要はない」
あら、見知った殿方お二人と、見知らぬ黒髪に翡翠色の瞳をした女人がいらっしゃいました。
「こ、皇帝陛下にご挨拶申し上げます!」
破落戸がひれ伏します。
けれど私は目の魔力を霧散させて、そのまま微笑むだけに。
「ふふふ、昨夜ぶり、ですね陛下」
「っ……礼を取れ。
陛下は、どうしたのでしょう? 何やらバツが悪そうなお顔になりましたね?
「初めまして、
「初めまして、
「ええ。まさかこのような事になるとは思いませんでしたが。おや、首に怪我を?」
「はい、予想通りの丸一日でしたが、予想外に素敵な初夜の、素敵な痕跡でございましょう?」
随分と白々しいお顔の丞相は捨て置き、首の傷に手をやって微笑んでおきます。
「っ……、黙れ」
「手当ては……」
「ご覧の通りです。そこでひれ伏す自称女官の破落戸も含め、気にかける者も必要な道具も持ち合わせておりませぬ故。それにこの程度ならば、放っておいてもそのうち消えましょう」
あら、今度は紫紺色の目が泳いでいますね。最愛の
「そのように判断されたからこそ、今この時まで傷を確認される事もなく捨て置かれたのでしょう。左様ですよね、陛下。このような些事、後宮の主たるお二人が気にされる事もございません。して、何用でございましょうか?」
「ふぅ……陛下、後ほどお話ししとうございます」
皇貴妃は額に手を当て、陛下にお願いという名の命令を下されました。強い女子は素敵です。
「……無論だ。目障り故、貴妃はさっさと傷を手当てせよ」
陛下は皇貴妃と私とで、声の温度差を激しくさせていますが、そんなに情緒不安定さを露わにされて良いのでしょうか? この場には破落戸も、お付きの女官や宮女らしき者達もいらっしゃるのに。
「して、どのように?」
第一、そのような命令を私にすべきではありません。手当てする人や物は、ここにあるはずはないのですから。
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