16.初めてのこと〜晨光side
『弱すぎます』
『端的すぎませんか? もう少しつけ加えて下さい』
『貴方様は丞相であり、生家は
そこで区切って押し黙る。微笑みを浮かべたまま、特に続けるつもりもないようだ。
『最後まで言ってくれてかまいませんよ』
『致しません』
『何故?』
『そちらの方が、私には利がありそうです』
『なるほど。何故そう思うのか、お聞きしても?』
『貴方様は質問に質問で返されるのは嫌う方。そして自らが常に優位に立ち、お話しされるのがお好きな方。なれど……あまりに手応えがないと興味を失う方。手応えがあり過ぎると、逆に手折りたくなる方』
『端的には?』
興味本位からそう聞けば、実に小気味よい返事が返ってきた。
『傲慢、利己的、偏屈、加虐趣味』
『ぶふっ』
思わず吹き出してしまったが、そんな事は一体どれくらいぶりだろうか。
『そのように仰る方は、現皇帝と現皇貴妃以来ですよ』
『左様ですか。それで、どうされます?』
『この話は無かった事にはしない方が良さそうですね。罰については、寧ろ入宮する方が貴女には罰になりそうです』
『それは残念です。とても……はぁ』
大きため息と共に微笑みが剥がれた。そうしていれば、年より幼く見える。これまでに感じていなかった些かの申し訳無さも、少しばかり湧いてきた。
丞相という大役を得て、この帝国の皇帝となった幼馴染みの為に生きると決めた。その時から老若男女問わず、
『心底お嫌なんですね』
思わずそんな自分に苦笑しながら、ついそう言ってしまう。
『ええ、とーっても』
『情感を込め過ぎでは? 一応はこの帝国で唯一認められた一夫多妻制の、皇帝陛下の妻なのですよ?』
『生憎、顔も知らぬ
『随分はっきりと』
『それくらい嫌です』
皇帝という権力に群がる女人達とは違う。小娘は女人としての感情を優先しているようだ。
ある意味ではこの小娘を選んで正解。しかしまだ十四歳。後宮で艶やかな女達と寵を競わせるには、若すぎる。女人としての感情を優先させたくなる気持ちも、わからなくはない。
それでも小娘の後宮入りを取り消すつもりはないから、我ながらどうしようもない奴だと呆れてしまう。
『そういえば私がここに来ないとは思わなかったんですか?』
後ろめたい気持ちに気づいて、あえて話題を変えた。
『拝聴致しました貴方様の性格では、興味と利があると判断されれば、辺境の地であろうといらっしゃるのでは?』
事前の情報収集能力と判断能力はまずまずか。
『ええ、正解です。貴女はただ好きに過ごしていただければ問題ありませんよ』
その上で、なるべくならこの幼い小娘を守ってやりたいと思ってしまう。
皇帝が即位し、後宮に他の貴妃や嬪を迎えてから、初めての事だったかもしれない。
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