流刑の僕らの青春
@bodo3
公正世界をぶっ壊そう。
あの日、日本は宇宙にある兵器を打ち上げた。その名を「スサノオ」と言った。地球周回軌道上に乗ったそれらは最強のストッピングパワーとなった。
あの日、日本に向けて破滅が迫ってきた。だが破滅は起こらなかった。代わりに破滅は元凶に訪れた。世界は日本に何も言わなくなった。
あの日、日本は緩やかに穏やかに死ぬことを選んだ。あらゆる異分子を追い出し、蓄えた富を消費しながら自分たちが幸せな社会を作った。
「今日も暑い、暑すぎる。なーんでこの学校にはエアコン、ましては扇風機さえないんだ。平成でさえあったっていうぞエアコン。元号何個遡ればいいんだ。」
伊藤がうちわを仰ぎながら言う。
「伊藤、そりゃあ俺らが放流組だからな。ま、俺はこんなの何ともないけどな。」
野村は涼しげな顔をしながら言う。
「野村、とんでもない汗かきながらそんなこと言われても説得力なさすぎ。」
泉が野村の絞れそうなワイシャツを見て、若干引きながら言う。
鉄筋コンクリート打ちっぱなしのボロボロの校舎の一室で彼ら、彼女らは話していた。そこに太った中年男性が不機嫌をまき散らしながら入ってくる。
「おい、ホームルームを始めるから黙れ。暑いし早く職員室に戻りたいから用件だけ伝える。秋の文化祭の出し物について放課後に聞くから、松丸が他の奴らの意見まとめといてくれ。まあクラス全員で9人じゃできることも大してないだろうから去年と一緒でクラス展示にしようと思ってるし、他のクラスも同じだろう。一様学校のルールだから放課後に投票はするけど、な。俺も忙しいんだ、スマートにいこう。言ってる意味わかるよな。じゃ、1限から5限までは自習だから、各自勉学に励むように。」
中年男性は汗を拭いながらそそくさと帰っていった。
「くそじじいが。何がクラス展示だ。あんなのただの日記発表会じゃねえか。」
川島がコワモテの顔をさらに怖くしながらつぶやく。
「しょうがないよ。私たち放流組だからね。」
中村が下を向きながらつぶやく。
「「だよなあ」」
皆が下を向く。だが一人下を向いていない者がいた。そして彼は言った。
「文化祭、映画撮ろうぜ、映画。」
石井の発言に皆が困惑し、黙った。その沈黙を破ったのも石井だった。
「だから、文化祭で映画撮ろうぜ、映画。」
もう一度聞いた上で皆が言う。
「「いやいやいや」」
「楽しそうじゃんか、映画とるの。なんか協力プレイって感じで。」
石井が畳み掛ける。
「楽しそうとか以前に無理だろ。あのクソジジイたちが俺たちの言うことなんて聞かねえよ。」
野村がぶっきらぼうに言う。
「彼らはスタンフォード監獄実験の看守だからね。」
泉が口を挟む。
「泉さんは何言ってるかわからないけど、野村。確かにあいつらは俺たちの言うことは何も聞かない。それは事実。ただあいつらだって全ての事柄に無茶苦茶できるわけじゃない。ジジイたちが縛られてるモノが何かわかるか?」
「もったいぶった言い方がほんと好きだな石井は。はいはいわかりません。」
野村はそっぽを向くが、そんなことはお構いなしに石井は口を動かす。
「それは、ルールだ。あの日から、この国はあの日あの時を生きていた人間にとっての幸せな社会を作っている。その結果が俺たち放流組でもあるわけなんだが、40人1クラスだったのが10人1クラスになったのも余りすぎてる大人のためだしな。そうやってあの日の人間にとって都合のいいルールに全てを変えてこれからの俺たちに従わせているんだ。だからこそルールは公正でなくちゃいけない。あんなに俺たちをゴミ扱いしてても、文化祭もやって、修学旅行もあるのはそう言うルールが決まってるから。だからどんなに嫌でもそれがルール違反でなければあいつらは従わざるをえない。それがあいつらを支えてるから。どう、映画とれそうじゃない?」
皆の反応はまちまちだったが伊藤が口を開いた。
「なんとなく映画撮れそうなのはわかったんやけど、9人で映画とれるもんなんか?」
「二年生全員巻き込んで撮ろう。」
石井の発言に再びクラスがざわつく。
「4クラス合同でやるってこと?」
大澤が首を傾げる。
「結構厳しいんじゃないかな?出し物を決めるのが今日の夕方でしょ。授業中は外に出れないし、昼休みの間に他の3クラスを説得しなきゃいけないんだよね。」
「いやそもそも俺らでもやるって決まってないだろ。」
野村は相変わらず憎まれ口を叩く。
「宮島はどう思う?」
松丸が話をふる。
「」コクッ
「いやなんか言えよ。知ってたけど。それでさ、一様俺があいつらに報告することになるだろうから一旦今までの話まとめるけど、決めなきゃいけないのはまず映画をやるかどうか。もしくはその他の何かをやるかとは思ったけどそれは考えなくていいか。んで次にやるとして、どうやって他のクラスを説得するかだな。そしたらまずやるかはどうかはどうやって決める?多数決で決めるか?」
「松丸、多数決なんて野暮な決め方やめようや。俺は川島に決めてもらうのがええと思う。」
「石井はそれでいいか?」
「クラスのリーダーは川島だからね。異論はないよ。川島どう?映画撮ろうよ。」
川島は強面をしかめる。そして口をあける。
「やるべ。」
そうしてどうやって他のクラスを説得するのかに話は移っていく。
「川島がやるっつったって俺は納得してないからな。」
「はい素直になれない野村くんは置いといてやるって決まったなら、私たちは建設的な話し合いをしましょ。」
「大澤、俺は別に嫌だとは言ってねえよ。無理だっていってんの。」
「決まったことにグダグダうるさいわね。無理とか不可能とかいってじっとしてる方が楽しいならそうしてなさいな。あと碇シンジて呼ぶわよ。」
「泉まで石井の味方かよ。そして誰だよそれ。」
「野村の憎まれ口は今に始まったことじゃないしもういいやろ。んで説得についてだけど石井に考えはあるんか?」
伊藤が場を仕切りなおす。
「とりあえず一組のリーダー眠りの島田こと島田は中村が説得したら大丈夫だと思う。二組のリーダー山田は俺が行けばなんとかなると思うからあとみんなと作戦考えたいのは四組をどうするかかな。」
「私で本当に大丈夫?」
「大丈夫大丈夫。島田は三代欲求に従順だから。」
「島田はなんとなくわかるけど。山田を説得するつてがあるのか?」
松丸が聞く。
「山田には俺の秘蔵の紙の漫画本を交渉の材料にする。あいつはレアとか珍しい物に目がないからな。」
「まじ?!それって放流後に売ればだいぶいい値段になりそうだけど。」
「いいんだよ。そんなもんで良い時間が買えるなら安いもんだ。」
「奇特なやつだ。宮島もそう思うよな。」
「」コクッ
「なんか言えよ。まぁいいや。んで四組のリーダー堀をどうするかか。あいつってかあのクラスは優秀てか俺らと違ってまだ諦めてないからな。多分難しいぞ。」
「「うーん」」
皆が各々の考えを述べるが有効な説得方法を思いつかないまま時間は過ぎていく。一度きりのチャンスである昼休みまでの時間が近づいてくる。
「四組だけはしょうがないってのはどう?こんだけ考えてもなんもでてこないしさ。」
大澤がいう。
「それも一つの考えやな。一二組を説得できたらそれで人は足りそうだし。石井どうだ?」
「時間もないし、そうするしかないか。」
「いや、一ついいか。」
川島が口を開く。
「決闘法を使おうと思う。」
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