第069話 報酬の使い道

「ほ、ほら。落ち着いて。ただ、一つだけお願いがあるんだけどいいか?」


 泣きだした二人を宥めながら問いかける。


 ただ、俺にはどうしても欲しい物が一つだけあった。


「うっ……な、なんですか?」

「ぐすっ……シュウ君のお願いならなんでも聞いちゃうわよ」


 父さんと母さんは俺の声を聞いて涙を拭いてから顔を上げた。


「スマホが欲しいんだけど、どうかな?」

「あ、ああ……そういうことですか。確かに今はスマホがないと不便ですもんね」

「そうね……式神を使えば連絡は取り合えなくないんだけど、リアルタイムのやり取りとはいかないものねぇ」


 俺が欲しかったものを聞いた二人もウンウンと頷きながらスマホの必要性を語る。通話やトークアプリにより連絡ですぐにやり取りが出来るのはかなり便利だ。


 待ち合わせなんかしても何かあれば事前に連絡できるしな。


 しっかし……この人たち普段は式神を通して連絡を取り合っていたのか。でも俺は、すぐにドラゴンみたいな巨大な式神になってしまうから、式神でのやり取りは難しそうだよな。


 そう考えるとやはりスマホは持っていたい。


「いいなぁ。僕も欲しいです」

「キュイッ」 


 光明もスマホを欲しがり、何故かちゃぶ台の上に乗っているキュウも皆の真似をする。


 まぁ……可愛いから許す。


「そうですね。これだけあれば、家族全員で申し込んで少し安くしてもらえれば暫く使い続けるのは問題ないでしょう。折角なので家族全員のスマホの契約にいきましょうか」

「そうね。そうすれば色々手間が減るから賛成よ」


 父さんから思いがけない話が出る。それは母さんも賛成のようだった。まさか全員がスマホを持つことになろうとは思わなかった。


「やったぁああああっ」

「キュィイイイイッ」


 話を聞いていて自分もスマホが持てると分かった光明は、俺と一緒に仕事ができると知った時と同じくらい喜んでいる。キュウもスマホのことは良く分かっていないみたいだが、俺達が皆喜んでいるのを見て嬉しそうに鳴いた。


「それじゃあ、早速携帯ショップに行きましょうか」

「そうね。善は急げって言うし」

「思い立ったが吉日とも言いますしね」


 全員がスマホを持つのに乗り気になった結果、俺達はすぐにスマホの契約に行くことになった。


「そういえば、君にはこの前あの件で――」

「割引させていただきます!!」


 父さんの知り合いの店に行って、二人が小声でいくらかやり取りをした結果、割安でスマホの購入ができた上に、月々の支払いも家族で契約することでサービスによって二千五百円くらいで良いことになったらしい。


 これなら家族全員で月々一万円程度。年間でも十二万円程だ。一千万あれば数十年持つから問題ないだろう。


 俺達は自分たちのスマホを受け取って店の外へと出る。


「それじゃあ、また来ますね」

「はい、お待ちしております」


 父さんの別れ際の挨拶に、若干口元を引きつらせながらも俺達の見送りをするオーナー兼店長。


 一体父さんは彼にどんな話をしたのか気になるところだが、ツッコんだら藪蛇になること間違いなしなので、何も聞かずにスルーすることに決めた。


 触らぬ神に祟りなしの精神だ。


 こうして俺達は思いがけない報酬のおかげで遂に最先端の文明の利器であるスマホを手に入れた。その日は家族皆でスマホを弄りながら一生懸命使い方を覚えることになった。

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