第029話 あり得ないはずの仮定(別視点)

■葛城美玲 Side


 スッキリするまで泣いた私は泣き疲れて眠ってしまったらしく、私は気付けば目を覚ました病室に連れ戻されていた。


 起きたのは次の朝だった。


 それを聞いた時は恥ずかしくて思わず顔を覆って蹲ってしまったほどだ。恥ずかしいところを小さい頃から見られているけど、恥ずかしいものは恥ずかしい。


 他の全員も検査結果としては全く問題なかったけど、皆からの証言であり得ないことが起こっているのは間違いなかったので、数日は入院することになった。


「それじゃあ、誰も見てないんですね?」

「ええ。私はもちろんの事、他の誰もが意識を失っていたため、なぜ土蜘蛛が死んでいて、私たちが生きているのか分かっていません」

「そうですか……」


 副支部長はすでに陰陽師達から話を聞いてくれていたようで、翌日改めておじさんの部屋を訪れた私に語ってくれた。


 他の同僚の部屋も訪れたが、私の前で確実に刺されていた人たちも生きていて、お互いに抱き合って喜び合った。


 そこで少し聞いた話と副支部長がまとめていた内容は全く変わらない。


 入院前に目を覚ましていた人から聞けたのは、襲撃などなかったかのように陰陽師協会が綺麗に直っていたという。


 もう私の理解を遥かに超えていた。


「一体誰がこんなことをしたんでしょうか?」


 一通り話を聞いた私は腕を組んで唸る。


「そうですね。私にも分かりませんが、案外近くにいるかもしれませんよ?」

「それこそありえないですよ」


 考え込む私を茶化す副支部長に呆れながら答えた。


 実際そんな相手がいるわけ……。


 返事をした後で、何故かあいつ……シュウの顔がまた思い浮かんできた。それと同時に私はあいつに抱きかかえられていたような感触を思い出す。


「まさかアレが夢じゃない……?」


 私の中にあり得ない仮定が生まれる。


 いや、そんなバカな話はない。少なくともあいつは力に目覚めたばかりの見習い。何かできるはずがない。


 しかし、陰陽師の中にやった人間がいないとなると、避難していた人達の中に力の持ち主がいたという可能性が一番高い。勿論外部からという可能性も否定はできないけど。


 いや、思い出した。あいつは伝説の太極属性言われる存在だ。もしかしたらその可能性もあるかも……。


「どうかしましたか?」

「い、いえ、何でもありません」


 副支部長の声で思考の海に沈んでいた私が引き上げられ、ハッとして首を振った。


「何か心当たりでも?」

「いえ、何も無いですよ。絶対にありえない事なので大丈夫です」


 思い浮かんだのは何の根拠もない妄想なので、聞かせるようなものじゃない。


「そうですか。それでは引き続き調査してもらうしかないでしょうね」

「そうですね、父であればあるいは何を見つけてくれるかもしれません」

「ええ。私達ではこれ以上は持て余します」


 何も証拠が残っていない以上、これ以上考えてもどうしようもないと結論づけて話を終えた。


「うーん、やっぱり気になるわ」


 自分に割り当てられた病室に戻ってベッドに横になると、思い浮かぶのはあいつの顔ばかり。


 このままでは悶々としてしまい日々の生活に支障が出そうだ。


「あ、そうだわ。あいつはまた初心者講習を受けるはず。あいつの講師を私が専属で担当すれば何か分かるかもしれないわ。師匠と弟子ならおかしくはないわよね」

 

 私はシュウが土蜘蛛を倒したのではないかという疑問を晴らすため、あいつを暫くを近くで観察し、探ってみることにした。

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