第028話 もう二度と会えないはずだったのに(別視点)

■葛城美玲 Side


「あの……他の人たちに会うことは出来ますか?」


 未だに信じられないが、彼女の言葉が正しければ彼らは生きている。この状況を確認するためにはその生きている人たちに会うしかないだろう。


 何よりが生きていると思うと気が気ではなかった。


「ええ。皆さま目を覚まされているので面会は可能ですよ。ご案内しますか?」

「はい、お願いします!!」

「その前に検査がありますので、それが終わってからでよろしいですか?」

「わ、分かりました」


 つい気が逸ってしまったけど、私は意識不明の状態でここに運びこまれ、たった今目を覚ました状態。調べられて当然だった。


 食い気味だった私は一気に頭が冷えるのを感じ、恥ずかしくなってしまった。


 その後、私は検査と診察を受け、結果として体のどこにも異常はなく、健康そのものだということが分かった。ただし、暫くの間は様子を見るため入院しなければならないようだ。


 確かに何故か分からないけど意識を失う前よりも調子がいいくらいで、私も正直びっくりしている。本当に何もかもが分からないことだらけだ。

 

「こちらの向こうの部屋は全て今回の事件の関係者が入院しています」


 検査が終わった私は同僚たちが入院している病室が集められている区画にやってきた。


「あ、あの、副支部長はどこですか?」

「副支部長さんは個室ですので、こちらへどうぞ」


 ここは陰陽師協会と提携している病院の一つ。そのため副支部長と言えば通じた。


 私は誰よりも先に副支部長の無事を確かめたかった。またいつものように私に優しい顔で微笑んで欲しかった。あの大きな手で撫でてほしかった。


―コンコンッ


「どうぞ」


―ドクンッ


 たどり着いた病室のドアを看護師さんがノックをすると、中から返事が返ってきた。その声は私がよく知っているもので、もう聞けないと思っていたあの人の声だった。


 それだけで私の鼓動が跳ねる。


「失礼します」

 

 看護師さんがドアをスライドさせて、中に入っていく。私もその後に続いて室内に足を踏み入れた。


「おや、美玲様じゃないですか。ご無事で何よりです」


 そこには私の前で命を失ったはずの副支部長がいつもと変わらぬ姿で私を見るなりニコリと微笑む。


「本物なのよね……」

「ええ勿論。他の誰かに見えますか?」

「現実なのよね……」

「ええ。ほっぺをつねってあげましょうか?」


 飄々としながら私を揶揄う副支部長。それは他の誰でもない紛れもなく私が小さなころから大好きなおじさんだった。


 もう私はそれだけで無理だった。


―ドンッ


「おやおや、どうされたんですか?」

「お゛し゛さ゛ん゛ふ゛し゛て゛よ゛か゛っ゛た゛ぁ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛っ」


 私は副支部長の顔を見るなり気付けば彼に体当たりして縋りついて泣いていた。


「ははははっ。なぜか死に損なってしまいましたよ」


 私は副支部長の顔は見えなかったが、絶対苦笑いを浮かべながら頭を掻いているのが分かった。


 おじさんがよくやる仕草だからだ。


―トクンットクンッ


 抱き着いているおじさんから確かに生きている音とぬくもりを感じる。


 おじさんが生きている。


 その事実だけで私はいつまでも泣き続けた。

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