第021話 激おこぷんぷん丸

 これはどういう状況だ?


「何奴だ?」

「まぁいいか。俺は通りすがりの陰陽師見習いだ。ひとまず美玲を返してもらおう」


 デカい蜘蛛が何か言っているが、俺は適当に返事をした後で宙吊りになっている美玲を解放し、抱きかかえて着地した。


 かなり衰弱しているが、まだ息がある。


 なんだか生命力がかなり薄くなっているが、一体何をしたらこんなことになるんだ?


 まるで命を代償にする禁忌の魔術でも使ったみたいだ。


「シュウ……?」


 俺の腕の中でぐったりとしている美玲が薄っすらと眼を開けて力なく俺の名を呼ぶ。


「今はゆっくり休んでおけ」

「そうね……シュウが助けに……来る訳ないもの……これは夢ね……」

「そうだな。これは夢だ。おやすみ」

「ええ……おやすみ……シュウ……」


 俺は夢現の美玲をそのまま魔術で睡眠に誘導して地面に横たえた。


「ライフトランスファー、パーフェクトヒール、ピュリフィケイション」


 俺は自分の生命力を美玲に移してから体の傷を治し、服と体を綺麗にしておいた。


 服が破れてなかなか煽情的だ。


 昔とは違うんだな……。


 改めてみる今の美玲は小さい時と比べて綺麗な女の子になっていた。寝てる姿は可愛らしい美少女そのもので、俺は安らかに眠るその頭をサラリと撫でた。


「ん……」


 美玲はくすぐったいのか、身じろぎして寝返りをうつ。


 普段もこんな風だったら可愛げもあるのに……。


 美玲の普段の様子を思い浮かべていたら、後ろからの攻撃の気配を感じた。


―ガキンッ


 不意打ちをしてきた巨大蜘蛛の攻撃を阻む結界。


「無粋な奴だな」


 俺は立ち上がって結界内から出て呆れ顔で肩を竦める。


「何!?」


 自分の攻撃が阻まれるとは思っても見なかったのか、巨大蜘蛛はその醜悪な顔を困惑に染めた。


 俺は周囲を見回す。


 誰一人として陰陽師側で立っている者はおらず、見える範囲だけでも数十人は命を失っていた。


「今はこいつとの再会を喜んでいたところだろ。何攻撃してるんだよ」

「それはこちらの台詞だ。ワシを無視しおって。どうやってワシからその女を奪い取り、ワシの攻撃を防いだのか分からないが、許さんぞ?」


 俺が不機嫌に言えば、相手も眉間に深い皺を寄せて俺を威圧してくる。


 正直全く怖くない。


「そんなこと知るか。それより俺は今凄くむしゃくしゃしてんだよ。なんでか分かるか?」


 俺が怒気を滲ませて巨大蜘蛛に尋ねる。


「……陰陽師共を殺し、そこの女子おなごを痛めつけたからであろう?」

「ちっげぇよ!!よくもあの糞蜘蛛どもを嗾けてくれたじゃねぇか。おかげでここまで来るのに時間がかかっちまった」


 蜘蛛のニヤリと笑ってあざ笑うように答えるが、俺は思いきり否定してやった。


 それも理由としてはゼロはないが、それよりも本命はこっちだ。


「そ、そんなことでか?」

「そんなことだと!?どんだけ全部倒してくるのが面倒だったか分かるか!?次から次へと襲い掛かってきやがって……何度建物ごと吹っ飛ばしてやろうと思ったか……。でもここには陰陽師達や逃げ遅れた人なんかもいるかもしれないからな。なくなく!!そう……なくなくごく少数ずつを相手にしてやったんだからな!!」


 なんだか可哀そうな物を見るような視線を感じるが、俺にとってはとんでもなく苦痛だったんだから仕方ない。


「お、おう……」


 言葉を失う巨大蜘蛛。


「だから、その元凶であるお前をボコボコにしないと気が済まん。やるから覚悟しろよ?」


 なんだか凶悪なモンスターにドン引きされているような気もするが、それ以上気にすることを止めて宣戦布告して拳を突き出した。 


「ほう。ワシを相手にして大層な事を吐くではないか。先ほどワシの攻撃を防いだからくりは分からぬが、舐めた口を聞いたことを後悔させてやろう」

「望むところだ」


 相手も調子を取り戻したようで口端を釣り上げ、俺も応えるようにニヤリと笑った。

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