第018話 それでもなお届かない(別視点)

■葛城美玲 Side


 許せない。


 自分に力がないことが。


 許せない。


 ただ見ていることしかできなかったことが。


 許せない。


 私のせいで副支部長を死なせてしまったことが。


 許せない。


 副支部長を殺した目の前の存在が。


 もっと私に力があれば……。


 許せない……許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない!!


『燃やせ』


 私の奥から呟きが聞こえる。


『燃やせ。気に入らないもの全て』


 再び脳内に声が響くと、私の中にある憎しみが膨れ上がった。


―ドンッ


 いつもの私からはあり得ないほどの霊力が私の奥から湧き上がって爆発する。周りにいた大蜘蛛が吹き飛び、私の髪の毛をたなびかせる。


 私の周りには火の霊力があふれ出して私を包み込む。その霊力はそれそのものが火の属性を帯びていて、吹き飛んだ大蜘蛛達は燃え上がっていてもがき苦しんでいた。


「ほう……なかなかの霊力だ」

「許さない!!」


 私は嘲笑するかのような態度の土蜘蛛を睨みつける。


「何をどう許さないというのだ?」

「あの人を殺したことを私は許さない!!お前を燃やしてやるわ!!」

「ふはははっ。やってみせろ。お前もさっきの木偶と同じようにしてやろう」

「~~!?死ねぇえええっ!!」


 私のことを悪く言うだけならともかくあの人を馬鹿にするのは許さない!!


 私は思いきり地面を蹴って土蜘蛛に拳を突き出していた。


―ジュウウウウウウッ


「ぐぬっ!!」


 土蜘蛛は私の攻撃をよけられずに受けた。肉が焼ける音と匂いが漂う。


「はぁああああああああっ!!」


 私はその隙を逃さずに突きを連続で放ち、最後の止めとばかりに思いきり殴り飛ばした。


「ぐぉおおおおおおおっ!?」


―ドォオオオオオオオオンッ


 土蜘蛛は苦痛の声を上げながら吹き飛び、陰陽師協会の壁に激突する。


「はぁ……はぁ……」


 私は息を上げながら、土煙で見えない土蜘蛛を威圧した。


 突然湧き上がった力はそれと同時に私の体力を凄まじい勢いで削っていき、息切れしてしまう。


「なかなかやるではないか。少しだけ焦ったぞ」


 土煙を吹き飛ばし、現れたのはあちこちを私の炎で燃やされて黒焦げになった姿の土蜘蛛だった。


「こちらからも行くぞ!!」

「黙りなさい!!」


 土蜘蛛が私に迫る。


 しかし、その動きはきちんと瞳に映っていて、私は攻撃を掻い潜り、胴体の上に乗って拳を振り下ろした。


「ぐぅううううううううっ」


―ドドドドドドドドドドッ


 苦悶の声を漏らす土蜘蛛を燃やし尽くすつもりでひたすらに拳を突き刺す。


「燃えろぉおおおおおおおおっ!!」


 目の前から紫の体液が飛び散るが、私の周りの真っ赤なオーラに触れただけで蒸発して煙となって消えた。


 このまま倒せる、副支部長の仇を取れる私はそう思っていた。


「調子に乗るなよ、小娘」


 しかし、先ほどまでとは打って変わって怒りをにじませた土蜘蛛の声が聞こえた。


「がはっ」


 そう思った時には私は壁に叩きつけられ、訳も分からないまま苦悶の声を出すことになった。

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