第005話 一家の危機?あいつならすぐに旅に出たよ
「お、おい、どうしたんだよ父さん!?」
「はははっ……下手を打ってしまいました……」
父さんは、その眼鏡をかけた如何にも苦労人という言葉がピッタリな人の良さそうな顔に力のない苦笑いを浮かべて答える。
「ぢがう……僕が……ぐすっ……僕が調子に乗ったから……うっ、ぐすっ……」
しかし、隣で体格差のある父さんを支えている弟の
二人は陰陽服を着ていて任務に出ていたことが分かる。弟は俺と違って霊力が高かったので陰陽師として教育を受けていた。中学生に入ってからは父の下について簡単な通常業務や依頼についていくようになっていて、今日もそのどちらかに付いていっていたらしい。
「あ、あなた!? ど、どうしたのよ!?」
騒ぎを聞きつけた母さんが玄関にやってきて怪我をしている父さんを見つけるなり、悲鳴に近い声で叫ぶ。
そりゃあ、自分の夫がいきなり怪我だらけで帰ってきたらびっくりもするよな。
「はははっ。ちょっと妖退治の依頼を受けたんだけど、思いのほか手ごわくて怪我しちゃいました」
「もう!! 心配させないで!! あぁ……あなたが無事で本当に良かった……」
「いたたたた、母さん痛い、痛いですよ!?」
苦笑したまま返事をする父さんに母さんは瞳を潤ませて抱き着く。弟は母さんに弾き飛ばされてしまった。父さんは痛みで顔を歪めながら母さんに訴えかけるが、心配で頭がいっぱいの母さんの耳に入らない。
「とりあえず、詳しい話は居間で聞かせてちょうだい」
「あ、ああ。わかりました……」
しばらく経って父さんから離れた母さんがニッコリと笑って言えば、父さんは引きつった笑みを浮かべて返事をした。
「話をまとめると、みーちゃんがパパの言うことを聞かずに独断専行して殺されそうになったところをパパに庇われて助かったということでいいのかしら?」
「ま、まぁ言い方を変えればそう言えないこともない……こともない……こともない……ですかねぇ」
居間に移動して腰を下ろした俺達四人。話を聞いた母さんが二人に問いただすと、父さんは往生際が悪く、ここまで来ても出来るだけ光明を庇うように曖昧に返す。
父さんは出来るだけ自分で責任を負おうとする傾向がある。今回も弟にどうにか責が及ばないようにしようと思っているんだろうけど、母さんがそれを許すはずもない。
「もういいよ父さん。お母さんの言う通りだよ、僕が悪かったんだ……。ごめんお父さん、そしてお母さんもごめん」
「はぁ……ちゃんと反省しているみたいだからいいわ。父さんも生きてたし。次から調子に乗らないようにするのよ? 妖は油断していい相手じゃないんだから」
「うん。分かったよ」
弟は物凄く落ち込んで怪我をさせた父さんと心配させた母さんに謝り、母さんもそれを許して一件落着……。
「でも困ったわねぇ……」
「何が?」
「父さんが暫く働けないとなるとウチの収入がなくなるわ」
とはいかなかったらしい。
ぼろ屋敷に住んでいることから分かるようにウチは貧乏だ。だから父さんが働けなくなると収入源がなくなる。母さんも元陰陽師だけど専業主婦だし、すぐに働き出すというのは難しいだろう。
「それなら僕が!!」
「さっき言った事を忘れたのかしら?」
「ひっ。申し訳ありませんでした!!」
「分かればいいわ」
となると、すぐに収入が得られそうなのは仕事を手伝っていた光明になるわけだけど、今日調子に乗って死にかけたばかりなのに一人で仕事なんてさせるわけにいかない。
母さんの有無を言わせない笑みに、光明が怯えてすぐに土下座して言葉を撤回した。
「そういえば、陰陽師には治癒を司る術もあったはずだよな?なんで治療受けないんだ?」
ふと疑問に思って尋ねる。
陰陽師のことはあまり知らないけど、そういう医療系の術みたいなものがあったことは覚えていた。仕事で怪我をしたのならそれで治してもらえばいいはずだ。
「いいですか。秋水君」
「ん?」
父さんが真剣な表情で俺を見つめるので俺も見つめ返して首を傾げた。
「陰陽師の治療はね。物凄く高いんです」
「だから?」
「ウチにそんな金はないんですよ!!」
「それ自慢することかよ……」
続けられた言葉をさらに促すように言えばドヤ顔で胸を張る父さん。
その態度に俺は呆れてしまった。
ただ、このままでは家族が路頭に迷ってしまう。家族のためだ。たかだか骨折を治すくらいの魔術なら使ってもそれほど問題ないだろう。あっちの世界でも骨折治すくらいの魔術なら付き合いのあった人間は皆使っていたからな。
俺は父さんを魔術を使って治すことにした。
「父さんが治れば問題ないんだよな?」
「え、ええ。それは勿論。それがどうしたのかしら?」
母さんに確認を取れば、突然口を挟んだ俺に少し狼狽えながら母さんは返事をする。
「ハイヒール」
「「「は?」」」
母さんの言質を取った所で俺は回復魔術を使用した。三人は目が点になってアホみたいな声を出した。
魔術はそんな三人を置き去りにして父さんを包み込み、白い淡い光を放つ。十秒ほど経ったら光が納まった。
これで骨折くらいなら治ったはずだ。
「どうだ?」
「どうって言われても……」
「腕と足、動かないか?」
「え?」
父さんに話しかけたら、父さんは何を言われているのか分からないらしく困惑するばかり。だから、再度分かりやすいように助け船を出してやると、父さんはまた呆けた顔になった。
「いいから動かしてみろって」
「え、ええ……あれ? 動きます、動きますよ!! 痛みも全く無い!! 一体何が!?」
俺の言葉を訝しがりながらも父さんが手と足を動かそうとすれば、何も問題なく動いたようだ。調子に乗って立ち上がって軽く動き回って足と手の感触を確かめた後、俺に視線を向けて答えを求める。
「術で治したんだよ」
「「「えぇええええええええ!?」」」
俺が肩を竦めて応えたら、目玉が飛び出しそうになるほどに三人には驚かれてしまった。
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