能無し陰陽師は魔術で無双する〜霊力ゼロの落ちこぼれ、実は元異世界最強の大賢者だけど、平穏に生きたい〜

ミポリオン

第一章 前世の目覚め。目指せ平穏な幸せ!!

第001話 子供を助けても異世界転生はしない

鬼一きいちまた明日な」

「ああ。また明日」


 高校のクラスメイトに手を振り、帰宅部の俺は教室を出る。


 季節は残暑の残る九月。辺りは黄昏に染まる頃。学校の外に踏み出すと生温い風が肌を撫でた。


「わぁ~」

「きゃっきゃ!!」


 帰り道の途中の公園では子供たちが遊んでいる。


 長閑な風景だ。こんな光景が見られるのも陰陽師達が人に害を成す"あやかし”から守ってくれているからだ。


 妖というのは妖怪や悪霊と呼ばれる人に害を成す存在たちの総称のことだ。小さな妖でも数十人単位で犠牲が出るのはよくあることだし、大きな妖ともなれば町規模での被害が出る。


 そんな凶悪な妖を調伏して日本を守護しているのが、高い霊力を持ち、妖に対して対抗手段を持っている陰陽師と呼ばれる人間たちだ。


 俺もれっきとしたその陰陽師の家系の長男だけど、全く霊力がないことが分かってからはそっちの訓練や教育は一切されなくなり、ほとんど一般人として育てられた。


 そのため、陰陽師に関しての知識も能力もないに等しい。


 ただ、その平穏な世界は非常に危ういバランスの上に成り立っている。その均衡はいとも容易く崩れてしまった。


「「「「「きゃー!!」」」」」


 通り過ぎようとしていた公園から多数の悲鳴が上がった。


「~~!?」


 俺はビクリとして思わず振り返る。


 そこには一般的な成人男性よりも背が高く、プロレスラーよりも筋骨隆々の二足歩行の緑色の肌を持つ存在が、まるで粒子が集まるように徐々に体を構成している光景があった。


 頭には天に向かって伸びる二本の白い角が生えており、般若のように恐ろしい顔に、獰猛そうな真っ赤な瞳を持っている。まさに鬼と呼ぶにふさわしい容姿だ。


 その手にはもはや木と言ってもいい程の太さがあるこん棒が握られていた。


 そいつの数メートルほど前には、腰を抜かして動けなくなってしまった子供が鬼を見上げて恐怖で涙を流していた。ただ、あまりの怖さに顔を引きつらせ、泣き叫んですらいなかった。


 どうやら逃げ遅れてしまったらしい。


「くそっ!! なにやってんだ!!」


 俺は静かに叫ぶ。


 その言葉は逃げようとしない子供と、その子供を助けるために鞄を投げ捨てて駆けだしている俺に向けて言い放った言葉だ。


 霊力がない俺があの鬼に敵う可能性はゼロ。明らかに無謀でしかない。それなのに小さな子供を放っておくことが出来ずに足が勝手に動いていた。


 俺は全速力で子供に向かって走る。


「グォオオオオオオオオオオッ」


 完全に現界を果たした鬼が咆哮を上げた。その後で視線を落とし、子供を見つけるとニヤリと口端を釣り上げてこん棒を振り上げる。


 子供まで残り三メートル。


 足がちぎれてしまいそうな程に痛むが、構うことなく力の限り駆け抜けてヘッドスライディングするように子供に飛び込み、その勢いのまま子供を突き飛ばした。


 その瞬間、世界がスローモーションで動き出す。


 視線を上に動かすと巨大なこん棒が俺めがけてゆっくりと落ちてきていた。


 動け!! 動け!! 動けぇええええええええ!!


 必死に心の中で叫んで体を動かそうとするが、周りの景色同様にゆっくりとしか動かすことができない。


 くそっ!!


 俺は躱すのを諦め、なんとか防御しようと必死に腕を動かす。


―ドゴォオオオオンッ


 徐々に落ちてくるこん棒。俺に当たった瞬間に世界のスピードが元に戻った。


―ボキボキボキボキッ


「ぐわぁあああああああっ!!」


 辛うじて腕を頭の上でクロスすることが出来たが、こん棒を叩きつけられて骨が折れる音が脳内に響き渡り、激痛が全身を襲った。


 俺は地面をボールのようにバウンドして転がっていく。痛みで朦朧とする意識の中、変な映像が頭の中に走馬灯のように流れ始めた。


 それは剣と魔法があるファンタジーな世界で大賢者と呼ばれた男の人生。その名もアルフレッド・ソロモン。その男は魔術を極め、膨大な魔力を持つ最強の人物だった。


 俺はその映像がなんなのか感覚的に理解した。その大賢者は何を隠そう俺の前世の姿だったのだ。それと同時に今まで記憶の奥底に沈んでいて思い出すこともなかった魔術の記憶が蘇る。


「パーフェクトヒール」


 俺は自然に呟いていた。体の周りを淡い光が包み込み、次の瞬間には体中から痛みが消えていく。


「どうやら問題ないみたいだな」


 その言葉の通り折れたはずの俺の体の骨は完全に元通りになっていて、鬼から受けたダメージは全くなかったことになっている。


 この世界でも問題なく魔術を使えるようだ。


 俺は、ヒョイっと飛び起きた。


「よくもやってくれたな」


 俺は左手で右肩を押さえ、右腕をグルグルと回しながら鬼に向かって歩き出す。しかし、鬼は俺に目もくれず再び子供に向かってこん棒を振り上げていた。


 子供は俺が突き飛ばしたせいか気を失っている。


「人がせっかく助けた子供だというのに何をしようと言うんだ? プロテクション」


 俺は鬼に文句を言いながら子供に向かって掌を向けて魔術名を唱える。その瞬間、子供の周りに半透明のドームが形成された。そのドームは結界であり、外部からの攻撃を防ぐ効果を持っている。


 もう攻撃を止めることが出来なくなった鬼は、こん棒をそのまま結界に叩きつけた。


―バギィイイイイイイッ


 結界に阻まれたこん棒は、その頑丈そうな見た目とは裏腹にあっけなく折れてしまう。


「たいした事のない武器だな。魔法くらい付与しろよ」

「グォオオオオオオオオオオッ」


 俺が武器に何の工夫もしないことに呆れて首を振ると、こん棒が折れたのが俺のせいだと気づいたらしい鬼が苛立たし気な表情を隠さずに叫びながら襲い掛かってきた。


「ただ突っ込んで来るなんてゴブリンと同じだぞ? ファイヤーボール」


 複雑な動きもなく、ただ直進してくる鬼に対して掌を向けて別の魔術を唱える。その直後に俺の掌からバレーボール大の漆黒の炎の球が発射された。


―ボッ


 その炎は弾丸よりも早く突き進んで鬼に着弾。


「グォオオオオオオオオオオッ!?」


 その部分から一気に燃え広がって鬼の体を黒い炎が包み込んだ。


 五秒後。


 そこには塵一つ残っていなかった。




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いつもお読みいただきありがとうございます。

カクコン用の新作を公開しております。


戦乙女ヴァルキリー学園の世界最強の寮母さん(男)〜雑用をしているだけなのに英雄扱いされています〜

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どうぞよろしくお願いいたします。

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