第5話 生まれて初めての、告白

「「いただきます」」


 千歳と同時に手を合わせた後、ドーナツを口に入れる。

 至福の甘さが口の中をめぐる。カスタードクリームとやわらかいドーナツの生地が最高にあっていておいしい。


 千歳も、ドーナツを包み紙ごと掴んでドーナツを口に入れた。


「うん、やっぱりおいしい」


「いつも、それ頼んでるの?」


「うん。たまにほかの頼もうと考えるんだけど、やっぱりこれになっちゃうのよ」


「わかる、新しいのに挑戦しようと目移りして、結局定番になっちゃうよね」


「私もそう。でも、これ──ちょっと味わってみたいって気にならない?」


「まあ、次はそれ頼んでみ──」


「ということで、よかったら一口食べる?」


 俺の言葉が終わらぬうちにそう言葉を返して、3割ほど食べていた「チョコゴールド」を差し出してくる。


 初めからこれが狙いだったな──。とても気分よさげだ。

 満面の笑みに断る勇気が持てず、コクリと頷く。


「わかった、じゃあ一口だけ」


 そう言って差し出されたドーナツを首を伸ばしてちょっとだけかじる。口に入れたドーナツの生地をゆっくりと味わう。ココア味のドーナツの生地と、砂糖の塊みたいな甘さの黄色い塊がとてもいい味を出していておいしい。


 初めて食べる味だけれど、次からこれを選んでみてもいいかもしれない。

 そして、ミルクティーを少し飲んでから再び自分の『エンジェルクリーム』を口に入れる。

 甘いクリームとミルクティーがよく合っている。


 そして、千歳はなぜかにこにこしてこっちを見ていた。まるで何かをねだっているかのように。何を考えているのか──ああ、そういうことか。


 俺は自分の『エンジェルクリーム』を千歳の目の前に差し出す。


「お返しに、食べる?」


 千歳は嬉しそうな表情で手を重ねて言葉を返してくる。


「わあぁっ。くれるんだ。恵一君、ありがとう~~」


 千歳は俺の差し出したドーナツをじっと見つめた後、嬉しそうな表情なまま一口かじった後丁寧にドーナツをもぐもぐと咀嚼。


 目をつぶって、味わうことに集中しているようだ。なんていうか、一つ一つのしぐさが細かくてとても丁寧な印象を受ける。


 上品で、美人の女性という印象だ。


 7割ほど食べ終わると、口周りにこびりついた砂糖を拭いて千歳に話しかける。


「そういえばさ、話したいことって何?」


 千歳は残りのドーナツをすべて食べ終わり、視線を外の景色へと向ける。遠くの場所をぼんやりと視線にとらえながら話し始めた。

「初めて、あなたと会った時のこと──話していいかしら?」



「小学生のころ、一緒のクラスで過ごしてきたじゃない? 覚えてる?」


 その言葉に思い出す。2年生くらいの時だった。


「やめて、離して──」


「いいじゃんかよ。いじわるさせろよ!」


 小さいことの千歳。男たちに囲まれて嫌がらせをされていた。

「やめて」と言って嫌な表情をしていたが、クラスのほかの子たちは全員は見て見ぬふり。


 それも当然、嫌がらせをしていたのは小太りでクラスでもけんかが強い男の子。

 同級生たちは全員、自分に被害が及ばないようにと嫌そうな目で二人を見つめていた。

 そして、男の子が千歳の髪を引っ張ったその時。


「やめろよ!」


 小さい頃の俺はすぐに千歳のところに駆け寄って、いじめっ子と千歳の間に立ちはだかる。


「なんだよ! お前をボッコボコにしたやるよ」


 そして俺といじめっ子は、けんかになってしまった。困っていて千歳がほっておけなくて、本能で助けたのだ。

 反撃されてケガもおったが、そんなことは気にならなかった。


 照れてしまい、頭の後ろをなでながら言葉を返す。


「別に、そんな褒められたことじゃないよ──ただ、困っていた千歳を見て、放っておけなくてさ。考える間もなく手を出しちゃったんだよね」


「私、友達とかあまりできなくて一人でいることが多くて──みんなから見捨てられた中で、恵一君だけが助けてくれたのがとっても嬉しかった」


 嬉しそうな表情で話す千歳。それからも、千歳は俺になついてきた。

 時折一緒遊んだりもした。


 それからしばらく千歳とは仲良くしていたが父の仕事の関係でこの地を離れることになり千歳とは離れ離れになってしまった。


 最後に、ぎゅっと手を握った時の千歳の悲しそうな表情は、今でも覚えてる。


「ずっと、あなたのことは頭から離れなかったわ」


「ごめんね──突然会えなくなっちゃって」


「恵一君が謝ることじゃないわ。気にしてないから大丈夫よ」


 さらに落ちている黄色い粒を人差し指につけて口の中に入れる。


「この甘いツブツブ大好き~~、このためだけに『チョコゴールド』買ってるのよね」


 もぐもぐと、砂糖の塊を味わって楽しんでいる。満面の笑みで、とてもおいしそうだ。

 そして、残りの飲み物を3割ほど飲んだところで、千歳が話しかけてくる。


 さっきまでとは違い、表情に真剣さが混じっている。こっちも、大事な話が待っているんだなとドキドキしてしまう。


 あの時は、特に何も考えず立ち向かっていった。恋愛なんて考えてもいなかった。

 今も、彼女とは無縁の存在なのだが──。


「でも、あなたが転校するって聞いた時、本当に悲しかった。あなたのこと、大切な人だと思っていたのに──」


 申し訳ない気持ちで罪悪感で胸が痛くなる。


「そして、さっきあなたと再会したとき──奇跡が起こったと想ってるの。もうあなたの顔しか見えなくて──、本能であんな行動に出てしまったわ」


「それは、仕方がないってことかな?」


 ずっと俺と会いたかった。それなら、あんな行動に出るのも仕方がないのかもしれない──。


「今からでも、交際してほしいと思ってるわ──、じゃあ言わせていただきます」


 そう言って千歳はオホンと咳をしてこっちを向いた。顔がほんのりと赤くなり、もじもじとしだす。


「私千歳は、恵一君のことが好きです。私と、付き合ってください」




 ☆   ☆   ☆


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