第20話
ノエルと不毛な争いをしているとようやく部長が落ち着いたようで不機嫌そうな顔をしながらも会話に参加してきた。
「つまり九条院、君はそのクラスの陽キャたちのグループに入って仲良くなりたいと、そういうことなんだな?」
「は、はぁ。」
「でも何でこんな今更の時期に…。友達が欲しいならもっと早くから行動を起こすべきだっただろ。」
「それは…。」
部長の言葉はもっともだ。もう三学期も半ばに入ってきているこの時期。友達が欲しいなんて言い出すのは遅すぎるタイミングだ。グループどころかクラス単位でそれぞれの生徒の立ち位置が決まってしまっている今、九条院が割り込める場所なんてあるのだろうか。
「時期なんて関係ない、あたしは変わりたいのよ。」
今までによりもさらに真剣な目つきになる九条院。彼女の雰囲気にあてられて、部員全員が彼女の言葉を静かに待つ。
「確かに今まで私は友達が欲しいと思いながらも何もしてこなかった。しなくても良かったから。家に帰ったら何一つ不自由なく過ごせるし、最悪一人でも生きていけるほどの財力が、あたしにはあったわ。」
「何か自慢話に聞こえてくるのは私の気のせい?」
「しーっ、部長は黙ってください。」
「でもふと感じたの。このまま一人ぼっちで高校生活を終えて良いのか、人生で一度しかないこの日々を何もないまま浪費してしまっていいのかって。」
九条院の拳に力が籠る。スカートを皴になりそうなぐらいの力で掴んで思い思いの言葉を彼女は吐き出している。
「でもあたしには勇気がなかった。何もないのに新しく行動していくのが怖かったのよ。周りに変に見られてしまうんじゃないか、弱いあたしを知られて失望されてしまうんじゃないかって。…だからあたしにはきっかけが必要だった。それが、これよ。」
そう言って再びサンタクロース研究会の張り紙を取り出す。よく見ると、ノエルが勝手に追加した文章に、鉛筆で強く二重丸の印が付いている。
「あたしは変わる。友達を作って、この高校生活を後悔で終えないようにしたい。そのためにあたしはここに来たの。」
誰もが彼女の言葉に口を挟むことが出来なかった。だって知っていたから。心の中では誰しも、当てのない不安に心を侵食されていることを。「自分はこのままでいいのか」、「これから自分は何処に向かっていくのだろうか」、そんな思いを胸に人は誰しもが生活を送っていくことを。
でも、それでも人間は、そんな思いを胸にしまいつつ当たり障りのない日々を過ごしていく。そうしたほうが楽だからだ。変なことを考えずにただ無為に毎日を消化していく方が楽なのだ。
俺だってそう思ってる。孤独が嫌だと、一人が寂しいと心の中では思いながらもそれを正当化して、妥協して毎日を過ごしてきた。これはどうしようもないことなのだと、仕方のないことなのだと。
だが目の前の彼女は違う。そんな不安を、残ってしまうかもしれない後悔を、自らの力で払いのけて前に進もうとしているのだ。それが分かっているから、誰も口を挟めない。前を向いた彼女の歩みを止めることは出来ない。
夕暮れの部室、差し込んだ夕日は一点に彼女を、九条院祥子を照らしているように思えた。下を向いている彼女の姿はオレンジの光に包まれて赤々と輝いていた。
「私は、九条院さんに協力しますよ。」
そう手を指しのべた銀髪の少女もまた、赤々と輝いていた。
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