第19話

「だからっ!友達が欲しいって、言ってるのおぉぉぉぉぉぉぉ!」


 その声は部室中、いや、部室棟中に響き渡った。

 叫び終わった九条院は顔を真っ赤にして俯いてしまう。動悸は激しく、まるでハードな運動をこなしてきたかのようだ。


「今、友達って言った?」

「言いましたよね。」


 ノエルもそう聞こえたらしい。やはり友達って言ったな。うん間違いない。


「えーと九条院さん、友達ってのはその、フレンドってことだよね?」

「そうだけどっ!」

「かーいとくん、あそびましょ。の友達じゃないよね!?」

「そのともだちじゃないわっ!」


 日本中にウイルスをばらまいた二十世紀のお友達は置いておいて、部長の確認に恥ずかしそうながらも確かに友達が欲しいと答えた九条院。


「でも、九条院…の感じからすると友達が少ないようには見えないんだが。」

「私もそう思います!九条院さんとっても綺麗だしっ、皆さんに人気があるんじゃないですか?」


 間違いなく九条院の見た目は派手めな部類に入る。そんなイケイケ系の女子がぼっちだなんて考えづらい。


「そんなの、あたしだって聞きたいわよ。クラスで笑顔で座ってても誰も話しかけてくれないし…、だからと言って自分から話しかけるのは恥ずかしいし…。」

「うーん、なるほどなぁ。でもそれなら今この瞬間にも解決できるんじゃない!」


 自信満々の表情で胸をポンと叩く部長。その一言に九条院の瞳が期待感に溢れかえる。


「私たちと九条院さんが、お友達になればいいだけだよ!」

「………。」


 部長が高らかと発した言葉に部室中が固まる。


「え、嫌なんだけど。」

「はぁ!?」


 まるで水が上から下に流れ出るように自然に九条院から発された言葉に部長は餌を求める猛獣の如くとびかかる。


「私らの何が不満だっての?」

「いや、こんな辺鄙なところで部活やってる陰キャはちょっと…。」


 その言葉に部室中の空気が一気に凍る。


「いいいい…陰キャ…。」

「辺鄙な、部活…。」

「陰キャでごめんなさい。陰キャでごめんなさい。陰キャでごめんなさい。陰キャでごめんなさい。陰キャでごめんなさい。陰キャでごめんなさい。」


 俺以外の部員の反応はこの通り。お嬢様から発せられた非情な事実に打ちひしがれている。


「はえーそうですか!陰キャでごめんなさいねぇ。じゃあ陰キャな私たちは美人で派手でお嬢様な君のお願いをかなえることは出来ないねぇ!そうだよねぇ!」


 部長の火山が噴火した。今にも九条院を襲いだしそうな部長を俺と幸で懸命に抑える。


「どうどう部長。さっきまで九条院の期待に応えるって言ってたのはどこの誰ですか?」

「そうですよ部長、九条院さんだって悪気があって言った訳じゃない、かもしれませんよ!」

「でもでも、この子は私たちを、いいい陰キャ呼ばわりしたんだぞ!許せるわけあるかぁ!」


 そんなに陰キャ呼ばわりされたのが嫌だったのか。抑えられた今でも部長は九条院に対してがおーと吠え続けている。


「でも九条院、俺たちみたいな人種が嫌だとして、どんな友達が欲しいってんだよ。」


 趣味を語り合える仲間、学校に行けば話すがそれ以上の関係は持たない友達、適当に上辺だけの関係の友達。友達と一括りにしても様々な形がある。

 九条院は少し悩むような素振りををしてもじもじしながら答えた。


「そうね…、放課後に一緒に買い物に行ったり、休日に遊びに行ったり、そういう女子高校生っぽいことが出来る、そんな友達が欲しいわ。」

「なるほどな、クラスに気が合いそうな奴とかいないのか?」

「分からない。でも、安田さんとか、三ツ石さんとか、なんか今時の女子高校生っぽくない?」


 安田と三ツ石…クラス内カースト一位のグループメンバーだ。ということはもしかして九条院って…。


「お前、俺と同じクラスだったりする?」

「そうだけど、気づいてなかったの!?」


 九条院がびっくりした様子で頭を抱える。


「すまん、名前は聞いたことあったんだがまさかうちのクラスにいたとは。」

「一年近く一緒のクラスにいながらもクラスメイトを認知していない…さすがは界人です。」

「るせっ、お前だって気づいてなかっただろ!」

「私はこの学校に来たばっかりですよ!」


 不毛な争い過ぎて自分でも悲しくなってくる。

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