123 直接対決延長戦9
大嫌いなエステルに逆ハーレムを
「仕方ない。もうちょっと痛め付けるよ。えっちゃんたちは危ないから離れていて」
「ええ。行きますわよ」
「「はい!」」
それなのに、フィリップは軽い。エステルたちを遠ざけてニヤニヤしながらフレドリクたちに語り掛ける。
「ちょっと聞くけど、ボローズとハルムが撤退した理由って、知ってる?」
「フィリップが話を付けたんだろ」
「それ、うっそ~。どちらの軍隊もボコボコに殴って、国王とも
「それがどうした! そんな力で、ルイーゼと私たちを引き離せると思うなよ!!」
「わ~お。カッチョイイ~」
フィリップはフレドリクたちの戦意を削ごうとしたけど、失敗。なので次なる手。
「勇者の剣は折れちゃったから、これ使うね~?」
フィリップは顔の前に構えた左手に右手を近付け、何かを引き抜くような仕草をすると、真っ黒な物が徐々に現れた。
「「「「なっ……」」」」
その剣は、剣というには丸みが掛かっているから切れ味はなさそうだが、死を連想させるほどの恐怖を纏っていた……
「なんですのあの禍々しい物は……」
「「ヒッ……こ、怖い……」」
それは味方であるエステルも震えるほど。カイサとオーセは立ってられず尻餅を突いてしまった。
近くで見ているフレドリクたちも恐怖に震えてはいるが、ルイーゼバフがあるので腰を抜かしはしない。ルイーゼは……あまり怖くなさそう。ヒロイン補正で相殺してるのかも?
「な、なんだそれは! フィリップは悪魔にでも魂を売ったのか!!」
緊張感マックスなフレドリクは、自分を鼓舞するようにフィリップを怒鳴った。
「これ? これはファフニールっていう邪龍を倒したらドロップした、ファフニールソードだよ。見た目は角だけど、めっちゃ斬れるんだよね~。僕のお気に入り。ニヒヒ」
フィリップのアンサーは、全員、一瞬意識を失う言葉。邪龍ファフニールとはこの世界の神話に出て来ており、神龍バハムートと相打ちの末、バハムートは空となりファフニールは大地となって世界が創造されたことになっているのだからだ。
「高が剣じゃん。そんな顔してると、真っ二つになっちゃうよ~? アハハハハハ」
フィリップがファフニールソードを軽く振っただけで、フレドリクたちの目の前が1メートルほど陥没した。
「ありゃ? ここは斬撃が欲しかったのに……こうだっけ? 久し振りだから使い方忘れてるな~」
ファフニールソードは制御不能。フィリップは練習でゆっくり振っているだけなのに、床に亀裂が入ったり陥没したりしている。
黒を基調とした服と
「恐れるな! 使いこなせていない今が勝機! 行くぞ~~~!!」
「「「おおおお!!」」」
フィリップがファフニールソードで遊んでいたら、フレドリクがチャンスだと、カイ、ヨーセフ、モンスを鼓舞して突撃。
各々自分のできる最強の攻撃を繰り出した!
「ちょっとこれ使ったら兄貴たち死んじゃうかも? って、なんか来てる!? 氷だるマン!!」
でも、フィリップが焦って出したデカイ氷の雪だるまにフレドリクたちは蹴散らされて、ボーリングのピンの如く吹っ飛ばされたのであった……
「あ~……えっと……」
けど、エステルたちに冷めた目で見られたフィリップ。そりゃ、とっておきの剣を使わずに魔法でフレドリクたちを簡単に倒したらそうなるよ。
「氷だるマン、カモン! 喰らえ~~~!!」
なので、ファフニールソードは氷だるまに使われ、バッサリと真っ二つにしたのであったとさ。
フレドリクたちが気絶したのだから、フィリップはファフニールソードはアイテムボックスにしまって「大勝利~」とかピースしながらエステルの元へやって来たけど、質問の嵐。
そのほとんどがファフニールソードだったけど「なんで出した?」だったので、フィリップはルイーゼの元へ逃げた。
そこでルイーゼにはフレドリクたちの治療をさせずに拘束。全員、両手両足を縛っていたらエステルたちがやって来て質問の続きをしていた。
それらは適当に答え、フィリップがルイーゼを口説き、エステルに怒られていたらフレドリクたちも目を覚ましたので、全員フィリップが手を貸して座らせた。
「弟1人にコテンパンにされた気分はどう? プププ」
フィリップに馬鹿にされても、完膚無きまでに倒されたのだからフレドリクたちも諦めモードだ。
「私たちをどうするつもりだ?」
「そうだね~……先に、酷い政策をした罰の話をしとこうか。まず、野郎共は……」
幼馴染みへの罰は、全員役職を解いて帝都から追放。各々に見合った仕事を与えるから、それまでは実家に待機させる。
「兄貴は僕の補佐してもらうのが罰ね」
「それだけか?」
「その頭脳を遊ばせておくのはもったいないからね。こき使うから覚悟して」
「陛下は楽をするためにフレドリク殿下を残すのですわね……」
「えっちゃん。シーッだよ~?」
エステルに言い当てられたので、フィリップは先を急ぐ。
「聖女ちゃんの罰は、子供と離れてもらうよ」
「そ、そんな……」
「フィリップ! それは私の子供でもあるのだ。ルイーゼから引き離さないでやってくれ!!」
ルイーゼを罰しているとフレドリクが懇願して来たが、フィリップは冷めた顔をしている。
「兄貴の子供じゃないでしょ? 僕の予想では、カイだと思う。そんな子供、兄貴は愛せるの??」
「ああ!」
「ノータイムって……勘弁してよね~。成長していくに連れて、誰が一番悲しむかわかってるの? 父親と全然顔の違う子供だよ。周りからも、イロイロ酷いことを言われるのは目に見えてるんだよ?」
「そ、それは……」
「そもそも皇家の血の入っていない子供を皇族にできるわけないでじゃん。だから、子供には死んでもらうよ」
「待て! それだけはやめてくれ!!」
フレドリクは体を引き摺って近付くので、フィリップはニヤニヤしてる。
「本当に殺すわけないじゃん。死んだことにして名前も変える。これが最良の手だと思うんだよね~……」
「どこが最良なのだ! 母親から引き離すんだぞ!!」
フレドリクがまだ食い掛かるので、フィリップも真面目な顔でしゃがみ込む。
「兄貴~? 兄貴は負けたの。敗者が罰を決めることはできないんだよ。そして、これは僕の優しさだと忘れないで。残していたら謀反を企み兼ねないメンバーを全員生かすんだよ? 本来なら、全員死刑が妥当なんだからね。僕に兄殺しなんてさせないでくれよ」
「くっ……」
最後は、ほぼ脅し。しかしフィリップの目には涙が浮かんでいたから、フレドリクもそれ以上の反論はできなかった。
「あ、そうだ。大事なこと忘れてた」
量刑が決まり、全員の拘束を解いたところでフィリップが何か言い出したので、フレドリクたちは構えた。
「全員、えっちゃんに土下座! そして、学院時代は酷いこと言ってすみませんでしたと謝って! それができないなら死刑!! ニヒヒ」
最後の最後は、エステルに向けての土下座。フレドリクたちは謝りたくなさそうだったが、死刑よりはまだマシと割り切り、フレドリク、ルイーゼ、その後ろにカイ、ヨーセフ、モンスが揃って土下座する。
「「「「「学院時代は酷いことを言ってすみませんでした」」」」」
その土下座を見たエステルは、フィリップに笑顔を見せる。
「陛下。ありがとうございます。でも、こんなことさせなくてもよかったのですわよ?」
「いや、その顔は気分晴れ晴れって顔……だよね? めっちゃ悪役令嬢っぽいけど……」
「そんなことないですわよ。オ~ホッホッホッホッホッホッ~」
「めっちゃ笑ってるし……」
こうして悪役令嬢と手を組んだ第二皇子の戦いは完全な勝利を収めたのだが、自分ではなく悪役令嬢の勝利の笑い声で締められたのであった……
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます