093 フィリップ暗躍3


「この空気感、懐かしいわね」

「ね? プーくんがダラダラしていないと締まらないね」


 フィリップが帝都城の自室に隠って3日。ベッドから下りないフィリップを見て、パズルのピースが嵌まったような感覚になっているカイサとオーセ。

 マクラとは頭を逆にしてうつ伏せで転がってるフィリップを見て、どの辺が締まっているかはわかり兼ねる。


 ちなみにフィリップの部屋はけっこう広く、キッチンお風呂トイレ完備のスウィートルーム風。フィリップが大工を呼んで作らせた。

 なので、カイサたちにお使いを頼めば部屋から一歩も出なくても生活に困ることはない。もちろんカイサたちが夜の相手をしてくれるから、暇も潰せる。家出する前に外に出たのは、夜に娼館に行くか2人が女の子の日ぐらいだけらしい……


「プーく~ん。もうお昼だよ~」

「ねぇ~。起きて~」


 ちなみにちなみに、フィリップがうつ伏せでダイイングメッセージを書いてるような倒れ方をしているのは、カイサとオーセのせい。この3日、ぜんぜん眠らせてもらえなかったんだって。

 いまも甘えた声を出しているけど、目は獣。フィリップが返事していないのに、のし掛かってむさぼり出した。


「ハッ!? 今日は何日!?」

「モゴモゴ……」

「チュ~チュ~」

「いや、何日なんだよ」


 そのおかげでフィリップは目覚めたけど、焦って質問しても答えてくれない2人であった。



「「え……」」


 フィリップがいろいろ頑張ることで話ができる体勢にはなったけど、またしばらく城を開けると聞いてカイサとオーセは固まった。


「ゴメンね。まだやることが残っているんだ。夏には必ずこの生活に戻れるようにするから、もう少しだけ待ってて」


 その2人の手を取り、フィリップが真面目な顔で見詰めると、カイサとオーセは少し心配そうな顔をする。


「プーくん……ひょっとして、危ないことしてる?」

「何か危険なことしようとしてるでしょ?」


 フィリップの顔は2人には、真剣というより覚悟を持った顔に見えたようだ。


「ないない。とっくにマフィアの娘とも縁切ったし」

「「茶化さないで……」」

「あ、うん……」


 信頼している2人に怒られたフィリップは、真っ直ぐ目を見ながら答える。


「危ないと言えば危ないことをしている。でも、いまは2人にも言えないんだ。そのかわり、僕は死なないことを約束する。絶対に、2人の前に戻って来るからね」


 その覚悟の目を見た2人は、顔を見合わせて優しい顔に変わった。


「少し見ない間に成長したんだね。お姉ちゃん嬉しいよ。何をしているかわからないけど、頑張って」

「私も……プーくんがいつも以上にかっこよく見えたよ。頑張るプーくんも近くで見たいから、早く帰って来てね」

「カイサ……オーセ……ありがとう……」

「「うん……ぐずっ……」」


 こうして感極まった3人は涙を浮かべて抱き合うのであったけど、この3人の関係って、ほとんどセフレなんだけどな~??


 日付を聞いたらちょっとだけ余裕があったので、フィリップたちは今生の別れぐらい激しく抱き合って、次の日の夜に別れたのであった……



「ヤ、ヤバイ……腰が……」


 4日間、頑張りすぎたフィリップは夜通し走ろうと思っていたけど、ダンマーク辺境伯領まで半分ぐらいの所で限界が来た。

 ひとまず近くの宿場町で休もうと宿屋に寄ったのだが、扉をドンドン叩いても誰も出て来なかったので、仕方なく娼館を探してそこで休む。さすがのフィリップでも今日は性欲がないらしく女性の胸の中で安らかに眠っていた。


 昨夜は中途半端な時間に寝てしまったフィリップは、お昼に起きてしまったのでどうしようかと考え、ちょっとセクハラしたら娼館を出る。

 そうして町を散策して、現場の雰囲気を頭にインプット。何日もエステルの元から離れているので、町の調査をしていたから遅くなったとでも言おうとしているらしい……


 適当に入った食事処で腹を満たしたフィリップは、特に面白い物もなかったのでどうしようかと歩いていたら、町の西側の端で痩せこけてみすぼらしい女子供おんなこどもの集団を発見。

 全員同じ方向を見ているのが気になったフィリップは、頭の後ろに手を組んだまま近付いた。


「ねえねえ? お姉さんたちって、立ちんぼ??」


 そして超酷い質問を投げかけたら、その中のリーダー格の目付きが鋭い女、ラウラが睨んだ。


「なんだいこのガキは……商売女だったら買ってくれるのかい?」

「うん。いいよ~。一晩いくらなの?」

「銅貨5枚だよ。こんな汚いなりのあたしで立つならね」

「わ~お。価格破壊やないか~。アハハハハハ」


 フィリップがバカにするように笑うので、仲間の女も4人ほど前に出て囲まれてしまった。


「何がおかしいんだい!!」

「アハハ。ゴメン。全員買うから、これで許して」


 フィリップがポケットから取り出した1枚の硬貨を投げると、受け取ったラウラは尻餅をついた。


「金貨……こんなに……」

「ざっと……30人くらいかな? それだけあったら余裕でしょ??」

「あたしたちに何をさせたいんだ……」

「立ちんぼなら、わかるでしょ~?」


 フィリップがわかりきった返しをすると、ラウラも覚悟を決める。


「わかった。あたしたちで誠心誠意やらせてもらう。でも、子供は勘弁してやってくれないかい?」

「それは無理だな~。女の子も男の子も一緒だ」

「な、なんて変態なんだい!?」

「アハハ。よく言われる。アハハハ」


 嫌味を言ってもィリップが笑っているので、ラウラは金貨を握りしめながらどうしていいかわからなくなってしまった。


「とりあえず、そのお金でごはん食べたら?」

「……え??」

「みんなお腹空いてるでょ? あ、そんなに汚れてちゃお店に入れないか。僕が交渉してあげるよ。ついて来て。みんな~? 僕について来たら、お腹いっぱい食べられるよ~??」

「「「「「えっ!?」」」」」


 子供は正直だ。驚いたものの、1人が歩き出したら残りは走り出し、フィリップのあとを追う。そうなっては大人もついて行くしかなくなり、ブツブツ言いながらフィリップの後ろについて歩くのであった。

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