092 フィリップ暗躍2


 帝都城、豪華な根城に戻ったフィリップは、久し振りに会ったカイサとオーセと揉みくちゃになり続け、本当に欲しい情報を手に入れるのは翌日の夜となった。


「ふ~ん……兄貴の人気、下がりまくってるんだ」

「そうなのよ。陛下、大丈夫かな?」

「兄貴なら大丈夫っしょ。だって対抗馬がいないんだよ?」

「きゃはは。プーくんがそれ言っちゃう?」

「僕が言って何が変なの? ……あっ! 僕がまだ皇帝候補に一番近いじゃん!?」

「プーちゃん。それぐらい覚えていようね~?」

「「「アハハハ」」」


 2人は本当に忘れていると笑っているのだが、フィリップはノリツッコミがキマッたと笑っているので、2組の笑いの意味はまったく違う。


「あ、でも、プーくんを持ち上げる人、けっこう出て来たわよ」

「そう。どうにか上に立ってもらって操れないかと言う声は多いよ」

「カイサの言い方だと、僕が頼りないみたいに聞こえるんだけど~?」

「「違うの??」」

「その通り!」

「「「アハハハハハ」」」


 一通りバカ笑いしたら、カイサとオーセは理由を付け加える。


「アレが大きかったわね。戦争を止めたっての。そこからプーちゃんを持ち上げる声が増えたわ」

「そうそう。プーくんが百万匹の猫と一緒に戦ったってのね」

「え? 山みたいな巨大な猫と一緒に戦ったんじゃなかったっけ??」

「何それ? どこから猫が出て来たの??」

「「違うの??」」

「初めて聞いたよ!!」


 フィリップの広げた噂話の原型が消えたどころか新キャラまで出ていたのでは、さすがに驚いている。

 ちなみに猫が出て来た理由は、癖っ毛でたまに庭で丸まって寝ていたから。庭を通りかかったメイドが言った「猫っぽいよね~」から来ているらしい。

 その辺の話は他にも面白い噂話があるかと聞いていたら、2人から本当のことを教えてくれとお願いされたので、フィリップは念を押してから渋々語る。


「たまたまね。たまたまそのふたつの国にいたの。そしたら戦争になるって言うじゃない? だから、城に忍び込んで寝ている王様にナイフを突き付けてやったら、降参するってなったんだよ」

「え……プーちゃんそんな危ないことしたの!?」

「死んだらどうするのよ!!」

「忍び込むのは自信があったから大丈夫。僕がどれだけこの守りの堅い城を抜け出して娼館を行き来してると思ってるんだよ」

「それは凄いことだと思うけど……」

「娼館通いのためと聞かされると……」

「ま、今回はそれが役に立ったんだから、よかったんじゃない?」

「「う~ん……」」


 いい感じに嘘をまとめたとフィリップは思っているけど、そもそもが嘘っぽい人物だから、2人もいまいち納得がいかないのであった。



 一通りの情報を手に入れたフィリップは、自分からも質問してみる。


「ここ最近、どの町を回っても活気がなかったし葬式ばっかりしてたけど、帝国ってけっこうヤバイの??」

「ヤバイわよ。プーちゃんがそれを知らないことが一番ヤバイ」

「それはいまさらだよ~」

「きゃはは。本当にいまさらだね。でも、ヤバイのも本当なの」

「前に、プーちゃんに会いたいって訪ねて来た偉そうな人から聞いたんだけど、冬だけで帝国では七百万人も死んだんだって」

「そんなに……」

「うん。この情報をプーちゃんの耳に早く入れてくれって。そして立ち上がるように説得してくれとも言われているの」

「……」


 頭の中ではこれぐらいの死者数を予想していたフィリップでも、実際の数字を聞いたら真面目な顔で黙り込んでしまった。


「プーちゃんもそんな顔できるんだ」

「そんな真面目な顔、初めて見た」


 その顔を2人して覗き込むので、フィリップは2人とも抱き締めた。


「僕に何かできると思う?」

「う~ん……正直難しいかな?」

「陛下に任せたほうがいいと思う」

「だよね~……僕が兄貴の役に立てるとしたら、政略結婚ぐらいだからね~」


 フィリップが笑顔を見せるが、カイサとオーセは結婚という単語に何か引っ掛かるところがあるらしい。


「ひょっとして、旅の目的って……」

「お嫁様捜し??」

「あ、バレちゃった? 僕もいい歳だし、どの国のお姫様がいいか味見しに行ってたの」

「最低だなこいつ」

「顔を見るならまだしも、やっちゃダメだろ」

「アハハハハハ」


 腹心中の腹心でも、そこまでしていては口も悪くなるってもの。フィリップはその2人の冷たい顔がけっこう好きらしい。


「まぁその甲斐あって、結婚することになったよ」

「「ええぇぇ!?」」


 どこを切り取っても最低にしか見えないのに、結婚を決めて来たのでは2人は死ぬほど驚いている。


「側室を持ってもいいって言ってくれるいい子なんだ。だから2人も今まで通り、僕に仕えてくれると嬉しいな~」

「プーちゃんのいい子の基準、おかしいってわかってる?」

「プーくんは頭が悪いからわかってないと思うよ」

「アハハ。ひどいな~」

「「どっちが??」」

「僕です! アハハハハハ」

「「アハハハハハ……って、誰と結婚するの!?」」


 いつものノリで笑ってしまったカイサとオーセであったが、フィリップのお相手は気になるらしい。しかしフィリップは、この情報だけは「その時までの秘密~」と、一切取り合わないのであった。

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