083 物価対策


 帝都の夏……


 帝都では元奴隷を受け入れ続けたしわ寄せが、財政を圧迫し続けている。

 いちおう元奴隷には平民並みの給料を支払うことで税収は上がっているのだが、ダンマーク辺境伯領から知り得たフィリップ式農業を取り入れるのが遅くなったので成果がまだ出ていないから、収入が少ないのだ。

 その結果は、物価に直撃。他領から仕入れる食料品の値上がりが止まることはなく、帝都住民からも不満の声が出ていた。


「ダメだ。物価上昇が止まらない」


 そのことについて話し合おうと、フレドリク皇帝はイケメン4を集めて会議を開いていた。


「このままでは、民も食料を買えなくなって飢えてしまう。どうにか物価上昇を抑えられないだろうか」

「その前にいいですか?」


 フレドリクの質問に、ヨーセフ・リンデグレーン宰相が手をあげた。


「今年の麦の収穫量の見込みがまとまったのですが……」

「いい報告ではないのだろうな……」

「はい。例年の4割減です……」

「そんなにも減るのか!?」


 覚悟していても、収穫量を聞いては驚きを隠せないフレドリク。この報告は物価高に拍車を掛けるのだから、イケメン4も暗い顔だ。


「実はこの報告には続きがありまして……」

「続き??」

「ダンマーク辺境伯領と周辺の領地の頑張りがなければ、6割は減っていたのです」

「あの周辺だけで、総量の2割を作っただと……」


 この広大な帝国ではあり得ない数値に、イケメン4も息を飲む。


「ま、まぁ、それはある意味いい報告だな。辺境伯のおかげで民は助か、る……あそこにはエステルがいるのか……」

「「「あぁ~……」」」


 グットニュースでも、毛嫌いしているエステルがいては、バットニュース。民のためを思っても、辺境伯領から麦を買うのが嫌になってる。

 その周辺からなら買ってもいいのではないかと話が落ち着いたところで、モンス・サンドバリ神殿長から質問が来た。


「他国への麦の買い付けはどうなったのですか?」

「他国か……それが、帝国に近い国は、余剰分は他所に売ったとかでないらしいんだ」

「誰かが買い占めをしていると……それほどの量となると、個人とは考えられませんね」

「ああ。だから、いまはどこが買い占めているか調査中だ。最悪、もっと遠くの国まで買いに行かせないといけないから、輸送隊はそのまま残してある。だが、輸送費がかさむから、結局は高くなってしまうか……」


 麦の買い付けも失敗しているのでは、これも物価高に歯止めが利かない情報。やはり辺境伯領にも売ってくれるように打診しようかと、エステルの悪口を言いながら話し合っていたら、執事が入って来て報告書を置いて行った。


「ちょうど探らせていた、麦を買い占めていた者がわかったみたいだ」


 その報告書を開くと、フレドリクは眉を潜めた。


「何が書いてあったんだ?」


 悪い報告でもないのにフレドリクが黙るので、カイ・リンドホルム近衛騎士長がこちらに引き戻す。


「いや、どうやらボローズ王国とハルム王国が買い占めているらしいのだ。そのふたつといえば、辺境伯領を攻めて失敗しただろ?」

「つまり、諦めていないということか……」

「だろうな。減った兵糧を補って、次は辺境伯領以外に攻め込もうとしているのかもしれない」


 有能なフレドリクたちにかかれば、少ない情報でも敵国の考えなど丸わかり。でも、本来ならばそれで合っていたのだろうが、フィリップが関わっているから大外しだ。



 それから戦争がいつ起こるかなんかを話し合っていたが、そもそもこの会議は物価高対策会議。戦争についてはある程度片付いたら、本題に戻る。


「やはり、ネックは領地の移動税だな。これをなんとかすれば、遠くから仕入れても安くなるはずだ」


 移動税とは、人や物が領地を越えた場合にかかる税金。領地の収入源なのだから、取り上げようとした際に領主の反発が凄まじかったから、いまだに領主の権限として残っている。

 悪徳領主がいる領地ではとんでもなく高い場合があったものの、周りから総スカンを喰らって移動もできずに何も買えなくなったので、いまではどこも似たような価格設定になっているそうだ。


 この悩みを解決するのは、ヨーセフ。


「ほとんどの領主は帝都から派遣された代官に代わっているのですから、廃止させてはどうですか?」

「確かに……いや、その財源がないと領地も運営に支障が出るな。この食糧難を乗り越えるために、一時的、もしくは期限を定めて領主に伝えよう」

「そうですね。さすが皇帝陛下。それならば領主も納得してくれるはずです」


 これでいま打てる物価高対策は終了。あとはダンマーク辺境伯領周辺の領地に送った手紙、麦の予約購入の返事を待つのみ。

 フレドリクたちは疲れた頭を癒やすために、ルイーゼ皇后の元へと向かうのであった……



 それからしばらく経ったある日、執務室ではフレドリクからある発表があった。


「もう、今年の麦はないらしい……」

「なんだと!?」

「「なんですって!?」」


 ダンマーク辺境伯領周辺では、まだ収穫もしていない麦がどこかに消えていたのであった……

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