081 フィリップの訓練
第二皇子派閥の表敬訪問が終わり、フィリップはまたぐうたら生活に戻って辺境伯邸の庭でハンモックに揺られていたら、ホーコンがやって来た。
「エリク……最近エステルと夜を過ごしていないようですが、何かありました?」
「ん~? また聞き耳立ててたの~??」
「いえ、執事からお互い行き来がないと聞きまして……」
「それは覗いているのと一緒だからね?」
「うっ……申し訳ない」
フィリップに痛いところを突かれたホーコンは、頭をポリポリ掻いている。ただ、フィリップも婚約者の父親相手なので、
「なんかね。視察の旅で、ちょっと僕が頑張りすぎちゃったみたいでね。娼館に行って来たらどうかと言われたの……」
「エステルからですか!?」
「うん。よかれと思って頑張ったのに~~~」
どうやらエステルは、馬車の移動中は必ず求められていたから疲れた模様。ホーコンには言っていないけど、ウッラからもフィリップは避けられているから、庭でふて寝していたのだ。
「それはなんと言っていいか……」
「何も言わなくていいから! えっちゃんにもだよ!!」
「はあ……今晩は、私が付き合いましょうか?」
「いまは反省してるパフォーマンスしてるんだから、放っておいてよ~」
フィリップだって、反省する生き物。というか、エステルたちにかわいそうと思わせて、向こうから求めて来るのを待つ作戦なのだ。
それなのにホーコンと娼館に行っては作戦が失敗しそうなので、フィリップは「シッシッ」とか言ってホーコンを追い返すのであったとさ。
それからフィリップが禁欲生活を送っていたら、エステルも我慢できなくなって夜にやって来たけど、はっちゃけすぎて次の日には現れず。代わりにウッラがやって来た。
「えっちゃんは何か言ってた?」
「週1ぐらいがちょうどいいようなことを……」
「ウッラは??」
「私もそれぐらいが……」
「そんな~~~」
残念ながら、2人ともまだ回復できず。作戦も上手く機能していないので、フィリップは夜な夜な出掛けるようになった……
「今日こそ何をしているか突き止めますわよ!」
「はい!」
エステルとウッラも、こちらもこちらでフィリップの動向は気になる模様。夜な夜な出掛けるフィリップのあとをつけていたが、すぐに撒かれてしまうので、いつもフィリップが向かっている方向に当たりを付けて夜道を進んでいる。
「こちらには、何もありませんでしたわよね?」
「はい。雑木林があるだけです」
「ということは……女と密会……」
「浮気の現場を取り押さえましょう!!」
フィリップの向かった先は繁華街とは真逆なので、エステルたちはナンパした女性と、野外であんなことやそんなことをしていると決め付けている。
そうして雑木林手前で変な音が聞こえていたので、エステルとウッラは足を止めた。
「なんの音ですの?」
「わかりません。でも、悲鳴のような声にも聞こえるような……」
「まさか殿下に限ってそんなことは……」
「ないと思いますけど、高貴な人はサディストが多いと聞きますし……」
「そんなの、例外中の例外ですわ!」
ウッラは貴族に偏見があったので、エステルは激怒。たぶん、フィリップのことを信じているとは思うけど、そんな貴族はけっこういるとエステルも聞いたことがあるので心配にもなっている。
ただ、ウッラが青い顔をしていたので、つまらないことで怒鳴ったことを謝ってこの話は終わらせた。
それから雑木林に少し入ったところで、2人は感動にも似た感情に襲われた。
「凄いですわ……」
「はい……綺麗です……」
そこには、氷の彫刻を作り出すフィリップの姿。正確には氷で作られた雪だるま相手に、フィリップが氷の剣で攻撃して、辺りに氷の破片を撒き散らしていたのだ。
その光景は、チリとなった氷が月明かりに照らされてキラキラと輝いているので、2人は息をするのを忘れている。
しかしそのせいで、大きく息を吸った瞬間にフィリップに気付かれてしまった。
「で、殿下!!」
そのフィリップは人影を見た瞬間に、一瞬で消えたからにはエステルが慌てて声を掛けた。
「なぁ~んだ。えっちゃんたちか~。人に見られたと思って逃げちゃったよ」
フィリップは空から降って来てヘラヘラ笑っているけど、エステルたちは急に現れたからビックリしてる。
「な、何をしてましたの?」
「ちょっと訓練をね。たまには本気出さないと鈍っちゃうから。てか、2人は僕をつけて来たってことであってるよね?」
「そうですわ。どこに行くか気になっていたのですわ」
「えっちゃんたちが娼館に行けって言ったんでしょ~。それより、護衛もなしに女の子2人だけって危ないじゃん」
フィリップが文句言ってもエステルは反省もしないのでは、さらに文句タラタラ。しかし、いつもこの方向にフェイントを入れて、たまたま訓練をしていた現場を見られたのでラッキーとも思っている。
「その訓練、もう少し見せてもらってもかまいませんこと?」
「別にいいけど……寒くない?」
「これぐらいなら我慢できますわよ」
「う~ん……ちょっと待ってて」
春先の上に辺りにはフィリップの出した氷が散らばっているので、エステルとウッラをベンチに座らせ、毛布で包んであげたら七輪に火を入れる。
ウッラは次から次に物が出て来る現象に驚いていたけど、フィリップは「シーッ」と言っただけで訓練に戻った。
フィリップの訓練は、2人には異次元。目で追えない速度で移動し、次の瞬間には遠くの場所で氷が飛び散るのでは、地上に咲く花火の如く綺麗な映像として記憶されるのであった……
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