079 フィリップの視察6


 アルマル男爵邸でも2日間滞在していたら、先に褒美を貰ってしまったカール・アルマル男爵に何度か「もっといいポスト」の話を探られたが、フィリップはまったく取り合わず。

 フィリップとエステルは、アルマル男爵が侯爵のチケットをどう扱うかをニマニマして見ているだけ。そのせいでアルマル男爵は、毎日フィリップの約束状を見て、破るかどうか悩むのであった。



 アルマル男爵家と別れたフィリップたちは南下し、お隣のノルデンソン男爵領へ2日掛けて移動。ここでも一家総出で出迎えてくれたのだが、イーダがいるのでフィリップは機嫌が悪い。

 2人して睨み合っていたので、幸薄そうな細いおじさん、イングヴェ・ノルデンソン男爵があわあわしていた。

 ひとまず家族の紹介をしてもらっていたら、イーダの夫のトマスはフィリップの視線が気になったようだ。


「あの……どこを見てるのですか?」

「べっつに~……てか、背も低いほうだよね? 普段、何を食べてるの??」

「特に変わった物は食べてないと思うのですけど……」

「遺伝か……てか、僕って遺伝とか関係なさそうなんだけどな……」

「これは、なんの話をしているのですか??」


 フィリップは大きさの秘密を探っていたが、イーダとそんな関係だったと言えないので男の秘密を詳しく聞けない。歓迎の宴でもフィリップはジックリ見ていたので、トマスは何かやらかしたのではないかと冷や汗が止まらないのであった。



 翌日は、フィリップの計らいでエステルはイーダとお茶会をし、フィリップは1人でノルデンソン男爵と会っていた。そこで今までの働きを褒めて白金貨100枚を進呈したら、ノルデンソン男爵は恐縮しながら受け取っていた。


「まぁこんなものかな? 他にも言っているけど、正念場は冬になるから無駄遣いは控えてね。何か聞きたいことはある?」


 爵位を欲しがった者もいるので、フィリップは罠を張ろうとして質問すると、恐る恐るノルデンソン男爵は答える。


「あの……娘と何かあったのでしょうか? 以前、辺境伯領に出向いた時に、失礼をしたのでは……」


 その答えは、何か欲しいとかではなく、イーダのこと。フィリップが怒っているように見えたから、潰されるのではないかと心配しているみたいだ。


「ちょっとケンカしただけだから、気にしなくていいよ」

「ケンカ!? 娘が申し訳ありませ~~~ん!!」

「いや、男爵が謝ることじゃないから。頭を上げて。ホント、つまらないことだから」


 ノルデンソン男爵が土下座までするので、フィリップもたじたじ。ただし、自分のアレが小さいと言われたとか娘をもてあそんだとか言えないので、最終的には「許す」と告げて応接室をあとにするのであった。



 ところ変わって談話室では、エステルとイーダがけっこうエグイ話をしていた。


「殿下は底無しですの?」

「そうですね……毎日2、3回の時もありましたし、一晩中の時もありました」

「だから授業中だというのに、たまに居眠りしていたのですわね」


 どうやらエステルは、この旅でフィリップから求められることが多いから、イーダに助言を求めていたみたいだ。


「あ、でも、突然来なくなる時もありましたよ。1週間も放置されたので、他に女を作っていたのかと……」

「なるほど……急に求めて来なくなったら、要注意ですのね。でも、わたくしの体が持つかどうか……」

「確かにしんどい時はありますよね。うちの旦那も、たまに嫌そうな顔をしてますもの」

「わたくしたちは、2人掛かりで負けていますわよ」

「へ? ウッラと一緒にしてるのですか!?」


 ぶっちゃけすぎるエステル。さすがにそれは敬愛するエステルに酷いと、ますますフィリップのことが嫌いになるイーダであったとさ。



「なんだよ」

「この外道が……ペッ!」

「えっちゃん、なに言ったの!?」


 ノルデンソン男爵家でも2日間の滞在が終わり、別れの挨拶ではイーダが呪い殺さんばかりに睨んでいたのでフィリップが文句を言ったらツバまで吐かれる始末。またウッラとの昨日のデートをチクられたみたいだ。

 しかし、助けを求めたエステルはトマスの股間を凝視していた。


「えっちゃんも大きいほうがいいんだ……」

「な、何を言ってますの!?」


 なのでフィリップは肩を落とし、エステルは焦ってノルデンソン男爵たちと別れるのであった。

 そのノルデンソン男爵たちはというと、2人の会話の意味が気になったので、トマスを部屋に呼び出してそびえ立つ物に恐れおののくのであった……



 フィリップたちを乗せた馬車は西に移動していたが、フィリップが元気がないのでエステルは優しく声をかける。


「大きさなんて、気にすることなくてよ」


 その一言で、フィリップはズーン。さらに落ち込むので、エステルとウッラで機嫌を取るのは大変そうだ。


「別に気にしてないし~。違うこと考えてただけだし~」


 フィリップは明らかに気にしている口調だが、エステルはそれに合わせてあげる。


「何を考えてましたの?」

「ほら? ずっと馬車移動してるでしょ? それなのに、ぜんぜん盗賊とか現れないから、面白くないな~とね」

「そういえばそうですわね。これだけ国が荒れているのに、一度も遭いませんでしたわ」

「戦闘イベントも楽しみにしてたのにな~」

「人殺しを楽しむのは、どうかと思いますわよ」


 フィリップがまだブーブー言っているので、エステルは盗賊が出ない理由を見付ける。


「それだけ殿下の救済策が上手くいっているということですわ。喜ばしい限りではないですか」

「だって暇なんだも~ん」

「あ……だからってわたくしたちで暇潰しは……ん……もう……」


 フィリップから甘えられたエステルは、結局は押し切られて旅は続くのであった。

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