053 来客1


「娘に何かしました?」


 救済プランの前倒しが決まった翌日、少し手の空いたホーコンがフィリップの前までやって来て質問している。


「顔を赤くしてたり、頭をグルグル振り回している時があるのですけど……」

「特に……というか、えっちゃんガード堅すぎ」


 ちょっと恥ずかしいけど、フィリップは父親であるホーコンに相談。

 フィリップがエステルに慰めて欲しかったと言った日に、いちおう2人はベッドで服を着たまま抱き締め合っていた。

 そこでフィリップは、もう少し発展させようとジャブ程度に胸を揉んだら、エステルは痴漢にあったかの如く奇声を発し、ビンタして逃げて行ったのだ。


「なんと言ったものか……でも、あの顔は嫌ってことではないと思いますよ」

「えっちゃんって、意外とムッツリだったんだね。でも、ゴールするまでに僕の体が持つかどうか……」

「わかりました。私が体を張って教えて来ます!!」

「それ、キモイよ? 僕でも引くわ~」


 父親が娘に手を出そうとしていたので、フィリップも真っ青。その顔を見たホーコンは、エロ本を使って教えようとしていただけと言い訳するのであったとさ。



 それから数日経ったある日のお昼過ぎ、エステルとの長話から逃げ出したフィリップは、暇潰しに何をしようかと考えながら廊下を歩いていたら、窓から門を潜る馬車が目に入った。

 フィリップは特に気にせずボーっと見ていると、見覚えのある人物が馬車から降りて来たので、思わず身を隠してしまった。


「何をしてますの?」

「わっ!?」


 そこをエステルに見られたので、めっちゃ驚いている。


「あら? イーダじゃないですの。今日やって来るのを忘れていましたわ」

「え? 僕、聞いてないよ??」

「わたくしが友達に会うのに、どうして報告が必要なのですの?」

「いや、その……」

「さっきからおかしいですわね。隠れたり驚いたり……エリクはイーダと面識がありまして?」

「ないない。まったくない。ピュ~」


 フィリップが口笛を吹きながらとぼけると、エステルの目が妖しく光った。

  

「へ~……わたくしの取り巻きの小さい子と以前言ってましたのに、知らないとおっしゃるのですわね? トイレの件で、わたくしと一緒に謝罪したはずですのに」

「あっ! 思い出した思い出した。あの子ね~」

「そうですわ。よかったら、エリクも同席しませんこと?」

「いや、僕は……顔出しは控えているから遠慮しとくよ。楽しんで来てね~……へ??」


 フィリップが歩き出したら、エステルに首根っこを掴まれて運ばれる。


「あの~……断ってるじゃない?」

「その姿のエリクがわかるかどうか見てみたいのですわ。わたくしのたわむれに少し付き合ってくださいませ」

「え~! 絶対わからないよ~」

「わからないならいいじゃないですか」

「えぇ~……」


 というわけで、エステルに拉致られたフィリップは食堂にて待機。メイドのウッラが迎えに来て、背が低くて少し意地悪そうな顔をしたイーダ・ノルデンソン男爵令嬢の待つ談話室に連れて来られたのであった。



「エステル様! お久し振りでございます」


 エステルの顔を見た瞬間、イーダは立ち上がって嬉しそうな声を出す。そして近付き、エステルを見上げるように笑顔を向けた。


「ええ。久し振りですわね。もう子供の病気は良くなりましたの?」

「はいっ! エステル様からの手紙を読んであげたら、すぐによくなりました」

「ウフフ。そんなわけありませんでしょ。長旅も疲れたでしょ? 座って話しますわよ」

「そうですね。久し振りにお会いしたので、少し興奮していました」


 お互い笑顔で挨拶を交わし、テーブル席に移動する時にイーダは、エステルが手を引く下を向いたままの黒髪の男の子に気付いた。

 しかし、立ち話はエステルに悪いと気を遣い、全員が座ってウッラがお茶を全員分入れてから、イーダは質問する。


「そちらの方は……もしかしてエステル様の……」

「ええ。そうですわよ」

「ええ!? ついにエステル様にもいい人が現れたのですね! おめでとうございます!!」

「す、少し早とちりしていますわよ。これは、父が母に黙って作った子供ですわ」

「あっ! 私ったら、なんてことを……申し訳ありませんでした!!」


 イーダの発言は正解であったからエステルは少し焦っていたけど、表情は崩さずにドッキリのレールに戻す。


「気にしていないですわ。それよりエリク。いつまで下を向いてますの? 顔を見せて挨拶しなさい」


 エステルに紹介されたからには、フィリップも顔を上げて声を出す。


「エリクだよ……」

「エリク君って言うのですか。人見知りなのですね~……って、殿下!? フィリップ殿下じゃないですか!?」

「はやっ! 気付くの早すぎるよ~」


 できることならバレたくなかったフィリップは、苦笑いしながらカツラを取って金髪パーマを振り回す。


「イーダは、えらく早く殿下の顔がわかったのですわね。わたくしでも、すぐには気付かなかったのですわよ?」

「えっと……それは……皇族ですし……」


 エステルに睨まれたイーダは、しどろもどろ。フィリップも黙っていろみたいな仕草をしているので、板挟み状態だ。


「先程も、殿下はイーダの顔を見るなり隠れましたのですわ。会うことも嫌がっていましてね。連れて来るのは大変でしたわ」

「そうなのですか!? 私は会いたくて会いたくて仕方がなかったのに……こちらに殿下が現れたと聞いて、会えないと知りつつも来たのですよ!!」

「おお~い。そんなこと大声で言ったら、僕たちの関係がバレバレだよ~」

「あ……」


 イーダが周りを見渡すと、エステルは驚愕の表情。ウッラもティーポットに注いでいたお湯があふれ出ている。


「えっと……イーダとは、学院時代に……まぁアレだ。体の関係だったんだよね~。アハハハハ」


 あとからバレるよりは、いま真実を語ったほうが傷が浅いと判断したフィリップであったが……


「「「ええぇぇ!?」」」


 エステルもイーダもウッラまでも、同時に驚きの声をあげるのであった……

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