第2話 付き合うって何するの?
「ねえ、袴塚君。付き合うって何をするの?」
成り行きで付き合うことになってしまった帰り道、俺が無言でいると姫宮は唐突に切り出した。
やっぱりブスだなと思った。
コミュニケーションをまともにとってこなかったことが容易に想像できる。
もっと、相手が答えやすい質問を第一声にすべきだろう。
会話はキャッチボールなのだから。
姫宮のそれは、まるでドッジボールをしているように言葉を投げつけてきている。
「えっ、姫宮は何をするんだと思ってたの?」
俺は答えをはぐらかした。
「質問に質問で返すのはコミュニケーションとしてどうかと思うよ……」
……姫宮には言われたくない。
俺たちはいく場所もないし、俺は家をしられるのも嫌なので目に付いた公園に入りベンチに座った。
本当はこんなところを誰かに見られたら嫌だ。
さっき、教室で一瞬垣間見た美少女は幻だったのだろうか。
今、俺の横にいる姫宮はいつもと変わらず猫背で、長い髪で顔が隠れていてその表情をみることはできない。
そして、猫背なせいで気づかなかったが、姫宮は意外と背が高かった。
横に並んでみると俺よりは低いが女子としてはかなり背が高い方だった。
中学1年の時の俺より背が高い。
きっと、小学校のころは八尺様とかいっていじめられていたかもしれない。
俺はどこからともなく聞こえてきた声にぎょっとする。
まさか、本当に八尺様?
俺は魅入られてしまったのだろうか。
でも、最近の八尺様はずいぶん美麗化されたイラストも増えたし、姫宮と比べたらよっぽど付き合っていることを自慢しやすいかもしれない。
怪異で美女でグラマラス。
うん。なかなかキャラが濃い!
「ぽっぽっぽー、はとぽっぽまーめがほしいか、そらやるぞ♪」
姫宮はそう歌ういながら、制服のポケットから何かをとりだしてばらまいた。
鳩がバサバサとよってくる。
あれだ。映画で見たやつ。
子供のころ、クリスマスの前になると金曜ロードショーでやっていた映画のワンシーンを思い出させる風景だった。
ヒッチコックじゃなくて、クリスマスに男の子が一人で過ごすやつ……そう、ホームアローンだ。
あの映画で男の子が怖がっていた公園の鳩おばさんを思い出した。
最初にその姿が画面に映し出されたときは衝撃だった。
だって、女の人のホームレスがいるなんて想像できなかったから。
「真面目に勉強しないと、あんな風になるぞ」と子供のころホームレスの横を通ったときに親にそんな風に言われて怖かった。
でも、ホームレスといえばおっさんのイメージだった。
映画の中、しかも海外の物語という現実とはかけ離れた場所であってもその立場に女性があるのはひどく不思議に感じた。
女性であれば結婚してしまえばすべてチャラになると思っていたから。
古い映画の中なのに女性でも家も仕事も家族も失うということに初めて気づいた瞬間だった。
あの映画の鳩おばさんと姫宮が重なる。
人とコミュニケーションがとれずに、姫宮はあの映画の鳩おばさんと違って家族を失うどころかそもそも誰かと結婚することもできないのではないだろうか。
それ、どころか今、この瞬間が姫宮にとって唯一のデートの思い出になるのかと思うと胸にこみあげるものがあった。
「なあ、姫宮……どこか行きたいところとかないの?」
俺は気が付くとそんな言葉を口走っていた。
本当なら、罰ゲームで嘘の告白をしたことを白状して、付き合うのはなかったことにしてもらうつもりだった。
一秒でも早く。
だけれど、この瞬間が姫宮にとって一生に一度の大切な思い出になるならば、よりよいものにしてあげたいと思ったのだ。
「あー……、そういえば今週からたべっこ動物のクッションがゲームセンターででたんだっけ」
ゲームセンターか。王道だ。
かくいう俺も、中学生のころは女の子とデートに行ったときにUFOキャッチャーでぬいぐるみをとってあげたいなと憧れていた。
分かる、分かりみが深いぞ、姫宮よ。
本当にキラキラしすぎたところは恐れ多すぎて、でも漫画の中みたいなデートをしたい。そんな葛藤の中の妥協案がゲームセンターなのだ。
「じゃあ、ゲームセンターに行こうか」
「えっ、いいの? うれしい。あのプライズおひとり様1個までだから困っていたんだよね」
俺が姫宮の人生最後の願いをかなえてあげよう。
顔は見えないけれど、姫宮の声は甘くとても嬉しそうだった。
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