チート主人公に殺される咬ませ犬に転生したので、チートキャラを集めて返り討ちにしたいと思います

@NEET0Tk

第1話

『絆の聖剣』


 それはとあるゲームから始まった王道RPG。


 大まかなあらすじは、主人公が聖剣に選ばれ、仲間と共に魔王を倒すという一般的なものだ。


 だが普通と違うのは、始まりが少年時代から始まること。


 少年期編、青年期編、魔族編、神話編と続いている。


 これまでのゲームとは違ったその圧倒的ボリュームと、まるで自身と共に成長していく主人公の姿は一気に人気を博した。


 今となっては誰もが知っている程有名になってしまった絆の聖剣。


 だが、リリース当初からやっている身としては少し嫌な気持ちというか、古参アピしたくなると言いますか


「気に食わんな」


 流行り過ぎた絆の聖剣に、いつしか真正面から向き合えなくなっていた。


 このゲームが好きなことには変わりないが、俺は他とは違うという謎のプライドの結果、皆が注目する主人公以外のキャラに視点を向けた。


 主人公に絡んでくるライバルキャラや、モブの立ち位置にも関わらずなんか凄い設定を持ってるキャラ。


 主人公達のストーリーのような美しさも、楽しさも、幸せもない。


 ただ絶望の中に沈んでいくだけ。


 そんなキャラクターが


「なんか……いいな」


 いつしか好きになっていた。


 元々俺は主人公というよりストーリーが好きであったのも理由があるが、そう言ったサブキャラ達に心奪われた。


 そしてそんな中でも


「また倒されるんだろうなー」


 俺は特に、噛ませ犬のシェイドというキャラがお気に入りだ。


 特徴を上げるとするなら、弱い。


 しかも性格も最悪。


 少年期から登場するキャラなのだが、主人公は当然ながらモテる。


 そしてずっと思いを寄せていた女の子が、主人公の方に好意を向け始める。


 まぁ自分で攻めなかったシェイド自身もあれだが、主人公に好きな子を掻っ攫われるわけだから、同情出来る部分もある。


 それからのシェイドの暴れ方は凄まじい。


 定期的に俺ら、つまりは主人公に襲い掛かりその旅路を邪魔してくる。


 しかもしつこい。


 ゴキブリですら根を上げるレベルのしつこさだ。


 しかも普通に向こうは殺しにかかってくるにも関わらず、心優しい主人公は少し痛めつけるだけで許す。


 結果何度も襲われるわけだ。


 そんな性格破綻者なシェイドが、俺的には世界を救うとかいう主人公の気持ちよりも共感でき愛着が湧いた。


 ある意味俺もクズの一員なのだろうな。


 そんなシェイドの噛ませ犬ムーブは魔族編まで続く。


 何故そこで終わるのかといえば、死んでしまうからだ。


 実はシェイドの心臓には魔王の残滓があり、新たな魔王として現界する。


 そんなシェイドを主人公が倒し、その聖剣で心臓を貫く。


 そうして魔族から人類は遂に解放されるわけだ。


 いやー大変めでたい。


 あの瞬間の嬉しさと感動は今でも忘れていない。


「忘れたかったな……」


 長々と語ってすまなかった。


 好きなものを語る時のオタクは話が長くなってしまうものなのだ。


 だからこそ、そんな絆の聖剣が好きな俺が、今こうしてその世界にいることは大変嬉しい限りである。


 そう


「俺がシェイドでなければな」

「何故こんなことをするんだシェイド!!」


 怒号を鳴らすのは、皆の大好き絆の聖剣の主人公オース。


 どうやら彼は、シェイドとか言う悪戯小僧による小さな悪行に怒っているようだ。


「どうしてルナが作った料理を捨てたんだ!!」


 いやなんでって、それ食えたもんじゃないっすよ?


『そうやって甘やかすから、いつまで経っても料理下手なままなんだよ』


 なんて言えるはずもないし。


 そもそも不味いから捨てるなんて普通しないしな。


 さて、役者魂を見せますか。


「オ、オイラが食べるはずだったルナの手料理を、お、お前なんかが食べるなんて許せない!!だ、だから捨ててやったんだ!!」

「な!!そんな理由で!!」


 オース君激おこじゃん。


 他人の為に怒れるお前は本当に主人公だよ。


 だから主人公様よ


「そ、そんな顔でオイラを見るな!!オイラは……お前なんかにぃいいいいいいいいいいいい!!」


 涙を浮かべがら走る。


 相変わらず全力で走ってもこんなスピードしか出ない自分の体に飽き飽きする。


 そして俺の決死の一撃は


「少し頭を冷やせ」


 オースに軽々といなされ、そして漫画のような手刀を食らう。


 意識が遠くへといく中


「バーカ」


 ニヒル顔の女の顔が映り込んできやがった。


 ◇◆◇◆


「は?」


 目が覚めると、そこは雪国……なんかではなく、知らない場所だった。


「どこだここ?それに、随分と体が重いな」


 まるで重石を付けられているかのような体の不調。


 ゲーム音と音楽だけは鳴り止まなかった部屋も、川の流れる音と鳥のさえずり声が満たしている。


 知らぬ間に薬物でも始めたのかと疑うが、それよりも誘拐や転生と疑った方がまだ……


「転生?」


 やはり俺の脳はイカれたのかもしれない。


 もっと非現実な答えが浮かぶなんて。


「疲れてるんだな。顔でも洗うか」


 まだ軽く夢遊の中だという結論が出た俺は、顔を洗いに洗面台に向かう。


 運悪く、部屋を出ても景色は全く知らない場所。


 これでは洗面台の場所も分かったものではない。


 はずなのに


「そういえば、昨日はルナがオースと遊びに行くって言ってたな」


 俺は真っ直ぐと洗面台へと足を運んだ。


 慣れ親しんだような動きで足を進めた。


「邪魔する計画を立てていたが、なんであんなことしてたんだろうな」


 頭がフワフワしている。


 やっぱり寝ぼけているのか、どうにも昨日のことが上手く思い出せない。


 確か俺はオースとルナと会って


「待て、何故ゲームのキャラに対してさも会ったことがあるみたいに」


 やっぱり変だ。


 まさか本当に薬物をした可能性が浮上しようとは思ってもいなかった。


「グッ!!なんだ!?」


 強烈な頭痛が発生する。


 まるで頭の中で二つのものがせめぎ合っているようだ。


 俺の中で消えかかっている何かが抵抗してくる。


 しかもしつこい。


 何度潰しても湧いてくるそいつにイライラし


「ああ!!クソが!!」


 俺は自分の顔を殴った。


 気付きつけとまでは言わないが、意識をハッキリとさせる。


 お陰で奥のあいつは抑え込んだ。


「フゥ、スッキリした」


 意識が目覚める。


 ようやく夢遊から覚めたらしい。


 一度教会に行って診察してもらおう。


 あれは明らかに異常だったからな。


 安心した俺は、そのままよく知る道をゆっくりと進む。


 そして洗面台に到着していた俺は


「ああ、そっか」


 目の前にいる男に挨拶をしておく。


「本当に転生したんだな」

「シェイド!!ご飯よ!!」


 少し離れた場所から声が聞こえる。


 俺の母親だ。


「直ぐ行く」


 俺は顔を洗う。


 濡れた顔を上げれば、やはりそこにはシェイドの顔があった。


「さて、転生したシェイド君に質問だ。このままいけば、お前は主人公オースに殺される。じゃあ、どうすることが正解だ?」


 ここで俺は自問自答を開始する。


(そんなのオースから逃げればいいじゃないか)


「あのオースからか?出来ると思うのか?」


(そりゃ無理だ)


(オースは成長し続ける)


(最終的には神すら殺す男から逃げ切れる筈がない)


「その通りだ。じゃあどうする?」


(倒せばいいだろ)


「それこそもっと無理だろ」


(だが、今のオースなら倒せる)


「倒したところで魔王はどうするんだ?あいつはほっとけば世界を滅ぼすぞ?」


(そうなれば、俺らも共死にだな)


「だな」


(じゃあどうするか)


「魔王は聖剣でのみ殺せる」


(だが、聖剣保持者は魔王でなくても倒せる)


「ならば」


(返り討ちにしよう)


「だが、返り討ちって可能なのか?」


(普通なら無理だな)


(シェイドが一万、一億いたところで絶対に勝てないだろう)


「じゃあどうするんだ?」


(決まってるだろ?)


「……チートキャラか」


 この世界は絆の聖剣が舞台の世界だ。


 そこには数多のキャラが存在する。


 そしてそんな中でも一際目立ち、そして儚い存在がいる。


 それはチートキャラ。


 ゲームで登場した最強で、圧倒的で、それでいてどこか儚い彼ら彼女ら。


 死ぬ運命にある者、封印された者、命令に従わざる得ない者。


 ゲームの都合上無理矢理その力を抑え込まれた、真の強者達。


 あのぶっ壊れ性能の主人公を倒せるのは


「同じく頭のおかしい連中だけだ」


 俺はこれからの展開を予想し、不敵に笑う。


「方針は決まったな」


 俺はシェイドという役を演じ、ストーリーを魔族編まで進める。


 オースが魔王を倒し、英雄となる。


 そして英雄を俺は倒す。


 悲しいことに、俺には天才的な頭脳も強力な力もない。


 だが、俺にはこの世界の知識という最強の武器を持っている。


 欺け


 騙せ


 媚びれ


 傅け


 そして


「命を掴め」


 ゲームで何度も登場した噛ませ犬に転生した俺は、この世界で最強の男へと宣戦布告をする。


「さぁ、勝負だ主人公様」

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