愛と虹
泣いた。わんわん泣いた。
ロートヴァルとの別れの瞬間を乗り越えたあと、R4-Bは、人生で初めてと言ってもいいくらい、とても長い時間泣いた。ジェイドが背中をそっとさすってくれた。黙ってそばにいてくれた。それが救いだった。まだ、“ふたりぼっち”じゃない。R4-Bは泣く。ただひたすら泣く。いくつもの涙がこぼれては、落ちて、消えていく。
「おふたりは“ひとつ”でした。しかし今、ふたつに分かたれた。お辛いでしょう…」
ジェイドがささやく。泣いて、しゃくりあげているR4-Bは、うまくこたえられない。ジェイドは続ける。
「まさに、愛する者同士の別れですね。わたくしも、神経の通っていない空っぽのはずの胸が、とても痛いです」
「あい、する、もの…?」
しゃくりあげながらR4-Bはたずねる。ロートヴァルと僕が、愛する者同士…?
「ええ。ひと口に愛と言っても、それすなわち恋愛というだけではございません。フィリア、アガペー、プラグマ、ストルゲー…言うなれば友愛、無償の愛、永続的な愛、家族愛…そうです、家族愛です。あなた様は愛してくれる親のような、あるいは兄弟のような存在を望みました。そして、ロートヴァル様はそれにこたえた。ロートヴァル様もまた、記憶を失くして心細く、そばにいてくれる存在を望みました。そしてあなた様は、それにこたえた。ここに、大きな愛が在るのです」
愛…R4-Bはつぶやく。それは詩や小説の中だけのものと思っていた。あるいはどこか、遠くの世界の大人たちが交わすものだと思っていた。少なくとも、早くに家族を亡くした自分が、誰かを愛したり、誰かに愛されたりするなんて、想像もしていなかった。
これが…愛?
R4-Bは不思議な気持ちになる。心がじんわりと温かくなってくる。頬が紅潮する。
そうだ、愛!
確かに彼は、ロートヴァルを新たな家族として迎え入れ、愛していた。新たな家族、新たな親、新たな兄弟。いつも一緒の、大きくて優しい人。ロートヴァルもまた、確かに彼を愛していた。優しい、大きな手を思い出す。心地よい、あの低い声。心に広がっていく、小さな火の色のぬくもり。
R4-Bはくっ、と顔を上げて、ジェイドを見る。彼は涙の乾かぬ顔で、精一杯にっこりと笑う。ジェイドは、どうしたのかと、首を傾げる。R4-Bはとびきり明るい声で、はっきりと言う。
「ジェイド、そこに君もいたんだよ!」
ジェイドは、はっ、としたのち、見たことないほどに、嬉しそうに微笑む。
涙に濡れた心にかかる虹。
空もまた、雲がすっかりと晴れ、黄昏時のオレンジ色が、藍色のキャンバスに燃えるように美しく鮮やかに広がっていた。
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