異変
「どう?何か思い出した?」
R4-Bが興味しんしんといった様子で、ロートヴァルにたずねる。
山のメビウス神殿。その中から出てきた三人は、神殿のそばの草むらにある大きな石に腰掛ける。目の前に広がる、緑の湖。
「いや、何かこれといって思い出したわけではないのだが…」
「だが?」
ロートヴァルは釈然としない様子で、ひとつ息をつく。
「本当のゼロは、いったいどこに行ったのだろうと思ってな」
「あ、たしかに!」
R4-Bは目を丸くする。
ゼロの肉体はここにある。否、ここにいる。しかし、ゼロの魂は?本物のゼロの魂は、今どこにいるのだろう?
R4-Bはロートヴァルとともに首を傾ける。考えてもわかるものではないと知りつつも、ふたりはじっくり考えてしまう。
神話によると、ゼロは傷ついたメビウスを、世界の果ての静かな神殿に運び、眠りにつかせたという。そして、ゼロは姿を消した。どこへ?なぜ肉体だけが、ここにあるの?
R4-Bははたと思いつき、ロートヴァルの方を見る。
「ロートヴァルってさ、あごひげを生やしているけれど、お顔、若いよね」
R4-Bはロートヴァルの顔に、自分の顔をぐいと近づける。ロートヴァルは突然のことに面食らう。
「な、なんだ急に」
「いやぁ。よくよく見ると、ロートヴァルってシワひとつ無いしさ。すごくきれいなお顔してるよねって思ったの」
「…そうか。ゼロの肉体に感謝しておこう」
「今はロートヴァルの体だよ」
「…うむ」
「ロートヴァルはさ、何か心当たりは無いの?ゼロって、神様なのにどうして肉体を持つようになったのかとか、天使たちと戦争になったとき、メビウス様と何をしたのかとか…」
「え、あ、うむ…」
ロートヴァルは口に手を当ててしばしの間、考え込む。細くて長い記憶の糸をたぐる。
「肉体を持つようになったのはずいぶん昔のことらしい。自分の中から溢れ出る死の力を封じ込められないかと思ってつくったのが始まりらしいが、肉体を持っていると相手…つまり、その、メビウスと触れ合えるということに気がついたらしくてな。それからというもの、ゼロは肉体に宿りながらメビウスのそばにいたらしい」
「へぇ!メビウス様とゼロって、そんなに昔から仲が良かったんだ!」
「…らしいな。少なくとも天使と戦争になる数万年以上前から、ふたりは互いに肉体をつくって触れ合っていたらしい。肉体があればメビウスの光でゼロの身が焼かれることも無いし、ゼロの死の力がメビウスに直接降りかかることも無いからな。便利なものだ」
ロートヴァルは短い、ざりざりのあごひげをさする。
「問題はさっきも言ったように、ゼロの魂の行方だ。あと、メビウスがどこに行ったのかも気になるな」
むぅ…と低い声を漏らしながらR4-Bは考え込む。そしてふと思いつくと、彼は顔を上げてジェイドの方を見る。
「ねぇジェイド、ゼロやメビウス様の行方について、何か知ってる?ずっとあの黒い森の神殿にいたんでしょう?何か見ていた?」
話しかけられたジェイドは、静かに体を動かしてR4-Bに向き直る。心無しか、少し困ったような顔をしている。
「はい、見てはおりましたが…前にも申し上げた通り、わたくしは数千年の時を経て目がよく見えなくなってしまいましたので、何があったのか明瞭には話せません。ゼロ様が生気のないお顔で神殿を出ていったことは覚えているのですが…何があったのか、わたくしにもよくわからなくて。初めて貴方がたと出会ったとき、わたくしは何かとても懐かしい感じがして、我らが母がついにお帰りになられたと思ったのですが、どうやら事はそう単純ではないようでございます。申し訳ありませんが、本物のゼロ様や我らが母の行方は、わたくしにもわかりません」
「そっか…」
R4-Bは眉を八の字にして、少しだけ肩を落とす。彼はロートヴァルに、何かゼロの記憶で手がかりになりそうなものはないか聞いてみようとする。しかし、ロートヴァルの顔を見たR4-Bは、目を丸くして後ずさる。ロートヴァルは、両目をカッと見開いていた。
彼の視線の先には…つぶれたトカゲの死体。
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