半分の私

@ittcyan

記憶

高校ニ年生の夏、私は私を半分だけ殺した。








うざったいほど朝日が照りつけてくる。携帯のアラームが耳元で騒いでいる。

暑い。ムンムンする。体が重い。こんな感覚になるんだったら、一生目が覚めない方がマシだ。そんな不謹慎なことを考えながら、冷たさ求めて、布団のシーツに体をよじって擦り付ける。でも、この暑さの中、二度寝はできない。だから夏は嫌いなんだ。生活の中で二度寝ほど至福の時間はないというのに。

仕方なくうっすらと目を開けてみる。

少し体に違和感があった。まるで夢から現実に引き戻されたような。


ねっむ



片手でアラームを止め、ほぼ開かない目で時間を確認する。

「ん、んんん、、、9時30分、、、、」ボソッと呟く。



「くじはん!!?!?!!」声が裏返った。驚きすぎて顔に携帯を落とした。

「いっっったぁ」

上半身だけ起こし、もう一度携帯を見る。

起きたての体温が一気に引いていく。絶望感で体の力が抜ける。自分の顔がだんだん青くなっていってるのが鏡を見なくてもわかる。何度見ても画面は9時半だ。6時半の見間違いかと思って携帯をひっくり返してみた。やっぱり9時半だった。

、、、、、、、、、、

やばい、、、、

やった、、これ完全にやったわ、、、、、、

最っ悪だ。最っ悪の目覚め方をした。

まじもおおおおおおおおおおおおおおおおおお、なにしてんだよおあたしいいいいいいいいいいいいいいいい






昼になって、同じ部活の響が電話をしてきた。

「ちょっと!!!!叶夜!!!!なんであんた今日午前練こなかったのよ!!」

甲高い、大きな声が耳に刺さる。

「ごめんって、ちょっと体調悪かったんだって」

「体調悪ければ事前に顧問に連絡するって決まりでしょうが!!!!今日あんたいなかったからむちゃくちゃ顧問機嫌悪かったんだからね!!!」

「だぁって、、、、、、」

「だってじゃないよ!!!!!ひどいよ!ただでさえ二年生3人しかいないに!!!!」

「悠香もいるし、私いなくても響なら大丈夫かなーって思っちゃって」

誰にも顔は見られてないのに、笑顔を作って言ってみた。

「?、大丈夫なわけないじゃん。なんでそんな自分はいらないみたいなこと言うのよ。今度こんなことしたらマジあんたのこと殴りにいくからね!!」

私は思わず笑ってしまう。

響が言うと、シャレになんないんだよなぁ。


怒った響は怖い。殴る以前に、携帯越しからもう殺気を感じる。

「私、まだ響に殺されたくないわ、、、、」

口に出てしまった。

「はあ???何殺すって??」

「ごめんなんもない」

朝よりもずっと、蝉の声が大きい。気温も朝よりずっと高い。そろそろクーラーをつけてもいい時間かな。そう思って携帯を持ちながら、開いてる窓から外を覗くと、つんと鼻を刺すような湿った独特の匂いがした。雨の匂いだ。昨日の夜降ったのだろうか。そういえば、今日の朝、髪の毛が実験失敗の博士ごとく爆発して、少し濡れていた。顔も化粧が崩れ目元がパンダみたいになり、着ていた赤いワンピースも冷たかった。


【昨日の夜、私のためにあの人が服を選んでくれて、わざわざ、綺麗に化粧までしてくれたのに、ああなってしまうと、彼になんだかとても悪いな。】



ん?なんだ、その記憶

なんだ、その感情

あの人って?だれだ?私はなにを考えてる?

あれ?そういえば私、あんな赤いワンピース持っていたことなんかないぞ、それに、私は化粧なんかできない、ていうか自分の化粧用品なんて一つも持っていない、、、

え?どうゆうこと?




昨日、私、なにしてたっけ、





考え込んでいると、耳元でさっきの怒声よりはるかに大きい声が聞こえてきた。

「ちょっと叶夜!聞いてるの!!!!」

目が覚めた。そうだ、何かの勘違いだきっと、あまりの暑さに頭がおかしくなっているんだ。一旦落ち着こう。

「ごめんごめん考え事してた。響のおかげで目が覚めたよ」

すると、急に響はなにも言わなくなった。

「おーい響、聞こえてる?」

応答がない。不安になって、次は思わず自然に口から声がこぼれた。

「響??」


少し間があいて、やっと響の声が聞こえた。

でも、その声は冷たかった。少し戸惑ったような、何かを恐れているような、疑っているような、そんな声でもあった。

響から発せられた言葉も私の不安を煽るものでしかなかった。

響はこう言った。










「響って、だれ?」



















 






























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