第21話 素力・聖力・魔力

「素力っていうのは身体を動かす基本的な力だろ、他には何があるんだ?」

 クリスティアンに向き直ってロージェも改めて聞いた。


「基本的にはそれでいいよ。生きていくのに不可欠な力を『素力ベーシックパワー』という、この力は誰にでも備わっている。それに対して『魔力マジックパワー』とか『聖力ホーリーパワー』という力もあるんだけど、これは誰にでも備わっているものではない」

 クリスティアンは説明した。


 『聖力』あるいは『神聖力』なら物語の中に出てきた。

 アイシャが受ける『列聖識別式』ではその有無が検証される予定だ。

 ぶっちゃけ本物のアイシャにもメイ本人にも備わっていないようだが……。


「そこのところもうちょっと詳しくお願い! 聖力とか魔力って何? わたしにしてみるとどっちも不可思議な力っていう事しかわからないの」

 メイはクリスティアンに頼んだ。

「聖女殿なら魔力はともかく聖力については詳しいんじゃないかと?」

 クリスティアンがけげんな顔をする。

「いや、その……、私の場合、まだ認定されているわけじゃないので『聖女殿』って呼ばれ方もなんだかね……。確かに聖力なら多少知っているけど……」

 本を読んで、と、いう言葉は飲み込み、メイは続けた。

「病気やけがを治療したり、何か不思議な技で相手が嘘をついているかどうか見破ったり、そんな感じかな……? それと魔力とはどう違うのか? 素力にしても身体を動かすだけでなく自動翻訳機能までついているなんて、私にしてみれば聖力や魔力同様、かなりな不思議パワーなんだけど……」

 しどろもどろと本を読んで得た限りの知識をメイは話した。


「う~ん、『聖力』とは物事をあるべき正しい姿に導く力。世界を支える四つの柱の精霊スピリットの一人、サタージュ神の加護を得た者が発揮できるといわれている。エルシアンの国教で近くに立っている神殿もサタージュ神を祀ったものだよ」

 少し渋い顔をしながらクリスティアンは言った。


「けがや病気が治ったり嘘を見破ったりできるのは……」

「それがサタージュ神から見た『あるべき正しい姿』だからじゃないかな? 身体を健康な状態に戻したり、僕は魔導士なのでそこらへんはあまり詳しくないんだけど」

「じゃあ、魔力は?」

「魔力とは単純に言うと物事に変化をもたらす力。『正しい』ことにこだわる聖力よりも応用範囲が広いし、現在の社会生活の利便性の大半を握っているのは魔力の方だよ。神殿側はそんな世の中の様子を『堕落』なんて言っているらしいけどね」


 堕落ですか?

 原理主義的な考えをする人はどこにでもいるらしい。


「魔力を生み出した神はウルマフと呼ばれていて、サタージュと同じくこの世を支える柱の四精霊の一人なんだ。魔力と聖力は相殺し合う関係にあってね、力をぶつけ合うと、その力の強弱にもよるが互いに無効化される」


 仲が悪いのかしら?

 さっきクリスティアンは聖力の話の時に顔をしかめたし……?


「血筋なのか、個人の資質なのか定かではないが、魔力や聖力を発揮できる人は限られている。現にロージェは素力は一般の平均値よりかなり多いらしいが、それらの力は発揮できない。あと素力との関係だけど、基本的な力である素力が体内で変換され魔力や聖力になるんだ。ちなみに素力は全体の三割を切ると体が動かせなくなってしまう。残る力が全て生命維持のために使われるからなんだ。」


 何となくイメージができてきた、と、メイは思った。

 

 元の世界でRPGをいくつかやったことがあるが、全部なくなるとキャラが死んでしまうHPが素力、スキルを使うために使われるSPが魔力や聖力。

 できる人は限られているが、この世界ではHPをSPに変換できるらしい。

 ゲームはたぶんこの世界には存在しないだろうから、聞いて確かめることはできなさそうだな。


「魔力と聖力についてはおおまかにわかったけど、他にスキルは存在しないの?」

 メイは聞いた。

「スキル?」

 クリスティアンが尋ね返した。


 通じなかったみたいだ……。


「その…、それらの力は精霊というか、神が与えているような感じに聞こえるので、たしか『四大精霊』とか言ってなかった? この世を支える柱とか?」


「ああ、その話か」


 クリスティアンは説明を始めた。


 この世界の造物主は、精霊の王たる存在にその管理をゆだねた。

 精霊王はまず「火・土・風・水」の精霊を自然界を支える四つの柱とした。

 さらに、人間たちの活動を支える精神的な柱として、様々な概念を具現化した精霊を生み出した。

 その中でも特に重要な力を持つ精霊を「四大精霊」と呼ぶ。

 

 善意と苦難を表すサタージュ。これは良き行いと悪しき行いのバランスを司り、彼の加護を得る者はこの世の正しき姿を保つための力「聖力」を発揮できるという。

 反逆と争乱を表すウルマフ。これは固定化した世の中に変革をもたらすための力を象徴しており、ゆえに「魔力」の源となったといわれる。

 美と夢幻を表すネイレス。世界に潤いを与えるための存在であり、彼の寵愛を受けた者は文化や芸術をもって世界に貢献できるという。 

 破壊と再生を司るプルカシア。新たなものを作り上げるために一度すべてを壊してしまう破壊神。その概念からものを分解したのち再構築する「錬金魔法」を得意とする魔導士たちから特に信仰されている。


 四つの精霊の中でも、正しさと清らかさというわかりやすい概念から、サタージュへの信仰が人心を集めやすく、その神殿勢力がエルシアンと結びつき現在大陸にて勢力をふるっている。


 元いた世界で読んだ物語では、神殿勢力と皇太子勢力の小競り合いが絡んでいただけだったが、その背後に広がる壮大な伝説にメイは圧倒されるのだった。

 

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