第2話
次の日私はロイズ伯爵邸へとやってきていました。
私の親友であるソフィアにお茶会に誘われていたからでした。
この日はもう一人の親友であるリーゼと共にレイス伯爵邸の庭園で美しい花々を眺めながら、雑談に花を咲かせていました。
二人とは貴族学院時代からの知り合いで嫁いでからも変わらずに仲良くしており、二人とはよくこうしてお茶会を催していました。
そして話題はあの人(ユーゲルス)の事になりました。
リーゼが私に言います。
「やっぱりさ、アイツとは絶対に別れた方がいいよ。」
ソフィアもうんうんと頷きながら言いました。
「同感、アイツは本当にヤバいわよ。」
私は言葉を濁しながら二人に言います。
「うん、あの人は厳しいからね。」
「厳しいとかそういうレベルじゃないでしょ、文字通り雷を落とされたんでしょ。」
「うん、このまえまたそれで倒れちゃって。」
「電撃を妻に食らわせる男なんてヤバすぎるって。」
「だってレイラ全然悪くないじゃない。」
「ソフィアの言う通りだって、アイツがいきなりレイラを王宮に呼びつけておいて自分は呼びつけた事をすっかり忘れてそのまま屋敷に帰っちゃったんでしょ。それなのにアイツは屋敷で自分が帰った時になぜ出迎えをしないんだって激高してレイラに電撃食わされたんでしょ。自分が勝手な命令を出したのにそれを忘れたうえで、逆上してレイラに電撃浴びせるとかヤバいとしか言えないわ。」
「本当よね。なんであんなのが公爵やってるんだろう。」
私がソフィアに言いました。
「ユーゲルスの父親である前ルイホルム子爵であるマルタス様が魔道具の開発者だってのが大きいかな?ユーゲルスが子爵から公爵にあがれたのもマルタス様の功績があるからだと思うし。」
リーゼが相槌をうちながら言います。
「昔は魔力を測ったり魔法を覚えたりするのはとても大変だったらしからね。今でこそ魔法はありふれたものになってるけどね。」
「だったらマルタス様の爵位を上げてあげれば良かったのに。」
「マルタス様は公爵の爵位を貰う前に亡くなってしまったのよ。それで代わりに息子であるユーゲルスを子爵から公爵に上げてもらったんだよ。」
「アイツの御父上であるマルタス様がすごいのであってアイツ自身はクズよクズ。私さアイツと3年の時にクラスが一緒だったじゃない、本当に最低の奴だったわよ。すぐにキレるし、ほぼ毎日大声で怒鳴り散らして暴れ回ってたわ。同じクラスだった1年間は本当に地獄としか言いようがなかったわ。」
ソフィアがリーゼに言いました。
「ああそう言えばリーゼよく愚痴を言ってたね。」
「あの頃は本当に最悪だったわ。だからさよくレイラがあんなのと一緒にいられると思うのよね。」
「あの人から縁談の申し込みがあったの。」
「でも男爵様からは止められなかったの?」
リーゼの言う男爵様というのは我が父のボルス男爵の事です。
私はボルス男爵家の娘であり、あの人が私の18の時に縁談の申し込みをしてきてそのまま結婚したんです。
「お父様からは止められたわ。ボルス男爵家の事なんて考えなくていいから。とにかくアイツだけはやめとけって。でもお父様のお役に立ちたかったし、あの人もみんなが言うほど悪い人だと思えなかったから。」
「でも違ったでしょ?」
「うん、リーゼが忠告してくれた通りだった。」
「だから言ったでしょ。アイツだけはやめとけって。」
「うん、ごめんね。再三忠告してくれたのに。」
「いやそんな事は別にいいのよ。問題はこれからどうするかよ。あんな奴のそばにいたらレイラあいつに何されるか分かったもんじゃないでしょ。今晩にでも逃げた方がいいと思うわ。」
「リーゼ、ちょっとオーバーじゃない?」
「もう電撃を食らわされている時点で正気の沙汰じゃないから。とにかくアイツは本当にヤバいわ。」
「私も同感。レイラは即刻逃げた方がいいと思う。」
私は二人に尋ねました。
「どこでもこういうものじゃないの?」
「ブリムハルト様から電撃を浴びせられた事なんてないから。」
「私もリドル様からそんな事された事ないわ。」
「おまけにアイツは四六時中所構わず暴言を吐くんでしょ?」
「うん、ほぼ毎日言われるね。でも喧嘩ぐらいは夫婦ならする時もあるでしょ。」
「いいレイラ、アイツのはそもそも喧嘩じゃないから。」
「うんそうだね、アイツが暴言をはきまくってレイラが何も悪くないのにひたすら謝り続けるだけなんでしょ。だったらそれはアイツがレイラをイジメてるだけだから。」
「喧嘩という事すらおこがましいよね。」
「そうだソフィアこの前は穏便に済ませてありがとね。あの人の顔を立ててくれて。」
「アイツなんざどうでもいいわ。レイラが心配で何も言わなかっただけ。」
「ソフィア、アイツになんかされたの?」
「ほらこの前のルイホルム家の主催のパーティーがあったでしょ、その時にあいつに絡まれたのよ。」
「絡まれたって?」
「あの日ちゃんと届いた招待状を持ってパティーに行ったのよ。ルイホルム公爵邸ではちゃんと招待状を見せて公爵家のスタッフに確認してもらって会場に入ったのよ。それで他の招待客の人達と談笑してたら突然アイツがやってきて、私にこう言ったの。『なんで貴様みたいな女がここにいるんだ?さては勝手に潜り込んだな??ルイホルム公爵を舐めるとはいい度胸だ。』そう言って私に水をかけてきたのよ。」
「はあ何それ、ちゃんと招待状を持ってたんでしょ?」
「うん、それアイツに言ったんだけど、そんなもの偽物だろう。うまく偽の招待状を偽造したようだがこの公爵の目は欺けんぞとか意味不明な事を言われたのよ。それでそのまま追い出されたの。おまけに10回以上足蹴りをされたわ。」
「それであの時いなかったの?」
「うん、そうだったのよ。リドル様に言わなきゃとも思ったんだけど、アイツがレイラに当たらないか心配で心配で何もリドル様には言わなかったのよ。」
「ごめんね、本当に。」
「いいよ、体調も悪かったんだし。全部アイツのせいなんだから。」
するとリーゼが私に尋ねてきました。
「ねえ一度聞いてみたかったんだけど、あいつに何かをしてもらった事ある?」
「何かって?」
「何かプレゼントしてくれたりとか?」
「ううん一度もないかな。」
すると今度はソフィアが尋ねてきました。
「それじゃあどこか一緒に旅行とかに連れってってもらったことは?」
「一度もないかな。あっでもこのまえ王宮に勲章を持ってこいってあの人から使いがきて大急ぎで王宮に持っていた事はあるけど。」
「それは旅行とは言わないから。ただのお使いだから。」
またリーゼが尋ねてきました。
「ねえ、結婚してからアイツがレイラに謝った事ってあるの?」
「あ~、そういえば一度もないかも。」
ソフィーが呆れた様子で私に言いました。
「三年一緒に過ごしてて一度も謝らないってありえるの?」
「ありえないでしょ。」
「とにかくレイラすぐに逃げなさい。このままルイホルム公爵邸に戻ってはダメ。」
「それはできるだけしたくないかな。」
するとリーゼも私に言いました。
「私からもおねがいよ、アイツから逃げて。レイラあなたには元気でいてほしいのよ。」
私は二人に言いました。
「でも私はあの人の事を諦められないでいるのよ。きっとあの人の事を愛しているだと思う。」
「たぶんそれは違うわ、レイラあなたはアイツを愛しているんじゃない。アイツに怯えているの。アイツを恐れているのよ。」
「うん怯えて何されるかわからないと思ってるから帰ろうとしてるんだと思うよ。」
「ねえレイラ、アイツを愛しいと思える?これからもずっと一緒に歩んでいきたいと思える?」
私はソフィーの質問に自分でも驚くほどはやく回答を出す事ができました。
「全然思えない、あの人とはもう絶対に一緒に歩んでいきたくないわ。」
私はそう声に出してようやく気が付きました。
私はもうあの人の事を愛していない事を。あの人にこだわっているのはあの人を恐れているからだという事に。
私はセリスの首飾りを外してみる事にしました。
これは結婚式のときに相手のセリスの首飾りと交換して愛を誓いあうというしきたりがあり、結婚式の時は政略結婚であってもまず例外なく行われます。
このセリスの首飾りには結婚した相手と愛し合っている間は外す事ができないといわれています。
私はあの人との交換したセリスの首飾りを外してみる事にしました。
するとセリスの首飾りは簡単に外せました。
そして私は二人に言いました。
「そうね、私はあの人に怯えているだけで、あの人への愛はとっくに枯れ果てていたのね。分かった。私今晩逃げるわ。」
私はユーゲルスから離れる決意をしました。
私は公爵邸にもどり最低限の物を取りに行ったあとで公爵邸より逃げだしました。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます