【完結】胸クソ彼氏で初恋を喪失した超ピュアな幼なじみを抱きしめたら、俺にデッレデレになりました。~クソ彼を差し置いて、幼なじみが今さら男女としてドキドキし始めた件~
15.【盛り上がって】クソ男は突然に【まいりました】
15.【盛り上がって】クソ男は突然に【まいりました】
「よっし!!! 私の三連勝~♪」
パシっとアーケード版マリ男カートの筐体を叩いて、運転シートから飛び跳ねたのは『おにゃのこモード』の武装をあっさり剥がれた幼なじみの沙那である。
結局安定のゲームに興じ、無邪気にはしゃぐ始末だ。……おい、ドキドキデートは外の大学生が放置してるロング缶と一緒に捨て去られたのかい?
「いや即オチ二コマじゃねーか!」
「そくおち……にこま? それってホントにちゃんとした日本語?」
「ちゃんとしてない日本語!」
「じゃー私にわかるわけないじゃん!!!」
珍しく芯を食われた。ネットスラングはちゃんとした日本語とは言えないよね。ちゃんとした人は使わないし。←
「儚い命だったな、沙那ご自慢の『おにゃのこモード』も」
「むっ。ケーキさんを食べられたらそりゃあ黙ってられないよぅ!」
「代わりに新しいのを買ってあげたから許して」
「私はあの子に愛着がわいてたんだけどなぁ……」
え、どういう感覚? 多様性の時代もここまできた、って感じ????
「俺的にはふつーの沙那といられるほうが助かる」
「なんでよ~! せっかくのおデート気分だったのにぃ!」
「ずっと演技をしてたら疲れるでしょ。お互いに」
沙那のファッション自体は本意気のままだから、それはすっごく良い。ベレー帽まじパないっす。自分の新たな趣味に気づかされました……。
「デートなんてろくにしたことないんだから、ありがたく受け取っときなよ! かわいい幼なじみからのプレゼントだと思ってさぁ~!」
「意訳すると、『殴って良いよ』ってことでおけ?」
「また言ってる⁈ だめだってっ! ぼうりょくはんたいっ!」
ぶー、と頬を膨らませる沙那。そう、こっちのがいい。一生こういう無邪気な沙那でいて欲しい。あの
「……じゃーあ、演技してる私はかわいくなかったってこと?」
「いや、可愛くないわけじゃ」
どこかいじけながら言う沙那に、本心で返す。
「でも、かわいい子はずっと見てたいのが男の子心なのでは?」
「俺らは素のほうが落ち着くって。アレは特別な男の子のために置いときな」
「むぅ……」
「好きな人のために頑張れるのはすごいステキだと思ったけど」
演技……というより、欲しいものを本気で獲りにいくための努力。めっちゃいいじゃん。沙那はピュアすぎて、このままオトナになったら逆に損をするんじゃないかと心配もしていた。世の中が理不尽なんだが、ああいう人を傷つけないウソならつけるようになることだって、成長のうちだと思う。知らんけど。
「わかったよぉ。みっちーの前でへんな見栄は張りません~」
「気楽にいられるのが幼なじみの特権だよ」
「だね~! ……でもでもでもぉ」
ヘラヘラと笑った沙那だが、思い残りでもあるように言葉を続ける。
「か、かわ……っ」
「え? どうかした?」
顔もうっすら赤くなってるんですが。ロングコートの裾が握られてシワになる。何かに葛藤しているようだ。
「かわ……」
「皮? 晩ごはんに焼き鳥でも食べたいってこと?」
自分で言ったけど多分違うよね。焼き鳥に行きたい
すると沙那は、くびれた腰をクネクネとしながら少し声のボリュームを落としつつ……?
「…………かわいいとは、言って欲しいかも……」
伏し目がちの沙那に甘えられ、ドギン! と心臓から変な音が鳴った。まるで金属片をぶつけ合わせたような!
「『可愛くないわけじゃ』とかじゃなくて、もっとすとれーとに言われたい……よぉ……」
「おぉ、そ、そうきたか……」
これはどの形態の沙那なんですか⁈ いつもの能天気お気楽幼なじみでもなく。ちょっとオトナっぽく背伸びした、男を確実に釣り上げる『おにゃのこモード』でもなく。
……単純に、女子としての本能なんだろうな。
「女の子って、ほんっとうにかわいいって言われるのが大好物だから……。い、一応おめかしとかも頑張ったし? ほらぁ、見てよ……」
ベレー帽をクイクイと上下に動かす。そいつは俺の特大弱点だぜ?
「め、面倒でごめんっ!!!」
両手をブンブンと振って、『違うの!』とでもアピールしたげな沙那。
きっと、幼なじみだからって女子として見られる目線がゼロなのはビミョーなんだろうな。これだけ女の子っぽい服装をしたのも俺の前では初めて。だから褒めてほしい。……乙女心って激ムズですね。いっそ東大も受験科目にしてみたら? え、全員落ちる? 東大生に乙女心なんてわかるわけない? ジョークでんがな。
「……可愛かったよ。服もめっちゃ似合ってますー」
「…………いひひっ」
別に恥ずかしくはないから包み隠さず言う。すると沙那は、満足げに腰のあたりでガッツポーズをした。
「みっちーに褒められるのめ~~っちゃうれしい!!!!」
「うん、喜んでくれてなにより」
「じゃ、おデートの続き行こっか! ……幼なじみとしての私たちでっ!」
「桐龍の思い出を塗り替えるってミッションはまだだもんな」
互いに自然に手を出し合って、示し合わせたように握る。
「ほら、にぎにぎっ! 褒めてくれたごほうびだっ!!」
「ったく、調子よすぎるよ……」
でもなぜか落ち着く。やっぱり沙那とはこういうのがいい。
――なんて、思いながら立ち上がった瞬間。
「マズいよみっちー、ちょっと隠れてっ!」
「えっ?! 急にどうしたっ?!」
沙那は、マリ男カートの運転席のシートに体を隠しながら、こそーっと指をさす。
「み、みみみみみ! 見てよあれ! クレーンのところっ!!」
初めてお目にかかる、沙那の初恋を穢した悪魔の立ち姿を。
俺の立場からして沸き上がるべき感情は『動揺』であるべきだった。前の電話の件もある。不用意に姿は晒したくない。
だが、その姿を認めた瞬間にそれよりもパワフルな感情が心の中で焚きつけられる。
それは――『怒り』。
だって、だって……!!!!!!
「櫂斗くんが、女の人と一緒にげーむをしてるんだけど?!?!」
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