第13話 好きな人 ~優良~

 わたしの名前は泉優良。高校二年生の十七歳。


 わたしには好きな人がいる。


 それはずっと一緒にいた幼なじみの南雲凪。


 わたしの親友で親友以上になりたい存在。


 凪と出会ったのはわたしが小学四年生の頃。凪は別の学校から転校してきた転校生だった。あの時、たどたどしく緊張した様子で自己紹介をする彼女をわたしは鮮明に覚えている。


 わたしの第一印象がとても優しそうな子だった。この子と仲良くなれたらな、先生がいなくなったら勇気をだして話しかけてみようかな。そんなことを考えていた。


 この頃のわたしは同じクラスに友達が少ないどころか一人もおらず、クラスの端っこにいるような女の子だった。


 自分から人に話しかけたり、みんなの輪の中に入っていくのが苦手で、せっかく話しかけられてもわたしのおどおどした性格のせいで会話は弾まず、みんなわたしから離れていく。


 唯一、恋がわたしの友達という枠に収まっていたが、恋は違うクラスなので、わたしの孤独感はあまり変わらなかった。


 凪は挨拶を終えて、先生が教室から去った後、すぐにクラスメイトたちに囲まれていた。楽しそうに話していて、まだ転校初日だというのにすぐにみんなと打ち解けていた。


 その様子を見て、わたしはまた出遅れてしまったと自分の情けなさを責める。


 その日の放課後、わたしは教室で一人の男子に絡まれていた。名前は鈴木君。どうしてかは毎回、鈴木君はわたしに嫌がらせをしてきて、今回は筆箱を人質にとられていた。周りには誰もいないので、助けを求めることすらできない。


「ちょ、ちょっと…… 返して……よ……」

「何だって? 言いたいことあるならもっとはっきり言えよ。じゃないとと返さねえぞ」

「うっ……」


 尖ったような大きな声で言われてわたしは萎縮してしまった。


 なんなの毎回毎回。わたし何か悪いことした? 迷惑かけた? なんでこんなことするの?


 わたしは泣きそうになっていた。


「何してるの?」


 そこに現れたのが転校生の凪だった。凪がわたしを庇うようにしてわたしの前に立つ。


「なんだよ転校生」

「何してるのって聞いてるの」

「こいつ、いっつも一人でいるから俺がかまってやってるんだよ」


 なんなのその理由。確かにわたしは友達がいないけど、鈴木君なんかにかまって欲しいわけじゃない。


 わたしはもう心が限界をむかえてそうになって、涙が出そう滲んできた。すると凪がわたしの方に振り向いて言ったのだ。


「大丈夫だよ」


 わたしはその時の凪の優しい言葉と表情を一生忘れられない。こんなに誰かの言葉と笑顔が心にしみたのは初めてだった。


「君さ、この子が嫌がってるのわからないの?」

「はあ? そんなわけないじゃん。なあ?」


 そう言われてわたしはドキッとする。本当のことを言った方がいいのだろうか。でも本当のことを言ったら怒られるのではないのだろうか。わたしは迷ってしまって何も言えなかった。


「こういうやつにははっきり言わないとわかんないんだよ。大丈夫、わたしがいるから」

「……!」


(そうだ。はっきり言わないと……!)


 その言葉に押されてわたしは今まで迷惑だったこと、絡んでこられるのが嫌だったことをはっきりと言った。凪のおかげではっきりと言えた。


「大丈夫だった?」

「うん…… あ、ありがとう」

「泣いていいんだよ」

「……え?」

「ずっと我慢してたでしょ? 泣いていいよ。わたしがいるから」


 そう言って凪はわたしをぎゅっと抱きしめた。


 わたしは凪に抱きしめられながら声をあげて泣いた。抱きしめられている安心感からなのか、涙がぼろぼろと溢れてきた。


 凪はわたしが泣き止むまでずっと抱きしめてくれていて、泣き止んでも隣で話を聞いてくれた。


「ねえ、わたしたち友達になろうよ」

「え……」

「優良ちゃんとは仲良くなれそうな気がする!」


 わたしは飛び跳ねそうなくらい嬉しかった。わたしと実際に話して、それでも友達になって欲しいと言われたのは初めてだった。


 そこからわたしたちは友達となり、よく放課後に一緒に遊ぶようになった。凪のおかげでみんなの輪の中にも入れるようになって、わたしの孤独感は嘘かのように消えていった。


 そこからは日を増すごとに凪のことが好きになっていった。そしてこれが恋愛感情だと気が付いたのは中学一年生の時。


 わたしはなんとか凪に見合うような女の子になりたくて、自分を変えようと必死に努力して、当時のような引っ込み思案な性格を無理やりにでも変えた。そのおかげか今では友達も増えて、告白なんかもされるようになった。


 自分に自信が持てるようになったのだ。


 しかし、自分に自信を持てるようになっても、凪に告白する勇気だけはどうしても出なかった。


 だってわたしが好きな人は同性の友達。凪に否定されてしまったらわたしはきっと立ち直れない。そう考えると怖くて告白なんてできなかった。


 そこからずっと凪への思いを隠して生きてきた。いつも凪への好きが溢れそうになるのを我慢するのが大変だった。


 それでも凪への思いを押さえつけるのにも限界がある。ここ最近は何度も凪に告白しようと考えてはやめ、考えてはやめを繰り返していた。


 そんなある日。凪の部屋に遊びに行くと、ベッドの下に何かがあるのを発見した。勝手にベッドの下から取り出すのは悪いと思いつつも、好奇心に負けてしまったわたしはベッドの下にあるものに手を伸ばす。


 わたしの手に捕まったのは今まで見たことのない漫画だった。


 なんでこんなところに漫画があるんだろうと不思議に思いながら中を見て、内容を確認してみるとそれはわたしにとって衝撃的な内容だった。


 もしかして凪は女の子が好きなのだろうか。わたしにもチャンスはあるのだろうか。わたしの中には期待が渦巻く。


 凪を問いただしてみると、わたしの予想通り凪は女の子が好きならしい。そう聞いてわたしはもう凪への気持ちを抑えられなくなった。


 だからわたしは凪に告白した。


 凪は困惑していたけど、わたしを拒絶するような様子は見られなかったので、嫌われてはいないと思う。


 凪に思いを告げるとわたしの心はスッキリとして、鎖から解き放たれたような気分になった。


 これからはもう我慢しなくてもいいかと思うと、今まで押さえつけていた好きが溢れ出してきて、さらに凪のことが好きになっていく。


 わたしが女だということに加えて、ずっと一緒にいた幼なじみだから急にわたしから好意を向けられても凪は混乱するかもしれない。


 でもわたしたちは幼なじみだからこそお互いのいいところを知り合っているし、いろんな思い出も共有できる。


 大丈夫、幼なじみとは付き合える。わたしは凪と結ばれるんだ。




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