第14話 進路
「ねえねえ、凪ちゃん。今日凪ちゃんの家に泊ってもいい?」
「うん、いいよ。あっ、でも今日これから進路の面談があるんだよね」
わたしは放課後に先生から進路指導教室に来るように言われていた。おそらく一か月程前に行った模試の結果が出たのだろう。
「うーん、そっか。じゃあ面談が終わるまで待ってるね!」
「え、でも時間かかるよ?」
「大丈夫大丈夫!」
「そっか。じゃあ行ってくるね!」
わたしは先生が待っている進路指導室へと急いで向かう。
「失礼しまーす」
「あ、来たわね。じゃあここ座って」
「はい」
わたしは先生の前に置かれた椅子に腰かける。
わたしの担任の先生の名前は
きっちりしているようでどこか抜けているところがあり、そんな親しみやすさからか、生徒からは和歌ちゃん先生と呼ばれている。
「南雲さん、最近どう?」
「いつも通りかなあ」
「こら。今は南雲さんの先生なんだから敬語を使いなさい敬語を」
「えー、今は別に誰もいないからいいじゃん」
やはり和歌ちゃんに敬語を使うのはどうしても慣れない。
何を隠そう和歌ちゃんはわたしの親戚なのだ。わたしとは歳の離れた従妹にあたり、昔からずっと親戚の集まりでは顔を合わせていたのである。
昔から和歌ちゃんとは仲が良く、普通に一緒に遊びにいったこともある。
和歌ちゃんがこの学校にきたのは今年。別の学校から異動してきて、教師生活は今年で五年目らしく、国語を教えている。
教師になったのは知っていたがまさかわたしの学校に赴任してくるだけじゃなくて、わたしの担任にまでなってしまうとは。
今年の春、和歌ちゃんが全校生徒の前で挨拶をし始めた時は本当に驚いた。世間は狭いとはまさにこのことである。
「和歌ちゃんは最近どう? そろそろ結婚なんじゃない?」
和歌ちゃんには何年か付き合っている彼氏がいるとちょっと前に聞いた気がする。どうやらイケメンで優しいらしくわたしの前で惚気話をかましていた。
「それがさあ、実はその彼にフラれちゃって……」
「え!?」
「はあ、どうして…… 何がいけなかったのかな……」
「まあ和歌ちゃんモテるしまたすぐに彼氏できるよ」
「そうだといいけど…… ってそんなこと今はどうでもいいのよ! 今は凪ちゃんの進路の話!」
「えー」
「えーじゃないの! 凪ちゃん、もうちょっと勉強しないと志望校に届かないわよ?」
和歌ちゃんが模試の結果が書かれた紙を机の上に広げる。
「うっ! 見たくない!」
わたしは両目をぐっとつむり、両目を手で覆う。模試の翌日に行った自己採点でだいたい点数が良くないのは予想がついていた。
「こら、ちゃんと見なさい」
和歌ちゃんにそう言われてわたしは手を膝の上におろして、いやいや目をあけると模試の点数がわたしの目に痛々しく飛び込んでくる。
(ああ……)
───────────—
国語 140/200点
数学 62/200点
英語 134/200点
日本史B 70/100点
現代社会 60/100点
理科基礎 44/100点
合計 510/900点
────────────
900点満点中510点。半分を超えてはいるもののこれではわたしの第1志望校の合格ラインには届かない。
やはり目に見てわかるように問題は数学と理科。特に数学は200点満点中62点。半分もとれていない。非常にまずい現状である。
「数学をなんとかしないとやばいわね…… せっかく文系科目はしっかりとれてるんだから、もったいないわよ?」
「それはわかってるんだけどさあ。どうしても数学だけは苦手なんだよね」
「ちゃんと勉強はしてるの?」
(ぎくり……)
正直に言ってしまうとあまりやっていない。やる時があったとしてもテストの前だけだとか、恋に教えてもらう時だけである。
数学は苦手なのでどうしても後回しになってしまうのだ。
わからないからやりたくない。至って単純な構造である。
国語や英語はまだ勉強していて面白さというものを感じることはできる。しか数学に関しては面白さを全く感じないし、何が何だかさっぱり。
基礎の問題くらいならギリギリ解くことができるが、少しでも問題を応用をされようものなら全くわからなくなる。
自分でもヤバいとは思ってはいるけれど、そこまで数学に時間を割けていない。
「その顔はしてない顔ね…… 数学の先生に質問に行ってみたら?」
「いやあ、あの先生あんまり好きじゃないんだよねえ……」
わたしのクラスに数学を教えてくれている先生は、男の先生で、なんか圧迫感が強いというか、話しかけづらいというか、怖いというか……
「まあ凪ちゃんの言いたいことはわかるけどねえ」
さすが和歌ちゃん。わたしと同じ血が通っているだけあってわたしの気持ちをよくわかっていらっしゃる。
「でもこのままって訳にもいかないでしょ?」
「うーん、まあ恋に教えてもらうしかないかなあ……」
先生がダメなら残るは友達しかいない。となったら恋が一番の適任だろう。
「ああ、児玉さん? あの子数学すごいわよね。なんで理系じゃなくて文系にしたのかしら?」
「さあ?」
文理選択を決める際になんで文系にするのかと聞いたことがあるが、なんとなくだといって詳しいことは教えてくれなかった。
「まあとにかく児玉さんに数学は教えてもらって頑張ってね。じゃあ今日のところはもう帰っていいわよ」
「はーい。じゃあね、和歌ちゃん。仕事頑張って」
わたしは和歌ちゃんに手を振って、進路指導室を後にした。恋が待ってくれているので、わたしは走って教室に戻る。
「恋ー、おまたせー。あ、勉強してたの?」
「うん」
わたしが教室に帰ると恋はノートと教科書を開いて勉強をしていた。見たところ数学を勉強しているみたいだ。
「恋ってよくそんなに数学ができるよね…… 頭の中どうなってるの?」
「あはは、数学って面白いからやる気でちゃうんだよね」
「ふーん…… あ、そう言えば恋ってさ、なんで理系にしなかったの? それだけ数学が得意なのに」
「凪ちゃんが文系にしたからだよ?」
「え?」
「凪ちゃんが文系ならわたしも文系にしよーって感じ」
「ええ!?」
(そんな理由で決めてたの!?)
「まあ別にわたしはどっちでも良くて、文系にしたことを後悔はしてないから安心してね」
「そ、そっか…… ならいいけど……」
いいけどまさかわたしがきっかけだったなんて思ってもいなかった。だって普通文理選択は自分のやりたいことや得意な教科を基準に決めるものだとわたしは思っていた。
(なんか申し訳ないような……)
「ほら、早く凪ちゃんのお家行こ!」
「う、うん……」
わたしは恋から受けた衝撃と申し訳なさを胸に恋と一緒に学校を後にした。
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