難聴の私から継妹は婚約者を奪っていきました。それは、私のすべてだったのに。

皐月ふう

第1話 貴方は全てを奪うの?

「ァミナ。




 ぃこうー。」



私の最愛の婚約者クルス様は


にっこりと笑って


私に手を差し出した。




はっきり声が聞こえなくても、


クルス様が私を呼んでくれているのは


よくわかった。




ふわふわと、


雪が舞う冬の日。




静かな世界の中で、



クルス様は


キラキラと輝いて見えた。




私、ラミナは


生まれつき耳が悪かった。




言葉を捕まえるのが苦手な私は


人と会話することは


とても難しかった。




声の大きさの調整、


綺麗な発音


そのどれもができない私を



クルス様は受け入れてくださった。




「はい!」



私は、元気よく返事をして


クルス様の側に駆け寄った。





「ーィナ。」





女の人の声?


私をよんだ?




私には


声がどこから発生しているのか


分からない。





「っちを



 むきぁさぃよ!!」




棘棘した


私を攻撃する声。



私は


この声を知っている。




誰かが私の肩を掴み、


強引に振り向かせた。





「サラウ、、。」




そこにいたのは、


私の継妹であるサラウだった。




私の母は、


私が本当に小さい頃に


死んでしまい



物心つく頃には、


新しい母親がやってきた。




耳が聞こえない私のことを



鬱陶しく感じていたのか、



継母は私に


きつく当たった。





継妹であるサラウも


同様だった。




「ぁんぁなんぁが、



 しぁわせにぁれぅわけなぃぉよ!」



何を言ってるんだか、


わからないな。




なんとなくの、


察しはつくけど。


 


こういう時は、


サラウの言葉が聞こえなくて


良かったと思う。




「お父様。」




サラウの後ろには、


父と継母が立っていた。




継母は


何やら


クルス様と話している。





父は私の前にやってきて、


視線を合わせると



「ごめんな。」



と言った。




今まで何百回も


言われてきた言葉。





この言葉だけは、


いつも鮮明に聞き取れた。




父は


私に一枚の紙を差し出した。




そこには



ークルス様とラミナは



 婚約破棄することになった。





 クルス様は



 サラウと結婚するーー



と書かれていた。




私はうつむいて、


涙を必死でこらえた。




泣いたって、


何も変わらない。




こんな幸せが、 


一生続くはずは無かったんだ。




私はクルス様を見つめた。




クルス様は真っすぐ歩いて来ると、



私の手を握った。




「ぃこう、


 ァミナ。」




私は少し考えて、


クルス様の手を優しく剥がした。




クルス様が


悲しい顔で私を見る。




「良いのです。クルス様。




 幸せに、なってください。」




私はそう、呟いた。


父に連れられて、


私は車に乗った。




クルス様を振り返ると


泣いてしまう気がしたから、


私はただうつむいて、



クルス様が遠くなるのを待った。




「一度はいらないと、



 言ったくせに。





 欲しくなったら、




 なんでも手をのばすのね。」



私はぽつりと呟いた。


父は私をちらりと見ただけで、



何も言ってはくれなかった。




貴方はいつも、


そうですね、お父様。

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