第24話
うららかな秋の昼下がり、山の広葉樹が紅や黄色に色づく様子を眺めながら庭のベンチに腰掛けるふたりがいる。
アニーとセバスチャンに手紙を持たせて王都へ帰還させたのが10日前のこと。そろそろ何らかの返事が届く頃合いかもしれない。
一緒に捕えたパール服飾店の店主は、引退して隠居暮らしをしている両親の元へ引き渡した。もしもまた誰かにそそのかされて悪さをすることがあれば、次は容赦しないと釘を刺してある。
パール服飾店は現在、店主代理としてトーニャが店を切り盛りしている。
客の評判も上々のようだし、そのまま彼女が店主におさまってもいいのではないかと思っている。
ゴロツキたちは、マリエル様の巨体をふたりで持ち上げた腕っぷしの強さを買って、国境警備隊の訓練を受けてみないかとスカウトした。また悪さをしないように見張っておくという意味合いもある。
手厚い衣食住が保証されている上に更生が認められれば正式隊員となり給料も支払うと持ち掛けたところ、ふたりともそれを即答で了承し、今のところ真面目に訓練に励んでいる。
きっと彼らも隊長の情の厚さに触れて更生してくれると信じたい。
ライラ様は身内が誰もいない状況で明るく振る舞い、天然っぷりを思う存分発揮してマリエル様だけでなくモンザーク家の全ての使用人や国境警備隊の隊員たちのハートを鷲掴みにしてしまった。
みな口々に「ライラ様は天使だ」と囁いているが、その通りだと思う。
しかし実際は、不安や寂しさがあるに違いない。
そんなライラ様のことを思いやってか、マリエル様は多くの時間をライラ様と共に過ごしている。
「そうだ! これ、頂いたクローバーであつらえたペンダントですのよ」
ライラ様が胸元のペンダントを持ち上げてマリエル様に見せた。透明な樹脂で固められた立体的なペンダントヘッドの中心には四葉のクローバーが埋め込まれている。
「可愛らしいな」
マリエル様が目を細めて微笑む。
「でしょう? 素敵な贈り物をありがとうございます」
「いや、可愛らしいと言ったのは……ライラ嬢の笑顔のことだ」
「まあっ♡」
我が主は、正気を保つためにこっそり腰のあたりをつねるという技をここ数日で身に着けた。
そして、むずがゆくなるような甘い言葉を――いや、マリエル様にとってはただ正直に本心を話しているだけなのだが――ストレートにライラ様に伝えるという技まで身に着け始めている。素直でまっすぐな性格なだけあって、伸びしろも成長も凄まじい。
「マリエル様? わたくしのことはどうぞ『ライラ』とお呼びください」
「ではそちらも『マリエル』と」
「マ……マリエル」
「ライラ」
名前を呼び合うだけで真っ赤になる初々しいふたりから目をそらし、高い空を遠い目で見上げる。
一体我々は何を見せられているんだろうか。
隣に立つ隊員にチラリと目を向ければ、砂糖の塊を無理やり口に突っ込まれたような顔をしていた。
こちらも同じだ。
もう甘ったるくてかなわない。
今宵の酒の肴はうんとスパイシーにしようと誓った。
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