第21話

「むしろ嬉しいです。だって、わたくしたち来年には結婚して夫婦になるのですから、その前に多少のスキンシップで仲良くなっておいても誰も咎めたりしませんわ」

 ライラ様が恥じらいながらもはっきりとそう言うと、マリエル様は胸を押さえ始めた。

「結婚して……夫婦に……」


 いかん、またヤバい雰囲気だ。

 レモン水を飲むよう促そうと思ったら、マリエル様本人もここで死ぬわけにはいかないと思ったのだろう、グラスを一気に呷った。

「ゴフッ! ゲホッ!」

 そしてむせた。


 慌てて甲斐甲斐しくマリエル様の背中をさするライラ様は、心配しつつもとても嬉しそうに笑っている。

「マリエル様の背中はとても大きいんですのね! どうしていつも王都にいらした時にかくれんぼなさっていたのですか? お体が大きすぎていつもはみ出していらっしゃいましたけど」


 …………。

 つまり、柱の陰からこっそりライラ様を窺っていたのがバレバレだったというわけか。

 確かにこの巨体が隠れられるはずもないことはわかっていたが、こちらとしてはボス猿が婚約者であることにライラ様は気づいていない前提だったため、その姿に気づいたとしても大男が何かコソコソしているとしか思わないだろうと踏んでいたのだ。


「それは……」

 マリエル様が言い淀む様子を見て、ライラ様がハッと何かに気づいたように大きく目を開いて両手で口元を覆った。

「まさか……」


 ストーカーしていましたと正直に頭を下げるしかないだろう。

 そう覚悟した時、ライラ様がポンとかわいらしく手を叩いた。

「かくれんぼの鬼は、わたくしだったのですか!?」


 は?


「では、わたくしのほうから駆け寄って行って『みーつけた!』と言えばよかったんですね!?」

「くっ……」

 もったいないことをしたと悔しがるライラ様のあまりの可愛らしさに激しく悶えるマリエル様だ。

 

 ライラ様が敵国の刺客だったら何度殺されているかわからないな――そんなことを思って口元を緩ませながら、メイドに空のグラスを渡し同じものをピッチャーに入れて持ってくるようお願いしたのだった。


 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る